第三十三話 これ、片付けないとな。冒険者や商人は気にしてないみたいだけど、見ながら食事したいもんじゃないだろうし
「すげえ、すげえよおっさん! なんだアレ!」
「おいバカやめろ、あんな魔法使える大魔法使いだぞ、ひょっとしたら由緒正しいお貴族様かもしんねえ」
「鎧大トカゲもバジリスクも一撃って! 強すぎだろおっさん!」
「ありがとう、ありがとうございます」
「はあ。まさかダンジョンボスがダンジョンから出てくるなんてなあ」
「ほんと、何があったんだろ」
「フィールドダンジョンなんだ、凶悪なモンスターでも縄張りに入ってきたんじゃねえ?」
俺が店長になってから28日目のアイヲンモール異世界店。
ドラゴンが上空を飛行したことに驚いて、住処から出てきたらしいバジリスクと鎧大トカゲ。
三体のモンスターは、バルベラパパのブレスであっさり倒された。
直後は驚きで静かだったものの、見ていた冒険者や商人は大騒ぎだ。
「よし。ひとまず正体はバレてないみたいだな」
「……パパ、強い!」
「そうだろうそうだろう! パパの手にかかればこんな雑魚は一撃だ! パパは最強だからな!」
バルベラはキラキラと目を輝かせて父親に抱きついた。
ぴとっとくっついて、尻尾も足にからませている。それ尻尾の先の火は熱くないんですかね。平気そうですね。火龍系のドラゴンですもんね。
「は、はは、これが紅古龍のブレスか……何度見ても信じられん……もし敵対したら私は」
「大丈夫ですよクロエさん。その時は私が復活させます」
「アンナさん、それ大丈夫じゃないんですけど。復活って一回死んじゃってますけど」
ブレスの威力に、クロエと俺の顔は引きつっていた。
アンナさんも遠い目でちょっと呆然としてる。
もうしばらくそうしてたいけど、そんなわけにもいかない。
「……さて。これ、片付けないとな。冒険者や商人は気にしてないみたいだけど、見ながら食事したいもんじゃないだろうし。衛生的にもなあ」
「おおそうだ。我が原因なのだろう? では詫びとしてコレらはくれてやろう!」
「そんなこと言ってアナタ、処理するのを面倒くさがっただけでしょう?」
「……食べる?」
「うむ、名案ではないかバルベラ! さすが我が娘!」
「……ナオヤ! 美味しくなる?」
「どうかなあ。まあやってみるよ。ただ解体をどうするか、いつものみなさんにはお願いできないわけだし」
いまはまだ昼間だ。
アンデッドを働かせるわけにはいかない。
明るくても活動できるけど問題は陽光じゃなくて人目なわけで。
「あの、俺たちを追ってきたモンスターを倒してくれてありがとうございます」
「お礼になるかわかりませんけど! 俺ら、解体手伝います!」
「店長さん。小せえ手だけどよ、俺は風魔法が得意なんだ。トカゲどもの解体は任せとけ。なあに、体の構造もわかってっかんな!」
「助かりますけどなんで体の構造を知ってるんでしょうね。死生観がアレだからですかね」
そうは言っても、クアーノさんと冒険者たちの申し出はありがたい。
お言葉に甘えて、解体に協力してもらうことにした。
「ナオヤ、私も手伝うぞ! おっと、汚れてもいい服に着替えて来なくては——はっ! まさかナオヤは! 私の着替えを覗くために!」
「発想が飛びすぎだろクロエ。手伝いはありがたいけども」
「ナオヤさん、私はどうしましょうか? 解体の手伝いよりも、お料理を手伝いますか?」
「そうですね、お願いします。コレットとファンシーヌさんはそのまま接客を任せていいですか? 人手が減るんで大変だと思いますけど……」
「わたし、がんばりますっ!」
「お任せください。力尽き倒れ朽ち果てようとも、ナオヤさんの依頼を果たしてみせます」
「重い。そこまでしなくていいですからね? 近くにいますから倒れる前に声かけてくださいね?」
俺が店長になってから28日目のアイヲンモール異世界店。
モンスターが襲来しても、従業員はいつもとあんまり変わらないようです。
「はい、こちらは焼けましたよ」
「ありがとな! ところでどうだ、このあと」
「ふふ、見ての通りお仕事は終わりそうにありませんから」
手伝いを申し出てくれた冒険者たちにアルマジロっぽいモンスターとバジリスクの解体を任せながら、俺とアンナさんは並行して調理を続けてる。
なにしろ、三体だけどそれぞれ大きなモンスターだ。
