第十一話 女性三人と女の子を引き連れて、魚市場と漁港をウロつく見覚えのない男か。そりゃ目立つよな
「ちっちぇえのにすげえな嬢ちゃん!」
「……子供じゃない」
「倒してくれてありがとよ! いやあ危うく逃すとこだったぜ!」
「すまん、本当は倒したヤツに素材の権利があるんだが……肉をちょっとと、ほかの魚か金で勘弁してもらえねえか?」
「……お肉。あと魚」
「ありがてえ! いやほんと申し訳ねえ。コイツはお貴族様向けのブツでなあ……」
「おう、許可もらえたんなら解体すンぞ!」
「チッ、こういう時にいねェって、若ェ衆はどこ行ってんだ役立たずめ」
「……おいしそう」
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから25日目。
加工場——おっさんたちいわく解体場——から逃げ出した巨大海蛇を倒したバルベラは、おっさんたちに囲まれている。
上半身ハダカや薄着のマッチョでコワモテなおっさんだらけでも、バルベラに怯えた様子はない。
普通に受け答え、というかむしろいつもより口数が多い気がする。
くれるっていう「シーサーペントの肉」に惹かれたらしい。
「迷惑かけてすまねえな兄ちゃん」
「兄ちゃんたちアレだろ? 魚を買いてえってウロついてた余所モンだろ?」
「あ、知られてましたか。情報まわるの早いですね」
「そりゃあお前、この辺じゃ見かけねえ顔だからな。美人さん連れてどこのお大尽だって」
「くふ、くふふふ、美人だと? むふっ、そのようなゴマスリなど私には効かない、何しろ私は誇り高きエルフなのだから、くふふふふ、美人、私が」
「顔が緩みまくってるぞクロエ。めっちゃ効いてるな誇り高きエルフ」
「ふふ、美人だなんて、ありがとうございます。お礼に永遠の命を差し上げましょうか?」
「やめてあげてくださいアンナさん。それ永遠だけど命はないヤツ。アンデッドになるヤツ」
クロエはアレだしアンナさんはアンデッドだけど、たしかに二人とも見た目は美人だ。
日焼けした人たちが多い港町では、色白な二人は目立ったはずだ。アンナさんは色白というか蒼白だけど。
見た目10歳のバルベラは美少女? 可愛らしい? し、バルベラママさんも目を引くだろう。
「女性三人と女の子を引き連れて、魚市場と漁港をウロつく見覚えのない男か。そりゃ目立つよなあ」
漁港で話しかけた漁師さんやおっさんが冷たかったのは当然かもしれない。
逆の立場だったらたぶん睨みつける。春日野の俺の家に、美女連れてきて「農作物を仕入れたい」とか言うヤツが来たら追い返して塩をまく。そのあとご近所さんに一報入れる。
横のつながりが強い場所では余所者は警戒されるのが当たり前だ。
「あれ? バルベラは故郷が近いんじゃなかったっけ? それに、いまアイヲンモール異世界店に住んでるバルベラはともかく、ママさんは地元じゃ?」
さっき魚市場まで案内してくれたわけで、バルベラママさんはちょいちょい来てるはずだ。
なのに「この辺じゃ見かけない」ってどういうことだろ、と思って振り返ると。
「おうおうおう! 俺らのシマを荒らす余所モンってのはおめえらか!」
「いいオンナを見せびらかしたって海の男はなびかねえぞ!」
「ちっとばかし痛い目見せてやんねえとなあ!」
「なぁに、オンナにゃ手ぇ出さねえから安心しろ」
「そのあと自由恋愛になっちゃうかもしんねえけどなあ!」
加工場の向こうから、ガラの悪い若い男たちがぞろぞろと歩いてきた。
手に棍棒やら角材やらを持ってる。
腰には湾曲したショートソード、カットラスってヤツ? を提げてるけど抜いてるヤツはいない。
剣呑な雰囲気に、女性陣がすっと俺の前に出た。
クロエとアンナさんだ。
バルベラママさんは気にせずスタスタ歩いていって、シーサーペントの肉を見つめるバルベラの横に並んだ。あ、娘が心配とかじゃなくて肉が気になったんすね。
