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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十章 いまの売上の中心であるスーパー部門を充実させます!……お魚、食べたいし』

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第十三話 まだ何かされたわけじゃないですしね。漁獲量が限られてるなら、信頼できない余所者をブロックするのも当然のことだと思うんです


「いやあ申し訳ねえ! おうおめえら、姐さんとお嬢の顔ぐらい覚えとけ!」


「へいっ!」

「けど兄ィ、姐さんが前に街に来たのは俺が生まれる前のことですぜ?」

「それにお嬢はまだ幼龍で、人化した姿は初めて見て……」


「うるせえわかれ!」


「その、無茶言わなくていいですから。次回から気をつければ、な、バルベラ? いいですよねバルベラママさん?」


 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから25日目。

 視察に来た港町の漁港で、俺たちは車座になって話し合っていた。


「……平気」


 俺のとりなしに、バルベラは言葉少なに同意する。

 シーサーペントの肉を食べるのに一生懸命でどうでもいいらしい。


「そうね、引き受けたのはアナタの問題だもの、ニンゲンにもトカゲにも言うことはないわ」


「ありがとうございますお嬢! 姐さん!」


 バルベラママさんの許しを得て、喋るイグアナと漁港の若い衆、それに解体場に詰めてた人たちや集まってきた漁師がへこへこ頭を下げる。ようやく笑顔がこぼれる。


「うむ、よかったなニンゲン。だがもしものことがあったら我に言うといい! 一回あたり酒樽一つ、それか布一巻きで引き受けよう!」


「アナタを許した覚えはないのだけれど?」


「すっ、すまぬ!」


 調子を取り戻したバルベラパパさんがすぐシュンとなる。

 伝説に(うた)われる火王龍は、奥様に頭が上がらないらしい。


「その辺にしてあげてください、バルベラママさん。港にはいろんな人が来ますからね、揉め事を防ぐには武力も必要だと思います」


「あら? やられそうになったのにナオヤはこのニンゲンたちをかばうのかしら?」


「まだ何かされたわけじゃないですしね。漁獲量が限られてるなら、信頼できない余所者をブロックするのも当然のことだと思うんです」


「そう。じゃあ今回は許してあげましょう」


「おお……なんと優しいドラゴンか……。おっと、とりなし感謝するぞニンゲン」


「おう、わかってんじゃねえか店長さん。くうっ、絡んだ相手にかばわれるとはねえ」


「あとバルベラへのお土産は肉か魚の方が喜ぶと思いますよ」


「……お肉がいい。パパの」


「そうかそうかバルベラはパパのお肉が好きか! よーしパパがんばっちゃうぞ! どこがいい? 尻尾か? 腕か? 心臓(ハツ)は無理だが部位によっては内臓(モツ)も」


「がんばり方が体張りすぎる。幻想種おかしい。バルベラ、いままで魚は生で食べてきたんだろ? 今度美味しい魚料理を食べさせてやるから」


 シーサーペントの生肉をもぐもぐしていたバルベラの手が止まる。

 俺を見上げてくる。目よりも尻尾の先の火の勢いで、興味津々なことがわかる。


「……ほんと? おいしい? いま食べられる?」


「あー、魚は市場(いちば)で買えばいいけど、調味料はアイヲンモール異世界店だからなあ。帰ってからな」


 少しだけ待ってほしい、とバルベラの頭を撫でる。

 くすぐったそうに目を細めるけど、バルベラの尻尾は力なく垂れ下がった。火も弱まった。


「店長さん、お嬢は食堂で魚料理を食っただろ?」


「食べたのは浜焼きとブイヤベースもどき、それにうしお汁と刺身一種だけですからね。いろいろ試作してみれば、口に合う料理はあると思いますよ」


 刺身一種、のところで集まった男たちがざわつく。

 余所モンがアレを食ったってマジか、とか言う声が聞こえてくる。

 おい。

 誰だ珍味として愛されてるって言ったヤツ。

 地元の屈強な男たちが引き気味なんですけど。


「や、やはり魚を生で食うのは一般的ではなかったのだな! くっ、エルフにして聖騎士のこの私を騙すとはッ! 責任を取ってもらうぞナオヤ!」


「言い方言い方ァ! 変な意味に聞こえるからあとで話そうなクロエ」


「ふふ、心配いりませんよクロエさん。食べる前に『浄化』をかけましたし、私のお腹を食い破ろうとする存在も感じられませんから」


「その辺わかるんですねさすがアンナさん。おかげで安心しましたさすがにちょっと不安だったんです」


「待て、待ってくれ。盛り上がってるとこ悪いんだが……店長さん、ウチらが食べたことねえ魚料理があンのか?」


「そりゃいろいろありますよ。焼き魚煮魚、干しても蒸してもいいし揚げてもいいですし……すり潰してつみれやしんじょう、かまぼこもいいですね。生に抵抗あるなら刺身はアレですけど、ルイベやカルパッチョや酢漬けオイル漬けなら衛生的にもだいぶ安全で」


 いまある調味料で作れそうな料理を、思いつくまま指折り数える。

 港の男たちが目を見開く。

 バルベラの尻尾の火が勢いを増す。バルベラパパさんの尻尾の先の炎が青くなる。

 アンナさんとバルベラママさんが微笑みを浮かべて、クロエがゴクリと唾を呑む。


「よし! 店長さん、市場(いちば)で魚介を買う必要はねえ!」


「兄ィ、まさか!」

「ズリィぞ兄ィばっかり!」

「待ってくだせえ店長さん? ここ! ここで作ってもらえねえでしょうか!」

「ええいうるせえぞお前ら! 誰が元締めだと思ってンだ!」

「横暴だー! 兄ィの暴政を許すなー!」


 イグアナの宣言でガヤガヤと外野が盛り上がる。

 よくわからない俺とクロエとアンナさんはぽかんとする。

 ドラゴン親子は揃って首をかしげる。尻尾の傾きも同じ角度だ。さすが親子。和む。


「店長さん! 俺をアイヲンモール異世界店に連れてってくれ!」


「え? ま、まあバルベラがよければ。けどなんでです? それに市場(いちば)で買う必要はないって」


「なァに簡単なことだ! 漁港と仲卸を取り仕切る俺のリュックには新鮮な魚介が入ってんだよ! コイツは〈アイテムポーチ〉だかンな!」


 イグアナが後脚でひょいっと立ち上がって胸を張る。

 体長1メートルちょっとのイグアナの背には小ぶりなリュックが背負われている。

 その小さなリュックが〈アイテムポーチ〉で、魚介が入ってるから市場で買う必要はないと。ってことはイグアナが俺たちに提供もしくは販売してくれると。なるほどなるほど。


「っておいいいいいい! イグアナが貴重な〈アイテムポーチ〉持ちって! イグアナが元締めで漁師の顔役って! イグアナが! 異世界どうなってるんですかねぇぇぇええええ!」


 俺の叫びは、青い海と空に吸い込まれていった。

 クロエもアンナさんもドラゴン親子も漁港の人たちも、きょとんとするだけで特にツッコミはない。イグアナへの違和感もないらしい。人間とは何かね。



 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから25日目。

 漁港の騒動はおさまって、とりあえず、アイヲンモール異世界店に好意的な港町の偉い人は見つけられたみたいです。

 初めての視察の結果としては上々なんだけどなんか納得いきません。異世界ヤバイ……異文化がよくわからない……。




次話は6/28(金)18時更新予定です。


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※なお、この物語はフィクションであり、実在するいかなる企業・いかなるショッピングモールとも一切関係がありません

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