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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十章 いまの売上の中心であるスーパー部門を充実させます!……お魚、食べたいし』
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第三十四話 飲みたい気持ちはわかるけど、これが毎日になったらちょっとな。飲酒は禁止で、販売するなら持ち帰りオンリーにするか


「うう……水……」

「くそっもう朝か。もうちょい寝かしといてくれ」

「うっせえ静かにしろ頭いてえ」


「うわあ。死屍累々ってヤツか……何があった? まあ薄々わかってるけども」


「おはようナオヤ! 今日はいい天気だな!」


「おはようございます。クロエは元気みたいだな」


「ふふ、私たちはお酒を飲みませんでしたから。おはようございますナオヤさん」


「アンナさんもおはようございます。はあ、朝から大惨事かあ……」


 俺が店長になってから29日目のアイヲンモール異世界店。

 営業時間前なのに、イートインスペースすぐそばの駐車場には何人もの冒険者が転がっていた。

 昨日、街に帰らずに野営した人たちだ。

 冒険者たちは朝からうんうんうなってのたうちまわってる。

 昨日の夕方に野営の許可を求められて、仕方なくOKを出したのは俺だけど……。


「これ、やっぱお酒の販売はしない方がよさそうだな。お客さまが持ち込んだ酒でこれじゃあなあ」


「……パパのせい」


「そうよ。アナタが調子に乗って、港町名物『ドラゴンころし』なんて飲ませるから」


「むっ、だ、だが我はピンピンしてるぞ? 我のせいではなく、酒に弱いニンゲンのせいではないか?」


「……ごめんなさいして」


「くっ……す、すまぬニンゲンどもよ! まさかあの程度で酔うとは思わなかったのだ!」


「いいっす、飲んだ俺たちが悪いんす」

「そうですだから大声をやめてください」

「むしろタダ酒飲ませてもらってすみませんなんか高い酒だったみたいで」

「頭いてえ……」


 めずらしい魚料理や、炙った干物に、持ち込みならって飲酒をOKしたのは俺だ。

 そこにモンスターの襲来と撃退、解体からの振る舞いが重なって、冒険者たちの宴がはじまった。

 さらにバルベラパパが、港町でもらったお酒を提供。

 飲み比べがはじまってこうなった、と。


「飲みたい気持ちはわかるけど、これが毎日になったらちょっとな。飲酒は禁止で、販売するなら持ち帰りオンリーにするか」


 お酒は嗜好品だ。

 めずらしいもの、ここでしか買えないものなら高値で販売できるだろう。

 アイヲンモール異世界店で取り扱うことを考えてもいいかもしれない。

 こうなるのが嫌で、いままでアイヲンモール異世界店では売らなかったけど。


「ナオヤさん、営業時間前ですが、二日酔いの薬を販売してもいいですか?」


「お願いします。あ、ちょっと待ってください。だったら売りたいものがあるんで」


「売りたいもの、ですか?」


「はい。日本じゃ二日酔いに効くって言われてるんです」


 首をかしげるアンナさんを置いて店舗内に戻る。

 スーパーエリアをまっすぐ抜けて調理場に入る。

 明日に迫ったドラゴンセールに向けて仕込みに励むエプロン付きスケルトンのみなさんに挨拶する。お疲れさまでーす。


 魔石コンロに火をつける。

 温まるまでの間にスケルトンが作ったビーフシチューとブイヤベースを味見する。

 うん、うまくできてると思います。いつもありがとうございます。


 スケルトンに協力してもらって、温まったスープを()す。

 本当は中身ごと提供するものだけど、反応を見たらこのほうがいいだろう。

 陶器の深皿によそって、ワゴンいっぱいに乗せる。

 火を消して、スケルトンにあとを任せて外に戻る。


「ナオヤさん、それは?」


「二日酔いに効く『あら汁』具材抜きバージョンです!」


「店長さん、静かに頼む」

「頭いてえ……」