「はっ、オンナに守られるとは情けねえなあ!」
「護衛の冒険者か? くくっ、俺たちの背後に誰がいるかも知らねえで、哀れなモンだ」
男たちは止まらない。
口々に言いながら俺たちを半包囲した。
「ナオヤさん、どうしましょうか」
「かーっ、護衛は大変だねえ! どうするもこうするもねえぞ?」
「おい、オンナには手を出すなよ! 押さえつけるだけにしとけ!」
「どうするって、オンナは捕まえて男をボコるんだよ!」
「まあ待て焦るなお前ら。シーサーペントを撃退したヤツらなんだ、先生に任せよう」
「穏便に。穏便にお願いします」
「はあ? いまさら穏便にすむわけねぇだろ余所モンが!」
「土足で港を荒らしやがって! 調子乗ってんじゃねえ!」
「ほんとシャレにならないんで。因縁ふっかけられても殺したり重傷負わせたら過剰防衛になるんで」
「けっ、オンナの前で命乞いたぁ情けねえ男だな!」
俺のオネガイも届かず、ガラの悪い男たちが近寄ってくる。
魔力が宿ったせいか、アンナさんのまわりに黒いオーラが出てきたのが見える。
やる気のアンナさんを見てクロエが半歩下がる。
俺の護衛を担当してくれるらしい。やったあ。じゃなくて。
「頼む止まってくれ! 命乞いしないとヤバイから!」
「はっ、安心しな、命までは取らねえからよ」
「そうそう、死ぬより痛い目に合ってもらうだけでなァ」
「なあちょっとぐらいオンナに触れちゃっても不可抗力だよなあ?」
わかってくれない。
男たちの命乞いをしてるのに届かない。
あと舐めるような目つきとセクハラ発言でアンナさんのオーラが増した。
「おいおい油断すんじゃねえ。シーサーペントに勝ったってハナシだからな」
「力に自信があるんだろうけどなあ。シマを荒らすヤツらへの手なんて用意してんだよ!」
「先生! お願いします先生!」
ガラの悪い男たち20数人が、揃ってざあっと道を開けた。
漁港を守る若い衆には用心棒がいるらしい。
振り返る男たちの視線を浴びて、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
赤茶の逆立てた短髪の男は30代ぐらいか。
180cm以上の身長で、薄い布ごしでわかるほどのマッチョだ。
ギロリと睨む目は紅く、額の横からはツノが生えている。
目が合った俺はポカンと口を開けて止まってしまった。
きっとマヌケな顔になってるだろう。
止まったのは俺だけじゃない。
クロエも、アンナさんも止まっている。
変わらないのはバルベラとバルベラママさん、二人のドラゴンだけだ。
「うむ! 約束の酒と肉を忘れるなよニンゲン!」
「もちろんです先生!」
「またたっぷり用意しておきますからね、よろしくお願いします先生!」
半包囲に戻った男たちが、揉み手をしながらヘコヘコする。
「ふん、シーサーペントなど雑魚にすぎん! 調子に乗ったニンゲンをちょちょいとするだけで愛する娘へのお土産が手にはい——」
縦長の瞳孔と目が合った。
うしろでゆったり振れる尻尾が止まった。
尻尾の先の真紅の炎がボッと燃えた。
驚いた時のバルベラと同じように。
止まった男はゆっくり視線を巡らせる。
と、シーサーペントの肉片を味見していた二人を見て固まった。
「…………パパ」
「アナタ? これはどういうことかしら?」
用心棒の顔からダラダラと汗が落ちる。
尻尾がペタンとなって火が小さくなる。
俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから25日目。
伝説に謳われる最強のドラゴンは、貢物目当てで港町の用心棒をやってたみたいです。
新規参入を目指す余所者と地元の人たちって日本の港町でもありがちなトラブルなのに、異世界はスケールが違うんだなあ。
怪獣大決戦、もとい、親子ゲンカがはじまりませんように。





