第二十一話 へえその辺は爬虫類っぽさが残ってるんだなあ。っておいいいいい! もう動けなくなっちゃってんじゃん!
「『あじふらい』に塩釜焼き、あんなうめぇ魚料理は初めて食べたぜ!」
「ありがとうございまぁす」
「……おいしかった!」
「初めて来た時もすげえ店ができたもんだと思ったけどよォ、やるなァ店長さん!」
「ありがとうございまぁす」
「……とうぜん」
俺が店長になってから26日目のアイヲンモール異世界店。
試食会を終えて、俺はイグアナに店舗を案内していた。
歩きだと目線が低いからイグアナはワゴンに乗せて、バルベラが押している。
漁港の元締めで魚介類を売ってくれたイグアナは体をくねらせて上機嫌だ。たぶん上機嫌なんだと思う。イグアナの表情なんてわからないよ……。
「ここがスーパーですね。いまは肉と野菜と一部の調味料しか販売してません」
「ほうほう。んじゃ魚を仕入れられたらココで売るってことか?」
ひゅっひゅっと首を動かして観察するイグアナ。
イグアナっぽい。なんでか喋るけど。異世界すごい。
「いやあ、魚介ですからね。冷蔵と冷凍のケースを出して、そこに並べると思いますよ。販売はあっちのレジで——」
「冷蔵と、冷凍? この店ァ魔法使いを常駐させてンのか?」
「ははっ、そうじゃなくて、そういうことができる機械があるんですよ。まあクロエとアンナさんは魔法が使えますけど。バルベラはどうなんだろ」
「……違う」
「お嬢のアレは魔法じゃなくてドラゴン特有の、じゃねえ! 待て待て待て、機械!? 冷蔵と冷凍の!?」
「ええ。ほら、肉も一部はああやって冷蔵ケースに入れて売ってます。冷凍ケースは出してないけど、バックヤードの冷凍庫で保管してますね」
「はあっ!? なんだそりゃ!?」
「……あそこ。ひやっとする」
バルベラが指差した方へイグアナが首を伸ばす。目を見開いて固まる。驚いているらしい。たぶん。
再起動したイグアナはワゴンの上からシュタッと飛び出した。
三歩空中を駆ける。
「は? 空を、飛んだ? イグアナが?」
「……風魔法」
「ああ魔法、魔法ね。へえ。こっちの世界のイグアナは少し大きくて喋れて魔法も使えるのね。すごいなあ。ははっ」
乾いた笑い声が出る。
イグアナ、もとい「竜人族」はずいぶん高性能らしい。爬虫類なのに。爬虫類なのか?
「うおおおっ、マジだ、冷てえ! すげえ、すげえな、店長さん……すげえな、アイヲン……」
角牛や突撃イノシシ、闘争鶏はお惣菜だけじゃなくてお肉の販売もしている。
けど入荷量が少ないから、冷蔵ケースは出してる半分しか使ってない。
興奮したイグアナはテンションのままに空いてるケースに飛び込んだ。
少しすると動きが遅くなる。
言葉もゆっくりになる。
ケースはあとで内側を洗浄しなきゃな、でもクロエの『浄化』だけでもいいかなあ、イグアナっぽい竜人族はやっぱり変温動物なのかなーとかのんびり思ってたところで。
「あれ? 竜人族って低温大丈夫なのか?」
「……ダメ。動けなくなる」
「へえその辺は爬虫類っぽさが残ってるんだなあ。っておいいいいい! もう動けなくなっちゃってんじゃん! 出て! ほら魔法でシャッと出て!」
「へへ……店長さん……腹ァ捌いたら、香草詰めて、あの塩釜焼き、ってヤツで、頼むぜ……」
「食べないし! あああ、イグアナってどこ持てばいいんだ、緊急事態だしどうでもいいか、冷たッ!」
「……大丈夫? ふーってする?」
「頼むバルベラ! けど店内だから軽めで! 軽めのブレスでお願いします!」
ぐったりしたイグアナをワゴンの上に乗せる。
バルベラがふーっと息を吹きかける。
息というか、細く絞った炎を吹きかける。
「あちちッ!」
「ストップ! バルベラ、ストップ! ハウス!」
と、イグアナが動き出した。
慌ててバルベラを止める。
