第二十六話 さあニンゲン、どれでも好きなヤツを貸してやろう!
「どうです? 『上手に焼けましたー』か?」
「うむっ、美味いこと間違いなしだッ! む、いま言い方がおかしくなかったかニンゲンよ」
「気にしないでください、紅古龍さん。特に意味はありません」
「そ、そうか? ならいいのだが」
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから27日目。
バルベラの両親と、イグアナたち竜人族が暮らす双龍島の浜辺で、俺はなぜか料理に励んでいた。
イグアナいわく「港町からアイヲンモール異世界店までの足」を確保するためらしいけど、いまだによくわかっていない。
ドラゴンであるバルベラやパパさんママさんの飛行だと、目撃されたら大騒ぎになるらしいし。
湾内の向こう、切り立った崖がぐるりと囲む島の外周に目を向ける。
ぎゃーぎゃー鳴きながら飛びまわるワイバーンの群れが見える。
うん、なんとなく嫌な予感がする。
尻尾に毒があって俺が異世界に来た最初の朝に、空でドッグファイトかまして火を吹く鳥を仕留めたワイバーンが大量にいるのかあ……。
「……割る?」
ぼんやり考えてると、バルベラが木槌を掲げて聞いてきた。尻尾がゆらゆら揺れて、尻尾の先の火はボッボッとリズミカルに瞬いている。
俺が調理してバルベラパパさんがブレスで焼き上げた「イッカクの塩釜焼き」。
バルベラは魚を包む塩釜を割ってみたいらしい。
「そうだな、バルベラに頼もう。中身を潰さないようにそっとな」
「……わかった。とおー」
気の抜けた掛け声をあげて、バルベラが木槌を振り下ろす。
ガコッといい音がして塩釜が割れ散った。
見えたイッカクはほかほか湯気をあげている。
「うん、いい具合に焼けてそうだ。さすがドラゴンのブレス」
「……パパ、すごい!」
「ふぅはははははっ! そうだろうそうだろう! だが一撃で粉砕するバルベラもすごかったぞ! それでこそ我が娘!」
「デレデレしすぎですよ、アナタ。あらいい香り」
「ちょっと待ってください、いま切り分けますね」
〈アイテムポーチ〉から包丁を取り出して、イッカクを切っていく。
中までしっかり火が通ってる。「美味しく焼く」ことをイメージするだけで火加減の調整は完璧らしい。さすがドラゴンのブレス。意味がわからない。幻想種すごい。
「なあ店長さん、こっちはもう配っちゃっていいか?」
「アジっぽいものフライですか。……なあバルベラ、ひょっとしてこれもブレスで温められる? 焦がさないように外側はカリッと」
「……できる」
「マジかよドラゴンすげえ。オーブンいらずじゃん」
「あら、じゃあこれは私が温めてあげましょう。ふうーっ」
「むっ、そこも我がこなしてバルベラに褒められるところだったのでは!?」
「ふふ、これは小さな料理ですもの。アナタは威力の調整が苦手ではありませんか」
「……ママもすごい!」
「あーうんそうだな、二人ともすごいな。けど島までひとっ飛びだったバルベラもすごいぞ、っと、こんなもんでいいかな」
キラキラと目を輝かせるバルベラを褒める。
ぐりんと首がまわって、ひゅぼっと尻尾の火が勢いを増した。嬉しかったらしい。
イグアナたちが集めてキレイに洗ってくれた葉っぱに、塩釜焼きしたイッカクの切り身を乗せる。
俺、バルベラ、バルベラパパママの分。
ついでに、森や浜から横目でこっちをうかがってるイグアナたちの分も。全員分は無理だろうけど味見ってことで。
バルベラが運んできた切り株と倒木をテーブルがわりにして、いくつもの葉っぱが並んだ。
「よし! じゃあ第二回の試食会をはじめるか!……ドラゴンにイグアナ、アイヲンモール異世界店の客層とはずいぶん違うけど!」
宣言する。
イグアナがわらわらと寄ってくる。
バルベラがさっそくパクつく。
木のフォークを使って俺も口に放り込む。
「……おいしい!」
「おー、美味しい。アイヲンモールで作った時よりいい塩加減だ。時間をかけずにブレスでさっと焼き上げたからかなあ」
「ふははははっ! そうかそうか、パパが焼いた魚は美味しいか! くふふっ!」
「ほらほらアナタ、冷めてしまいますよ。あらほんと、美味しいわね。ニンゲンもやるものねえ」
「むっ、これは美味い! 魚は生かそのまま焼くのがいいと思っていたが、こうして食すのも美味いものだな!」
「先生、姐さん、こちらの『ふらい』も食べてみてくだせえ。黒いのをかけても白いのをかけても美味しいですぜ」
「コイツはうめぇ! さすが兄ィが連れてきたニンゲンだ!」
「うめえ、うめえよ兄ィ……」
「俺、死んだら腹かっさばいて塩で包んで焼いてもらうんだ」
「なら俺ァ衣つけて揚げてくれ! 頼んだぞニンゲン!」
「ええ……? イグアナ、じゃなかった竜人族の死生観が意味不明すぎる……」
死んだら美味しく料理してほしいと言い張るイグアナにカルチャーショックを受ける。
元の世界で受けた異文化コミュニケーション研修でもそんな文化は聞かなかったような、あれ、料理を抜きにしたら聞いたことあるな。
「まあやる気はないけども。味はどうですか、バルベラパパさん、ママさん」
「美味い! だがどちらも歯ごたえが欲しいな! これでは柔らかすぎる!」
「はあ。じゃあ骨ごと提供した方がいいのかなあ。普通の人は自分で骨を取り除けばいいんだし」
「もう、アナタったら。牙自慢のドラゴンのことは気にしないでねニンゲン、すごく美味しいわよ」
「ありがとうございまぁす。お口に合ったようでなによりです。けどお客さまの中にドラゴンはいないんだよなあ」
「……おかわり!」
「うんうん、バルベラはマイペースだな。ほら、俺の分を食べていいぞ」
骨つきのまま出すんだったら、ほぐさないで一匹丸ごと提供するか。
オーブンで焼くよりドラゴンブレスで焼く方がおいしかったし、今後はバルベラに協力してもらうか。
いろいろ考えてみるけど、けっきょく魚介類が安定して仕入れられなければ取らぬ狸のなんとやらだ。
「なあ、『足を貸してください』ってけっきょく何のことだったんだ? 言われたままに料理を振る舞ってみたけど……」
「おっといけねえ、『ふらい』に夢中になっちまった! すまねえな店長さん。それで先生、姐さん、どうでしょうか? 足を貸してもらえればコイツが定期的に食べられますぜ?」
「ふんっ、必要あるまい! コレが食べたければ我が飛んでいくまでだ! いっそ移住して我が愛し子と一緒に暮らすというのも」
「ダメですよアナタ。バルベラちゃんは『一人でがんばる』って自分で決めたんですもの」
「むう……」
「……パパ」
バルベラにジト目で見つめられて、バルベラパパさんが肩を落とす。
娘ラブが過ぎると冷たくされるのは異世界でも同じらしい。
「あの、家族の団らんも大事ですけど、それで足の方は……。そもそも足が何なのかまだ教えてもらってないんですけど」
「ふんっ、よかろう! だが定期的にニンゲンの料理を我に納めるのだぞ!」
「ふふ、ずいぶんな言いようねアナタ。ナオヤの料理が気に入ったクセに」
「はあ、それは嬉しいんですけど……けっきょく何のことだか」
「グオオオオオオオオンッ!」
「あらあら張り切っちゃって。では私も……クオオオオオオンッ!」
「あ、人化したまま咆哮できるんですね。ドラゴンすごい。幻想種が理不尽すぎる」
「は、はは……『火王龍と水妃龍』の咆哮を前に普通でいられるって店長さんは人外かよ……俺ァ
足が震えて」
バルベラパパさんとままさんが高らかに吠える。
ユニゾンに参加したいのかバルベラがうずうずしてる。
イグアナは小さなハットを取って陰に隠れてぷるぷる震えてて、樹上のイグアナがドサっと落ちる。
「それで、これが何か…………おわっ!?」
「……来た」
なんで二人で咆哮したのか、足と何か関係あるのかなーと思ってキョロキョロした、ところで。
変化に気づいた。
双龍島を造った火山と思われる山。
山肌から無数のワイバーンが飛び立つ。
ぎゃーぎゃーとわめきながらこっちに向かってくる。
海側の崖からもワイバーンの群れが飛来してくる。
空を飛ぶモンスターが、山から海から無数に。
砂を撒き散らして浜に、水飛沫をあげて波打ち際に。
ワイバーンの群れが着陸した。
「さあニンゲン、どれでも好きなヤツを貸してやろう!」
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから27日目。
港町とアイヲンモール異世界店を結ぶ「足」は、ワイバーンらしいです。
え、これ大丈夫なの? ドラゴンは騒ぎになるけどワイバーンは大丈夫なの? 空飛ぶモンスターって意味じゃ変わらなくない?