処理した先からさばいていかないと、とてもじゃないけど振る舞いきれないだろう。
「うむうむ、たくさん食べるといい! こういうのをニンゲンは『迷惑料』というのだろう?」
「もうアナタったら。港町でずいぶんニンゲン慣れしたようですね」
「……まあまあ?」
「むっ、手を抜いているのではないかニンゲンよ? バルベラが満足していないぞ?」
「すみません、量があるんであんまり凝った料理は作れなくて」
バルベラはちょっと不満そうだけど、冒険者たちは喜んでくれている。
行商人なんかは鎧大トカゲとバジリスクの肉は珍しいらしくテンションが高い。
「……ナオヤ」
「ん? どうしたバルベラ?」
「……お魚、食べたい」
「あーうん、肉は二種類だし焼くだけだったもんなあ。飽きてもしょうがないか。けどちょっと待って、先に肉を焼いちゃわないと」
焼肉は無料の振る舞いだし、今日はうるさく言うつもりはない。
従業員も、休憩の時に肉を食べていいことにしてる。俺が決めた。店長なんで。
バルベラはそろそろお口直しをご所望らしい。
「よかろう、ならば我が焼いてやろう! なあに、愛しき我が子のためだ、これぐらいかまわん!」
「あっちょっ」
「ふうーっ!」
止めようとしたけど間に合わなかった。
臨時のかまどで網焼きしていた肉と、横で山になってた肉塊にバルベラパパのブレスが当たる。
隣に置いてあった「価値のある素材」にも当たる。
ブレスが止んだ時。
肉だけが焼けて、バジリスクと鎧大トカゲの素材はそのままだった。
「どうだニンゲン、これでよかろう! さあバルベラのために魚介を調理するのだ!」
「ま、マジかこれ……幻想種が理不尽すぎる……」
「まあなあ、気持ちはわかるぞ店長さん。俺がお嬢に助けられた時もなあ、信じられなかったもンよ」
呆気にとられる俺の足を、竜人族のクアーノさんがぽんっと叩く。
気になってお客さまの反応をうかがう。
冒険者も商人も、目を丸くしていた。
んで歓声が上がった。
超絶技巧の魔法使いを讃える、歓声が。
「ありえないけどありなのか……あっさり受け入れてて異世界よくわからない……研修、誰か異世界コミュニケーション研修をお願いします……」
ポツリと呟く俺の声は、お客さまの盛り上がりにかき消された。
「……お魚料理、作ってくれる? 食べていい?」
バルベラは歓声さえ聞こえてないみたいだけど。
俺が店長になってから28日目のアイヲンモール異世界店。
明後日に迫る「ドラゴンセール」の前に、予定外のイベントになりました。
まあ魚介類の販売をはじめたって宣伝になったしよしとしよう。よしとする!
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業務日報
2019年5月28日
アイヲンモール異世界店
店長/谷口直也
日間売上/1,432,000円
日間客数/307人
月間累計売上/13,039,000円
月間累計客数/4,002人
報告事項/
魚介類のテスト販売をはじめました。
トラブルもありましたが、おおむね好評です!
お惣菜の売れ行きが伸びていないため、ドラゴンセールでテコ入れを行います。
とにかく搬入が間に合うことを祈ります。
魔力の波長とやらが合って魚介に合わせる調味料が入ってきますように!
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次話は11/1(金)18時更新予定です!
【宣伝】
『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン』、2巻出ます!!!
GCノベルズさまより、12月26日発売です!!!
一部ネットストアや書店さんでは予約もはじまっているようですよ、
そして、「コミックライド」さまにて連載中のコミカライズも発売されます!
『アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン! THE COMIC 1 』
こちらはライドコミックスさまから、12月26日に書籍2巻と同時発売です!
あわせてよろしくお願いします!!!
※なお、この物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません





