第八話 イケるだろこれ! ありがとうクロエ! さすが聖騎士、さすが元店長!
俺が店長になってから36日目のアイヲンモール異世界店。
俺は、まだ営業してないアイヲンモール異世界店の二階にいた。
営業時間を迎えてないわけじゃない。
従業員も在庫も足りなくて、まだお客さまに開放してない空間だ。
「ひさしぶりに店に帰ってきた気がするなあ」
一昨日から昨日はダンジョン『旧市街地下墳墓』、昨日からさっきまでダンジョン『石化の森』。
最寄りの街や港町、双龍島への出張はあったけど、何日も剣と魔法のファンタジーらしい空間にいたのは初めてだ。
そういえば外で寝るのも初めてだった気がする。
「うん、ダンジョンも野営も、やっぱり必要なことだったと思う。話に聞くだけじゃ実感できないよなあ」
アイヲンモール異世界店の二階は、いくつかのスペースに分かれている。
いまでは従業員用食堂と化しつつあるフードコート、がら空きのテナントスペース。
それに、大型家具・家電・衣料品・日用品を販売する「アイヲンスタイル」だ。
場所で言うと営業してるアイヲンスーパー部門の上を、俺は一人歩いていた。
並べられている商品に手を触れる。
「布団、は持ってったらかさばるからイマイチ。カゴ台車三台分の〈小規模転移ゲート〉じゃあんまり入荷できないし」
寝具コーナーは、販売するにはしんどいだろう。
売り切りなら売れそうだけど、毛布も布団も敷布団も枕も、かさばるから何点かしか入荷できない。
あるとしたら、半年に一回人も物も移動できる大規模ゲートが繋がった時だろうか。
その時に大量入荷すれば売上は伸ばしていけそうな、あ、けどそもそも俺もアイヲンモール異世界店もどうなるかわからないわ。
その前に月間売上一億円を達成しないと存続が危ういわけで。
ぶらぶら歩きながら考える。
冒険者さんが欲しがって、継続的に販売できる商品。
この世界にある商品でも、便利だったり高品質だったりすれば売れるだろう。
もしくは、この世界にないけど売れそうなもの。
いくつか思い浮かぶけど決め手はない。
「はあ。俺がやり手アイヲン社員かエリートか、経験豊富で海外赴任経験もあるアイヲン社員だったら迷わなかったのかなあ」
アイヲンモール異世界店に赴任してから一ヶ月ちょい。
ドラゴンセールの日は月間売上目標を日に均した334万円をクリアしたけど、セール以外で超えたことはない。
俺じゃなければもっと売り伸ばせたんじゃないだろうか。
アイヲン社員には優秀な人が多いわけで……。
ため息をついてうつむく。
と、地面からひょっこり黒いモヤが顔を出していた。
「おわっ!?」
すうっと上半身? が出てきて手を振られた。
「びっくりした。ほんとびっくりした。昼間でもそういう登場やめてほしい」
床を完全に抜け出したゴーストが、ふよふよと俺のまわりを漂う。
「あー、アンナさんに言い聞かされてない新人さんかな?……違うな」
正解! とばかりに動きがひょこひょこ速くなる。
わかった。
ちょっと遠慮がないこの感じで、きぐるみにインしてないゴースト。
「一緒に『旧市街地下墳墓』に行ったゴーストだろ? ああ、ゴーストじゃなくてレイスだっけ」
聞くと、ゴーストはびくっと動きを止めた。
黒いモヤの輪郭がふにょふにょあやふやになる。
喜んでるのかな?
「ナ、ナオヤはゴーストを見分けられるのか!? 人族なのに!?」
「なんとなくな。お疲れクロエ、下は大丈夫なのか?」
「う、うむ、お客さまが少ない時間なのでいまのうちにお昼休憩を取ろうと思ってな。……なんとなくで見分けられるようなものではないのだが……」
ゴーストとの交流? をクロエに見られてたらしい。
なんだろ、なぜかちょっと恥ずかしい。
けど独り言は聞かれてなかったはずだ。たぶん。
「ゴーストを見分けられる。エルフやドラゴンやリッチ、ゴーストにスケルトンを受け入れられる。そのうえで売上を伸ばせる。ナオヤは、私たちにとって理想のアイヲン社員だぞ? 自信を持つといい!」
「はい聞かれてました! ゴーストとの交流を見られてたとか比較にならないぐらい恥ずかしいです!」
「それで、ナオヤは何をしているのだ? 寝具を手に……ま、まさかナオヤは!? ここで私を押し倒して『自ら寝具のある場所に来るってそういうことだろ?』などとのたまいッ! くっ、殺せ!」
「あーうん、クロエはこういうんじゃないと。次に売り出す商品を何にするか、悩んでたところでな」
「おおっ! そのためのダンジョン行脚だったな!」
「ああ。けどなあ、良さそうな商品はあるんだけど、いまいち決めきれなくて」
「ぜんぶ売ればいいのではないか?」
「……え? いや、けど売り切れたら日本からの入荷が難しいかさばる商品も」
「売り切れでいいのではないか? 同じ商品がある方がめずらしいぞ?」
「そっか、だいたい手作りだから。売り切りスタイルでぜんぶ売る。売れ行きを見て発注かけて〈小規模転移ゲート〉で入荷する。でも品数を増やしすぎたらいまの従業員数じゃ、商品知識も教え込まないとだし」
「ナオヤ?」
「POPで説明すればイケるか? 待て待てこっちの識字率は、だったら実演販売スタイルにして、繰り返しじゃなくどんどん違う商品を説明していけば」
「う、うむ。心配はいらないぞゴースト。ナオヤは時々こうなるんだ」
ゴーストは俺から離れてクロエにまとわりついた。
気にしてる余裕はない。
「ナオヤ、私はお昼を食べに行ってくるからな!」
「よし、イケる、イケるだろこれ! ありがとうクロエ! さすが聖騎士、さすが元店長! アドバイスほんとありがとう!」
離れていくクロエに声をかける。
「なっ!? ナオヤが私を褒め……ッ!? そ、そんな褒め言葉でなびくほどエルフは軽くないのだぞッ! くっ、なんだこれは、ダメだ離れなければ!」
クロエはわたわたして顔を赤くして、だーっと走り去っていった。
「そうだ。日本と同じ販売スタイルじゃなくていいんだ。むしろちゃんと現地ナイズしないと。ローカライズしないと。よし、よし」
先が見えた、気がする。
月間売上一億円にはまだ遠いし、やってみないとわからないけど。
「待ってろお客さま! 新商品攻勢でワクワクしていただくからな!」
ぐっと拳を掲げる。
と、クロエについて行ったはずのゴーストは戻ってきてて、一緒に腕? らしきものを突き上げた。
がんばろう、ってそのままの姿でお客さまの前に出すわけにはいかないけどな! 裏方よろしくお願いします!
俺が店長になってから36日目のアイヲンモール異世界店。
俺はようやくこの世界に馴染んできたのかもしれない。
アイヲン社員としてこだわりたいところも、こだわるべきところもあるけど、ローカライズした方がいいところはたくさんある。
あらためて、洗い出そう。
36日目にしていまさらだけどな!
やらないより、遅くてもやった方がいいってことで!





