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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十章 いまの売上の中心であるスーパー部門を充実させます!……お魚、食べたいし』
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第三十二話 名もなき冒険者たちよ、遠慮はいらないぞ! こっちに逃げてくるといい! 聖騎士クロエがいかなるモンスターでも討伐してくれよう!


「数量限定にして正解だったか。よしよし、やっぱり魚介は売れそうだ。イケる、イケるぞ」


「店長さん、ってことは取り決め通りってことでいいんだな?」


「はい、よろしくお願いします」


「おう、んじゃちょっくら港町まで行ってくるわ。借りたコイツを魚でいっぱいにして、また明日来るからよ」


 水場のフチにいたイグアナが、くいっと首を曲げて背中を示す。

 いつもの小ぶりのリュックの上に、ポーチをくくりつけている。

 アンナさんに許可を取って貸し出した、大容量の〈アイテムポーチ〉だ。


 イグアナ、ではなく、竜人族のクアーノさんが体を揺らして水場から降りようとした、ところで止まった。

 中途半端な姿勢でへばりついたまま、くっと頭を動かす。

 アイヲンモール異世界店の土の駐車場を越えて森をじっと見つめる。


「どうかしましたか?」


「でかい魔力を感じる。店長さん、戦えないヤツは避難させた方がいいかもしんねえ」


「え? 魔力? モンスター、でしょうか。けど森の中には警備もいて」


 クアーノさんの視線の先を見る。

 いつもと変わらない森で、いや、奥の方、街道側に揺れてる木があるかも。

 気がつけば、俺とクアーノさん以外の人たちも、じっと森の方に視線を向けていた。


「アンナ、どうだ?」


「止められないようです。みんなの姿を見られてもいいのでしたら、開けた場所で陣形を組んで対処できるのですが」


「……へいき」


「そうだ、止められなくても問題ない! なにしろアイヲンモール異世界店には! 私がいるのだからな!」


「ふふ、そうでしたね。では私は援護にまわります。ちゃんと、()()()()魔法で」


「あっおいクロエ。バルベラもアンナさんも」


 俺とクアーノさんの前を、クロエとバルベラとアンナさんが通り過ぎていく。

 三人はアイヲンモール異世界店横のレンガ風通路から出て、土の駐車場を進んでいく。

 クロエがいつになくキリッとしてる。

 あとアンナさん、その言い方だと「問題ある魔法」も使えそうなんですけど。それはやめてくださいお客さまが減ってしまいます。アンデッドは増えませんよね?


