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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十一章 従業員用アパートが完成しました! 人が先か商品が先か、それが問題だ』
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第五話 売れますとも! これがあればどれだけ行商が楽になったか! 荷がどれほど軽くなったか!


 俺が店長になってから32日目のアイヲンモール異世界店。

 閉店後に家具選びを終えた俺たちは、三階から従業員用アパートに向かった。


 俺、犬系獣人のコレットとファンシーヌさん母娘、行商人さん一家。

 三世帯分の新居の家具はけっこうな量になった。

 選ぶたびにスケルトンたちが運んでくれてたけど、最終的には俺たちもカゴ台車を押してお引っ越しだ。


 店内や外周の通路はともかく、従業員用アパート前の舗装されてない地面はどうしようかなあ、多少ガタガタしても行くしかないよなあ、と思ったところで。


「……運ぶ」


 バルベラが、ひょいっとカゴ台車を持ち上げた。

 家具を満載してるのに、軽々と。


「おおー、あいかわらずすごいなバルベラ」


 俺の声が聞こえたのか、得意げに尻尾が振られて、尻尾の先の火もボッと燃え盛る。


「『すごいな』じゃないですよ店長さん! なんですかあれは!」


「行商人さん? カゴ台車はずっと使ってて、見かけてますよね?」


「そっちじゃないです! 箱! あの箱の方です!」


「箱……?」


 首をかしげる。

 キョロキョロするけど、解説してくれそうなアンナさんはいない。

 察せるか怪しいけどクロエもいない。

 バルベラはとことこ荷物を運んでくれてる。


 行商人さんがずいっと近づいてきた。


「軽くて小さく折りたためて、けれど梱包に必要な最低限の頑丈さはある、あの薄茶色の箱です!」


「ああ、段ボールのことですか。そういえば売り場では使ってませんでしたっけ」


「だんぼーる! だんぼーると言うんですね! 店長さん、あれを売っていただけませんか!?」


「え? 個人で使う程度の量でしたら、持っていって構いませんけど。日本のアイヲンモールでも『購入物の持ち帰りに使うなら』無料でお渡ししてましたし」


「持っていって構わない!? 無料!?」


 行商人さんがのけぞる。

 大きすぎるリアクションに、俺も気づいた。


「そういえば、こっちでは包材って木箱か布袋ぐらいしかないんでしたっけ。……ひょっとして、段ボールって売れます?」


「売れますとも! これがあればどれだけ行商が楽になったか! 荷がどれほど軽くなったか!」


「そっか、行商人さんは馬車に荷物を積んで、街や村に運ぶのが仕事でしたもんね」


「そうです! 《アイテムポーチ》は魔道具のため高価でとても手が出ず、けれどこれなら!」


「段ボール。段ボールかあ」


 見つめる先で、バルベラは従業員用アパートの玄関ホールにカゴ台車を置いた。

 スケルトンが扉を開けてくれたらしい。助かります。

 バルベラに頷いてやると、カゴ台車から段ボールをいくつか手にして歩いていった。

 どれも、家具が梱包された重いヤツなんだけど……まあいまさらだ。


「日本の梱包資材はレベル高いって言うしなあ。ちなみに行商人さん、ならこれはどうですか?」


 いつも身につけてる小さなポーチを漁る。

 お目当のものはちゃんと中に入っていた。


「こっちはロゴ入りのビニール袋で、こっちはマイバッグです」


 ガサガサ音を立ててビニール袋を、それにマイバッグを取り出す。

 ちなみにビニール袋はお客さま用で、マイバッグは私物だ。


 行商人さんが目を丸くして手に取ったのは、ビニール袋の方だった。


「これは……? 不思議な質感ですが……」


「広げるとこんな感じになります」


「広げ……? おおっ!」


 小さく畳まれたビニール袋を見ても、行商人さんはなんだかわからなかったらしい。

 手を貸して口を開く。

 さっと空気を含ませて広げる。


「ア、アイヲンモールには、こ、こんな軽い、薄い、袋が? けれどお高い、ですよね?」


「最近は無料じゃなくなりまして。このサイズだと3円ですね」


「さっ、さんエン!? けれど使い捨て、でしょうか?」


「多少は使いまわせますよ。あんまり使いすぎると穴空いちゃいますけど」


「その値段であれば行商人や商人、いや、冒険者こそ欲しがるかもしれません、いっそ値付けを変えて」


「ああ、あとビニール袋にはもう一つ特徴があってですね。水を弾きます」


「…………は?」


「穴が空きやすいんで水袋にはなりません。ああ、でも、東南アジアあたりではジュースを入れて売ってるって聞いたことあるなあ」


「水を、はじき……? さんエンで……?」


 行商人さんの目が輝く。

 というかギラつく。

 にじり寄ってくる。近い。


「店長さん! これですよ! これを売りましょう!」


「はあ」


「かさばらず丈夫で軽く水に強い! 行商人に冒険者、こぞって買っていくことでしょう!」


「まあ、段ボールもビニール袋も、日本のアイヲンモールでもいちおう売ってはいるんですけど……」


「『だんぼーる』も売れます! くっ、私がまだ行商ルートを持っていれば!」


「基本は梱包資材なんですよねえ。それ目当てで買おうと思ったらアイヲンモールよりホームセンターに行くような商品で……」


「革命です! 端切れを使ってもそこそこの値段がする布袋より安く! 木箱よりも軽く安く! 革命が起きますよこれは!」


 上がっていく行商人さんのテンションとは裏腹に、俺のテンションは落ちていく。

 たしかに、この世界の布袋やら木箱やらと比べたら、ビニール袋や段ボールはストロングポイントがあるだろう。

 そりゃ弱いところもあるけども。頑丈さとか。


 けど、それよりも。


「『()』から『()』まですべてが揃って、『(アイ)』がある。でもやっぱり、メインはビニール袋や段ボールの中に入れる商品を売りたいよなあ」


「なんとぉ!? 売らないのですか!? なんなら私が昔のツテを使ってまとめ売りしますよ!?」


「……月間売上目標一億円の、期限が迫って届きそうになかったら考えます」


「そう、ですか。店長さんがそう決めるのであれば……」


 梱包資材じゃなくて、梱包される側の商品を売りたい。

 段ボールはともかく、ビニール袋はかさばらないから《小規模転移ゲート》でもけっこうな数を持ち込めるだろうけど。


 これは、俺のワガママだ。


「けど、ありがとうございます行商人さん。おかげで、いざって時の売りモノが見つかりました。また何かあったら教えてくださいね」


 まあ背に腹を変えられなくなったら売るけども!

 売上目標を達成できなくて、アイヲンモール異世界店を国に接収されたら還れなくなるからね!

 保険ができたって意味ではありがたいです!


「……もっと運ぶ?」


 心を落ち着けた俺を、バルベラが下から覗き込んでくる。

 あ、ぜんぶ部屋まで運んでくれたんですね。ありがとうございまぁす。




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― 新着の感想 ―
[良い点] シナリオ、キャラクター、設定。楽しいですよね。 [気になる点] 話の畳み方。 これ、ご都合無しで畳めるんですかね。 作者さまの才能に期待いたします。 [一言] 自然に還らないものは持ち込ま…
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