第四話 ななななんだとッ!? ここにあるものを自由に持っていっていい!? 正気かナオヤ!?
「ななななんだとッ!? ここにあるものを自由に持っていっていい!? 正気かナオヤ!?」
「まあこれは展示品だし、貸すだけだしな。ただ必ず、使ってみた意見や感想を聞かせてほしい」
「なるほど、これを『ふとっぱら』と言うのですね。脂肪がつくほどたくさん食べられる財力を示しているのでしょうか。ナオヤさんのお腹は薄そうですが、ひょっとして」
「やめてくださいその言葉は腹まわりが気になってきた俺に効きます。メタボじゃないんで。こっち来てから健康的な生活を送ってますんで」
「……おいしい?」
「これは家具だからな、食べられないぞ。あと俺のお腹も食べられないぞ」
俺が店長になってから32日目のアイヲンモール異世界店。
今日の営業を終えた俺は、従業員を連れてまだ営業してない三階に来ていた。
テナントスペースの三階じゃない。
「わあ! すごいね、きれいだねおかーさん!」
「ええ、本当に。ここは夢の国なのでしょうか。ひょっとして私はすでに死に、天国にいるのでしょうか。このような夢を見られるのであればアンデッドも悪くありません」
「やめてくださいちゃんと生きてます。これは現実です」
「おお……木材も金具も素晴らしい精度です! ナオヤさんは良い職人さんをご存じなのですね!」
「職人さん、なのか? たぶん工場生産だよなあ。その辺は聞かないでください行商人さん」
インテリアと家電が並ぶ、アイヲンの三階だ。
「ナオヤ、次の目玉はコレなのか!? きっと飛ぶように売れるぞ!」
「難しいだろうな。在庫も数ないし、『小規模転移ゲート』が二週間から一ヶ月に一度つながるって言っても、カゴ台車三台分じゃ仕入れもたかが知れてる」
「ああ、では御使様——ナオヤさんは、ご好意で私たちに家具をお貸しくださるのですね……コレット、今夜も祈りを捧げましょう」
「言い直せてませんねえ。やめてください、打算もあるんで」
「打算、ですか?」
「はい。大型家具は販売できなくても、従業員用アパートで生活するみんなを見れば、欲しがる物を見れば、この世界の人のニーズに気づけるかもしれませんから」
「おおっ! さすがナオヤだ! アイヲンモールの店長はいろいろ考えているのだな!」
「ふふ、クロエさん。そうは言いながらも、ナオヤさんのご好意だと思いますよ。こちらでは家具は高級品です。まして新品の家具など……」
「まあ、展示品を誰にも見せず眠らせるよりは、使ってもらった方がいいでしょう」
それに、こっちの人の生活を見たいってのも、欲しがる物を知りたいってのも本当だ。
俺がまだ発見できてない「人気商品」も三階に眠ってるかもしれない。
俺、クロエ、アンナさん、バルベラ。
コレット、ファンシーヌさん、行商人さん一家。
ひさしぶりに明かりをつけたアイヲン三階は、9人がわらわらと商品を見ても、まだがらんとしてもの寂しい感じだった。
「ナオヤさん、これはなんですか? あちらの世界の文字が並んでいるようですが……」
「ああ、これは電子辞書です。知りたい言葉を入力すると、意味が出たり訳してくれたりするんですよ」
「わあ! その、家具ではありませんが、これをお借りしてもいいですか!?」
「こっちの世界の言葉には対応してませんよ?って、アンナさん独学で日本語わかるようになったんでしたっけ。ええ、いいですよ」
「ありがとうございますナオヤさん!」
「アンナさん、こっちなら充電式のバッテリータイプですよ。アイヲンは電気通ってますからね、使うならこっちの方が」
棚にくくりつけられたコードを外して、充電ケーブルごとアンナさんに渡す。
アンナさんは満面の笑みで電子辞書を受け取った。
そのうち英語やドイツ語までマスターしそうだ。
……医学と薬学の専門書を伊織さんに発注した方がいいだろうか。
アンナさんは、その後も家電コーナーを興味津々でまわっていった。
アイヲンモール異世界店は電気通じてるから使えるけど、一般向けには売れないんだよなあ。
うん、普通に言ってるけど『アイヲンモール異世界店は電気通じてる』ってなんだ。
とても便利です。
「わあ! 広いベッドだねおかーさん! 二人でも余っちゃいそう!」
「ふふ、そうねコレット。けれど、狭い寝具でくっついた方が暖かいんじゃないかしら?」
コレットはダブルベッドを前に、尻尾をパタパタ振ってうれしそうだ。
けど、母親のファンシーヌさんは大きなベッドには惹かれないらしい。
遠慮じゃないと思いたい。
まだ暖炉は使ってないけど、煙突を通る熱で二階の寝室も充分暖かくなるって話だし。
「二人でも余るほど広いベッド、だと……? ま、まさかナオヤは! 自室にこのようなベッドを入れて! 『どんな体勢でも思いのままだなあ』などと私を辱めッ! くっ、殺せ!」
「なあクロエ、そもそも俺の部屋に来なけりゃいいんじゃないか? 妄想のスタート地点がおかしくないか?」
頬を赤らめたクロエに俺の言葉は届かない。
恥ずかしくなったのか、だだっと走って去っていった。
まあクロエは従業員用アパートに住むわけじゃないんでよしとしよう。
「俺は家具を買い換えようかなあ。倍近く上がった給料の使い道もないし」
俺はいままで、暮らしてた離れから勝手に持ち込まれた家具一式を使ってた。
従業員にはサンプルとして貸し出して、俺は普通に買い揃えようと思い立った。
なにしろ新居の一階は土間で、土足で生活することになる。
「それに、アイヲンモール異世界店とは関係ないこっちの世界の人を招くかもしれないし。その時におかしなものがあったら大変だし」
自分に言い聞かせる俺、谷口直也24歳独身彼女なし。
ちょっとぐらい夢を見ちゃっても仕方ないだろう。
こっちに来てから従業員とお客さまとしか話してない気がするけど、いつ何があるかわからないからね。
「よーし、そうと決まったら奮発して! 憧れだったソファとか、L字ワークデスクとか、ちょっといいワークチェアとか買っちゃうか!……あったかな」
家具を見ては驚いたり喜んだり首をかしげたりする従業員とその家族と一緒に、俺もアイヲン三階の家具家電売り場をまわった。
購入や貸し出しを決めたものは、次々にスケルトンが運んでくれる。いつもありがとうございます。お疲れさまでーす。
ちなみに、ソファもL字デスクもちょっとお高いワークチェアも、ぜんぶありました。
従業員たちが欲しがった家具も一通りありました。
さすがアイヲン、「『あ』から『ん』まですべてが揃って、『愛』がある」だけある!
……従業員用アパートに設置する分の蛇口やシャワーヘッドや便器の予備まであったわけで。
これやっぱり、人事部の伊織はこうなることを見越して予備を用意してたんじゃないでしょうかねえ。
ちゃんと言っておいて欲しかったです! いや助かるけども!