「やべえやべえやべえ!」

「はあ、はあ、待っ」

「待てリーダー! 人がいるぞ! このままじゃなすりつけになっちまう!」

「くそっ、逃げろお前ら! 俺たちが責任持って時間を稼ぐ!」


 駐車場の先、森の横の街道から四人の冒険者が走ってきた。

 そびえ立つアイヲンモール異世界店を見て一瞬安堵の表情を浮かべ、飲み食いする大勢のお客さまを見て顔を引きつらせる。

 四人は速度を緩めて、アイヲンモールに駆け込むことなく立ち止まった。


「え、なんで」


「攻撃したのか追われただけか、いずれにせよ、モンスターを引き連れて人里に出たら罪に問われます」


「……は? けどアンナさん、それじゃ勝てないモンスターから逃げたらマズいってことで」


「必ずしもそうとは限りません。途中でモンスターが諦めることもあります」


「冒険者が過酷すぎる。異世界ヤバい。それであの冒険者たちはイチかバチか立ち止まったんですね」


「ええ。けれど、今回はその必要はないのですけれどね」


「名もなき冒険者たちよ、遠慮はいらないぞ! こっちに逃げてくるといい! 聖騎士クロエがいかなるモンスターでも討伐してくれよう!」


 土の駐車場をさらに進んで、クロエが朗々と声を張る。

 逃げてきた冒険者たちは目を丸くして、「助かった!」「ありがとう聖騎士さま!」などと言いながらまた走りはじめた。


「けどどうしてモンスターが出てきたんでしょうね。あの人たちを見ると、勝てない相手に無謀に挑んだわけじゃなさそうですし」


「縄張りの主張はバルベラちゃんがしています。考えられるのは」


 アンナさんがチラッと後ろを振り返る。

 つられて俺も振り返る。


 そこには、平然とした顔のバルベラパパさんとバルベラママさんがいた。


「…………そういえば前もこんなことありましたねえ」


「ええ。夜間にお父様とお母様が飛来して、その翌日。タイミングも似ています」


「それじゃん。どう考えてもそれじゃん。逃げてきてくれてありがとう冒険者さん。今回は俺も一緒に飛んできたわけで。ヤバいことになるとこだった」


 空を見上げる。

 ひさしぶりにアイヲンモール異世界店近辺にモンスターが出現したのは、俺たちのせいっぽい。


 ボヤいてうめく俺をよそに、森の木々を押し倒してモンスターが飛び出してきた。

 その数、三体。


 二体は同じ姿形だ。

 高さは3メートルから4メートルぐらいで、短い四足で地面を駆けている。

 額から首の後ろ、背中や脇腹まで、硬そうな……鱗? 甲羅? で覆われている。


 (つがい)っぽい二体の間から姿を見せるのはでっかいヘビ? トカゲ? だ。

 胸のあたりはふくらんで後ろ脚だけで走ってるからニワトリっぽくも見える。

 トサカが王冠っぽい。


「デカいアルマジロに……ああ、前回見たなあのモンスター。バジリスクだっけ?」


「よ、鎧大トカゲにバジリスク、だと?」


「これは相性の悪い組み合わせですね」


「え? クロエ、大丈夫なんだよな? アンナさんもバルベラも、勝てるよな?」


「心配すンな店長さん。俺のせいでもあるんだ、囮役は任せとけ! きっちり気を引いてやンよ! クソトカゲの好きにはさせねえ!」


「系統違いますもんね。いやそういう話じゃなくて。なんかここのところ爬虫類多いなって思ったわけでもなくて」


 顔をしかめたクロエと、微笑みが消えたアンナさんの表情に不安になる。

 背後にいたはずのクアーノさんがしゃかしゃか脚を動かして前に出る。


「俺が死んだら美味しく料理してくれよな!」


「食べませんけども! 縁起でもないこと言わないでくださいよ!」


 巨大な三体のモンスターと比べたら、竜人族のクアーノさんはちっぽけだ。なにしろ見た目はイグアナなんで。元の世界のイグアナより一回り大きいかな? ぐらいしかないんで。


「……心配ない。パパがいる」


 不安がる俺の前で、バルベラが振り返った。

 期待に満ちた目で俺のうしろを見てる。

 返事はまだ聞こえてこないけど、ボボボッ!って音と、急に気温が上がったのを感じる。


「ふぅはははははは! 任せておけバルベラ! パパが最強なところを見ておくといい!」


「これ前も聞いた気がする。今回も姿はそのままでお願いしますね。見られたら大騒ぎになっちゃうんで」


「ニンゲンとは面倒なものよなあ。だがよかろう、我は最強にして理解あるドラゴ——」


「アナタ。名乗るのもなりませんよ」


「……パパ。困る」


「う、うむ。ではこのままの姿で瞬殺してくれよう!」


 ズカズカとバルベラパパが進みでる。

 尻尾の先の炎は燃え盛っている。


 以前と同じように、バルベラパパが両手を顔の前にかざす。


「ふうーッ!」


 勢いよく息を吐くと、バルベラパパの口から、光の線が吐き出された。

 望んだ結果を引き起こすドラゴンブレスの、熱線バージョンだ。


 熱線のブレスがモンスターに当たる。

 硬い鱗? 甲羅? 板? に守られた鎧大トカゲがスパッと切れる。

 あっさり一体()られて瞬時に丸まった二体目も、防御などものともせず分断される。


 ジャンプしてかわしたバジリスクにも、追尾した熱線が当たる。

 地上に落ちた時、バジリスクは斜めにズレた。

 ついでに森の木々の上部も一部切れ落ちた。


 どしゃっと音がして、三体の巨大モンスターの亡骸が土の駐車場にぶちまけられる。

 俺も、アイヲンモール異世界店に来店されてたお客さまも、声が出ない。


「ふははははッ! どうだバルベラ! パパの手にかかればこんな雑魚は一撃だ! パパはすごいだろう? 最強だろう?」


「……うん。パパ強い!」



 俺が店長になってから28日目のアイヲンモール異世界店。

 バルベラの両親の飛来は、前回同様、パニックになったモンスターの襲来を招いたようです。

 しかも今回は俺も一緒に飛んできたわけで。

 あっさり倒せてよかった。犠牲が出なくてよかった。

 これ、ワイバーンとクアーノさんが飛んでくる分には大丈夫なんだよね?……あとでアンナさんに相談しておこうっと。




次話は10/25(金)18時更新予定です!


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※なお、この物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません

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