「いくらだ店長さん? 効くならいくらでも払うぞ?」

「あら汁って昨日のゲテモノ料理だろ?」

「なんでもいい。治るならなんでもいい」


 俺の声に、ダウンしていた冒険者たちがのそのそ起き出す。

 いくらでも払うって言葉も聞こえたけど、今回は「試食」だ。

 見た目が悪くてイマイチ売れなかったあら汁だけど、これで受け入れられるようになったら儲けものだし。


「タダ!? ありがてえありがてえ」

「なんだこれ昨日より美味く感じる」

「ああ……体に染みる……」

「匂いも色もダメだったのにいまはイケる。なんだこれ魔法か?」

「そんな魔法はありませんよ。けれど、ええ。昨日よりも美味しい。具材はなくとも具材のコクが出たのと、体が水分と塩気を求めているのでしょう」

「二日酔いでも魔法使いはめんどくせえな」


 あら汁に、冒険者たちがゾンビのように群がる。

 「二日酔いに味噌汁」は異世界でも効くらしい。

 効いた気分になってるだけかもしれないけど。


「よし、よしよし。反応が悪かった味噌仕立てのあら汁もこれでイケそうだ。あとは……」


 ちらっとアイヲンモール異世界店の裏手、搬入口に目を向ける。

 ここからじゃ見えない。

 けど、いつ〈転移ゲート〉が繋がっても気づけるように、搬入口には着ぐるみゴーストが待機してくれてる。

 明日のドラゴンセールに間に合うかどうかは運任せ、じゃなくて魔力の波長任せだ。


 街道の先、遠く空に目を向ける。

 イグアナ、もとい、竜人族のクアーノさんは昨日の夕方、ワイバーンに乗って港町へ戻った。

 こっちは今日のうちに戻ってくるだろう。

 ちなみにワイバーンは冒険者に見られても問題ありませんでした。モンスターと討伐対象の違いがよくわかりません。


「な、なあナオヤ、私もその『あら汁』をもらっていいだろうか? はっ! 『飲みたければまず俺のを』などと——」


「朝から何を言い出してんだエロフ。ほら仕事はじめるぞ。明日はドラゴンセールなんだからな」


「ナオヤさん、今日は私も調理を手伝いますね。手は多い方がいいでしょう?」


「人手は多い方がいいですね。だからアンナさん、その幻覚? 幻? みたいな半透明の手を消してもらっていいですか? アンデッド怖い」


「……がんばる」


「うん、力仕事は任せたバルベラ。あとできればご両親のお世話も任せたい。揉めたらアイヲンどころかここら一帯が消え去るらしいんで」


「安心しなさい、ナオヤ。バルベラの新しい住処を消すわけがないわ」


「我が娘に害をなす(やから)が現れたら別だがな! その時はニンゲンを滅ぼして島に帰るのみだ!」


「スケールがデカい。月間売上一億円いかないとアイヲンモール異世界店の存続が危ないって話どころじゃない。種の存続の話になってきた」


「……パパ、ダメ」


 頭を抱える。

 バルベラは止めてくれてるしバルベラママさんは微笑んでるから、パパさんの言葉はドラゴンジョークなんだろう。きっとそうだ。そうだといいなあ。


 俺が店長になってから29日目のアイヲンモール異世界店。

 なんだかハラハラする言葉を聞き流して、今日も営業がはじまります。

 魚介のテスト販売はそこそこに、明日のドラゴンセールの下準備をしないと。


「そうだ。せっかくだし、無料送迎馬車に『鮮魚の販売はじめました』って広告つけるか。アドトラックみたいに」


 * * * * * * * * * * * * * * *


業務日報

2019年5月29日

アイヲンモール異世界店

店長/谷口直也


日間売上/1,089,000円

日間客数/229人

月間累計売上/14,128,000円

月間累計客数/4,231人


報告事項/

開店以来、はじめて二日連続で売上100万円を超えました。

明日のドラゴンセールでは、初の334万円オーバーを狙います!

それと、無事に搬入物が届きました。

ドラゴンセールに間に合った奇跡に感謝を!

ありがとう魔力の波長!

発注の修正への対応もありがとうございます伊織さん!


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