第二十二話 さあ着陸だ! ようこそ店長さん、先生と姐さんとお嬢の故郷、そして俺たち竜人族の住処へ!
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから27日目。
まだ夜が明ける前の深夜。
俺はまた、空の上にいた。
「たびたびすみませんねえ、お嬢」
「そういえば、生身で高空って大丈夫ですか? また寒さで動けなくなったりしません?」
「ははっ、心配ありがとよ店長さん。けどほれ、寒くねえだろ?」
「そういえば確かに」
「お嬢はレッドドラゴンだからな。俺らが乗っても平気なのよ」
「あーなるほど。ドラゴン形態になると、尻尾だけじゃなくて翼や角にも火がありますもんねえ」
「おう、そういうこった! これがブルードラゴンなら俺なんてあっという間に死んじまうとこだぜ!」
「いやそこ自慢げに言われても。命が軽すぎてアンナさんレベルかよ」
俺は空の上、というか、ドラゴン形態で空を飛ぶバルベラの上にいた。
港町からアイヲンモール異世界店までの配送の足に心当たりがあるっていうイグアナも同行してる。
どっちかっていうと、俺がイグアナについていってる感じだけど。
「グオ?」
「なんでもないですよ! お嬢はすげえって話です!」
今回はアンナさんがいないから、『幻惑』の魔法は出発前にかけたきりだ。
術者不在でも数時間は保つから港町までは大丈夫らしい。
戦闘になったり着陸しなければ、だけど。
「あっ。これ帰りどうしよ」
「ま、まあなんとかなるんじゃねえか? こうして夜中に飛べば見つかることもねえって!」
「そ、そうですよね。それに見られても、ドラゴンは最強なわけで襲われたりはしないですよね?」
「おう! ちっとばかり地上が大騒ぎになるだけだな!」
「うわあダメっぽい。帰り気をつけよう……せめてアイヲンモール異世界店に直接降りるのはやめよう……」
港町まで馬車で片道約二週間、バルベラの飛行なら数時間。
だけど、魚介類の仕入れをバルベラに頼れない理由がこれだ。
幻想種のドラゴンは強い。強い分、見つかれば騒ぎになるとか。
強いドラゴンが縄張りを主張してるおかげでアイヲンモール異世界店の周辺は安全らしいけど。
「それで、輸送手段の心当たりって何ですか? バルベラやバルベラパパママじゃないですよね?」
「先生や姐さん、お嬢にゃ頼めねえって。もうすぐわかンだ、ちょいと待っててくれ」
「はあ。まあいいですけど。あ、この前アイヲンモール異世界店で見かけてから二、三日後に港町で会ったことと関係ありますかね?」
「焦んな焦んなって。けどいい読みだな、さすが店長さん」
半ば振り返ったイグアナが少し口角を上げる。渋い。渋いか?
深夜にアイヲンモール異世界店を飛び立ってから数時間。
数日続けての深夜行だけど眠気はない。
夜空は少し明るくなってきた。
進行方向の先に二つの明かりが見える。
「あれは?」
「ん? ああ、港町の灯台だな。水棲モンスターの侵入を見つけられるように、夜通し明かりで照らしてンだよ」
「なるほど。あ、じゃあそろそろ到着ですか?」
「グオン?」
「いや。お嬢、このまま島まで飛んでくだせえ!」
「島? ひょっとして港町近くの、バルベラの故郷っていう?」
「ああそうだ。頼ンますお嬢!」
「グオオオオオオンッ!」
目的地は港町じゃなくて、バルベラの故郷でバルベラパパママが暮らす「島」らしい。
ひさしぶりの里帰りがうれしいのか、バルベラが咆える。
「落ち着けバルベラ。ほら見つかったらマズいからあとでな? 島の近くなら問題ないだろうからな?」
頭、は遠くて撫でられないから背中を軽く叩く。
鱗はツルッとしててほんのり温かい。
そんなことをしている間に、バルベラは陸地を抜けて海の上に出た。
「少し明るくなってきたけど、ここまで来たら見られない、か?」
「まあ海ならニンゲンは少ねえからな」
ぼんやりと景色を眺める。
海岸線はもう背後で、視界はすっかり空と海だ。
眼下にはちらほらと小さな島が見える。
しばらく飛ぶと、小さな島も見かけなくなった。
薄明かりに照らされた海は穏やかだ。
「グオオオン!」
「お、見えましたかお嬢! ほれ店長さん、アレがお嬢の故郷だ!」
イグアナが頭をくいっと動かして前を示す。
白みはじめた空の下、海にポツンと浮かぶ島が見える。
海岸線近くにあった小さな島と違ってそこそこ大きそうだ。
外周部は切り立った崖で内側はくぼんで、一部には水が溜まってる。湖か、海水が侵入してるんだろうか。
島の中央近くには山があった。火口っぽい。
「これ、カルデラってヤツか? 火山なのかな?」
呟く俺に応える声はない。
バルベラもイグアナも、家を前にテンション上がって聞こえなかったみたいだ。
まあいまのバルベラは喋れないから応えようがないけど。
「お嬢、いつものところへお願いします!」
「グオ」
イグアナの指示に、バルベラは「わかってる」とばかりに短い鳴き声を返す。
空を飛ぶスピードが緩む。
徐々に高度も落ちる。
おかげで、島の外周の切り立った崖を飛びまわるワイバーンが見えた。
「……は? え、ちょっと待って、ワイバーン多くない? これ大丈夫なの?」
「心配いらねえって店長さん! ワイバーンがお嬢を襲うわけねえだろ!」
「そういうものなの? ワイバーンが火を吹く鳥を襲ってるの見たことあるけどドラゴンは平気なの?」
「さあ着陸だ! ようこそ店長さん、先生と姐さんとお嬢の故郷、そして俺たち竜人族の住処へ!」
「ねえ聞いてる? 俺戦えないしクロエもアンナさんもいないけどこれ大丈夫なんだよね?」
「グオオオオオオンッ!」
「そうだ俺にはバルベラがいる。幻想種のドラゴンで強いらしいバルベラがいる」
無数のワイバーンに見つめられながら、バルベラが着陸態勢に入る。
人化したら見た目10歳のバルベラに頼るのが情けない、とは思わない。実年齢は140歳でめっちゃ年上だし。
「ここが『双龍島』だ!」
「あっ、バルベラパパママが島の名前の由来になってるんですね。へえ」
自慢げに胸を張って、ふんす、と鼻息も荒いイグアナ。
バルベラは火口と水場の間にある砂地に着陸した。
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから27日目。
異世界二度目の出張は、孤島が目的地だったみたいです。
ワイバーンに襲われませんように。
留守番のみんなが無事に「ドラゴンセール」の準備を進められてますように。