「あぶねえあぶねえ! 丸焼きになるところだったぜ!」
「かるっ! 丸焼きの前に凍え死ぬところでしたよ!」
「いやあすまねえなあ店長さん。お嬢もありがとう。またお嬢に助けられちまったな!」
「……平気」
「ほんと気をつけてくださいね。アイヲンモール異世界店で重大事故なんて起こしたらただでさえ少ない客数がもっと……」
「すまねえなあ。腹も捌かねェで死んだらマズくって料理にもならねえよな!」
「そうそう血抜きと下処理は大事で、って笑えないです! 食べませんし売りませんから!」
死にかけて早々のブラックジョークがひどい。
軽すぎるイグアナを、バルベラもどこか呆れたようなジト目で見ている。
これひょっとして、バルベラが命の恩龍だとかいうのも自業自得だったのかも……。
「それにしてもすげえなあ。ココは冷蔵も冷凍もできンのか」
「ええまあ」
「くそっ、港にコイツがあれば卸してもいいんだけどなあ。馬車で二週間、日持ちするヤツを冷やしっぱなしならなんとかなりそうなもンだけどよ」
「うーん、電気で動いてるんで、店外への設置は無理でしょうね」
「『浄化』かけて《アイテムポーチ》に入れりゃあなんとか……干しモノはともかく、生鮮は無理だろうなァ」
ブツブツ言うイグアナを乗せたワゴンを押してレジ横に移動する。
バルベラはトコトコついてくる。さっき死にかけたイグアナが心配なんだろう。
「あとは、アイヲンモール異世界店では持ち帰り用の氷も提供してます。冷蔵品を買った方に小袋一つ分ですけど」
レジ横で稼働させている製氷機を開ける。
フタがナナメに開いて、上から氷を取り出せるタイプだ。
小さなキューブ型の氷がガシャガシャ鳴る。
「はあッ!? マジかよ……これならなんとかなる、か……? 《アイテムポーチ》に氷を詰めて……」
「ああ、そうやれば冷えるんでしたっけ。どうなってんだ魔道具……それは置いといて。それで日持ちさせても、往復一ヶ月は厳しくないですか?」
「まあなあ。馬に乗って急いだところでせいぜい三週間はかかンだろうしなあ」
「ネックはやっぱり配送か……馬以外に足はないんですかね? 見られちゃマズいバルベラとご両親は別として」
「ん?……たしかにドラゴンはまじぃけどアレなら……それには、そうか、あのうめえ料理が……」
「心当たりあるんですか? 教えてください!」
「ああ。けどちぃっと障がいはあるけどな。店長さん、覚悟はあるか?」
「はあ、まあ。なんでもはしませんけど、できることなら」
「へっ、上等上等」
イグアナは目を細めて、ケキョキョっと変な声を出した。
やっぱりこれ笑ってるらしい。
俺が店長になってから26日目のアイヲンモール異世界店。
「目標の月間売上一億円に向けて、スーパー部門を充実させる」って施策が、ようやく前に進みそうです。
頼りにしてるぞイグアナ! そういえば名前まだ聞いてませんでしたね!
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業務日報
2019年5月26日
アイヲンモール異世界店
店長/谷口直也
日間売上/443,000円
日間客数/172人
月間累計売上/11,218,000円
月間累計客数/3,541人
報告事項/
海鮮料理の試作と試食を行いました。
いくつかの料理は反応が良く、魚介を仕入れられれば販売は伸びると思われます。
また、漁港の元締めである人物は配送問題を解決する心当たりがありそうです。
ドラゴンセールの前に再度港町へ出張します。
今回は少人数で。
魚介の販売が確定したら発注を修正します。
ただし、間に合わなければ先日の発注のままでお願いします!
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