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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十章 いまの売上の中心であるスーパー部門を充実させます!……お魚、食べたいし』

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第四話 青い海、オレンジ色の屋根、海に浮かぶ漁船、遠くに停泊した帆船……すごい、地中海の観光地みたいだ。行ったことないけど


「なんだこの魔力の塊はッ! この速さは!? 逃げろナオヤ! 強(・)大(・)な(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)が来るぞ!」


「…………なんだろ、既視感がある。デジャヴュってヤツ?」



「ダメだ、間に合わんッ! ナオヤ、私の後ろへ! アンナ、本気で行くぞ! バルベラは」


 青い髪からしずくを振りまいて、クロエが俺の前に立った。

 強大なモンスターが来る方向と俺の間に。戦えない俺を守るために。


「クロエもアンナさんも強いんだろ? 余裕だよな? ねえアンナさん?」


 前に立つクロエも、俺の横のアンナさんも答えない。

 動揺する二人をよそに、スクール水着のバルベラがのんびり海から上がってきた。


「……大丈夫」


「大丈夫なものかバルベラ! バルベラがドラゴンだろうとアンナがリッチだろうと、とても敵(かな)うような魔力量ではないぞ! なんだこれはッ!?」


「ふふ、なんだかひさしぶりですね」


 焦るクロエと緊張する俺をよそに、アンナさんが警戒を解いた。


「えっバルベラ? アンナさん? なんで……そういえば似たようなことがあったような……」


 俺たちが見つめる先。

 海が割れて、「強大なモンスター」が姿を現す。

 ザバッという音とともに、海水が砂浜を流れていく。


 デカい。

 深い青の鱗は陽光を反射してキラキラ輝いてる。

 額から背中、尻尾にかけて並ぶ角? 突起? さっき見えてたのはコレらしい。

 流線型の体は海を泳ぐ時に抵抗が少ないように、だろうか。

 白く濁った瞳が俺たちを睨む。シャッと濁りが下りて、縦型の瞳孔と目が合った。瞬膜?ってヤツっぽい。

 むき出しの牙は鋭くて、俺なんて一瞬で噛みちぎられそうだ。


 ドラゴン。

 それも、バルベラよりデカくて強くてクロエいわく「敵うような魔力量ではない」強大な。


「グオオオオオオンッ!」


 空気を震わせるドラゴンの咆哮を受けて、俺はぼうっと立ち尽くした。

 バルベラよりも迫力がある。


 俺も、クロエもアンナさんも動かない。

 凍りつくような時間。


 ドラゴンはぐっと俺たちを睨みつけたまま顔を近づけてきて、わずかに口が開いて一番近いバルベラにパクッと喰いつきそうででもバルベラは手を伸ばしてドラゴンの頬にぽんっと手を置いて反対の手で俺たちを指差しドラゴンがコクッと頷いて——


「……ん。ママ」


「あらあら、ただの里帰りじゃないのね。この前ぶりね、ニンゲン」


 挨拶してきた。

 ドラゴンが。

 俺に。


「あああああああ! なんか見覚えあると思ったら! 既視感あると思ったら! バルベラのお母さま!」


「アンナもクローディーヌの娘もいるのね。どうしたのかしら?」


 俺の目の前でドラゴンがこてんと首を傾げる。

 バルベラも首を傾げる。

 仕草が似ててさすが親子、はいいけども。バルベラは俺たちが何のために来たのか知ってるはずでは? 説明してくれてもいいのでは?


 ふうっと一つ大きく息を吐いて気を落ち着かせる。

 ドラゴンに驚いたけど、この前お世話になったドラゴンなわけで。従業員のお母さまなわけで。失礼があっちゃいけない。


「お久しぶりです、バルベラママさん。へえ、成龍になればドラゴンの姿のまま喋れるんだなあ。すごいなあ」


「あいかわらず強大なドラゴンを前にしてもナオヤは冷静なのだな! 伝説の水妃龍なんだぞ!」


「身に魔力を宿して、ナオヤさんも魔力を感じられるようになったはずなのですが……ドラゴンの強さを知らないせいでしょうか」


「いやあ、バルベラママがその気になったら抵抗しようがないわけで。もう腹をくくるしかないというか。まあこっちのだいたいの人がそうなんだけど」


 クロエもアンナさんもバルベラも、それどころかスケルトンやお客さまである冒険者、戦う力があるらしい行商人さんだって、俺は勝てない。

 だったら相手がどんなに強くとも同じなわけで。

 要は「戦っても勝てない相手」に慣れたんだろう。


 ともかく。

 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから25日目。

 魚介類の仕入れと配送ルートの調査は、すんなりいかなそうです。

 俺、スーパー部門を充実させようと港町に視察に来ただけなのに。




「青い海、オレンジ色の屋根、海に浮かぶ漁船、遠くに停泊した帆船……すごい、地中海の観光地みたいだ。行ったことないけど」


 海辺での休憩を終えて、俺たちは港町に向かった。

 砂浜を出て坂を登り、崖ぞいを歩くこと一時間ほど。


 なだらかな丘の下に港町が見える。

 海は青く波は穏やかで、海岸沿いに家々が建ち並んでいる。

 外壁は白で屋根はオレンジに統一されているのは、景観を揃えたんじゃなくて手に入る建材やペンキの問題だろう。

 さすがに見た目を優先した条例はないと思う。ないんじゃないかな。


「おおっ! これは美しい景色だな! 森と泉が調和したエルフの里ほどではないが!」


「ここで対抗意識を出すのかエルフ。家出してきたんじゃないのか?」


「……ひさしぶり」


「あー、バルベラの故郷が近いんだっけ。ママさんと一緒に案内してもらえないかなあ」


 目を細めるバルベラと、手を繋ぐバルベラママさんに目を向ける。

 バルベラママさんは、ダークブルーの長髪とまとった布を潮風にはためかせていた。

 ちなみにバルベラと違って、人化した時から服を着てる。バルベラも早いところその魔法を覚えてくれないだろうか。



 南フランスのニースみたいに美しい港町に向けて、俺はスマホを構えた。

 ネットは繋がらないけど撮影はできる。


「観光じゃないから。これは現地調査だから。街の広さとか雰囲気を残すために撮影してるだけで」


 ブツブツ言い訳、もとい、撮影する理由を言いながらカシャカシャ撮る。


「ナオヤさん? その道具はなんでしょうか?」


「ああ、これはスマホ、スマートフォンって言って、いろんな機能があるんです。いまはカメラ機能で撮影しているところですね」


「カメラ機能。撮影。なるほど、以前私たちの姿をカメラで撮って看板にしたのと同じことができるのですね」


「さすがアンナさん、理解が早い! そうです、現地調査には必要だと思って持ってきたんです、これで市場や街の雰囲気を——」


「ところで、先ほど浜辺で過ごしている時も同じ音がしましたね?」


「あっ」


「カメラはないようなので安心していましたが……まさかナオヤさん、私たちの水着姿を撮影したのでしょうか?」


 港町から視線を外せない。

 背後からプレッシャーを感じる。

 バルベラとバルベラママさんは俺の視界の片隅でぼーっと港町を見下ろしている。


「なっ!? まままさかナオヤは! 私たちのあられもない姿を残して! 『ばらまかれたくなかったら、わかってるよなあ?』などと私を脅していやらしいことを要求しようと! くっ、エルフは脅迫には屈しないと知るがいい!」


「そこは抵抗するんだ。安心しろクロエ、脅さないから。そもそも『あられもない姿』ってただの水着だし。アイヲンモール異世界店の前に立てた看板と同じだし」


「そうですか……やはり、カメラで撮ったんですね、ナオヤさん」


「あっ墓穴掘った」


「墓穴を掘る……なるほど、埋葬される覚悟はしていると」


「そういう意味じゃなくてですね! えっそれアンデッドジョークですよねアンナさん? なんか黒いオーラが出てるし肌が灰色っぽく見えるんですけど『幻惑』の魔法ですよね? こっちが正体ってことはありませんよね?」


 チラッと振り返ると、薄笑いを浮かべた高位のアンデッドがいた。


「そ、そうだ! バルベラ、バルベラママさん、こっち向いてください! ツーショットの写真を撮りましょう! 店に帰ったらプリントするんで!」


「……ママ、写真」


「しゃしん? あら、ニンゲンはキレイな絵が描けるのね。ふふ、じゃあバルベラちゃんと二人の絵を描いてもらいましょうね」


 説明不足のバルベラをサポートすべく、スマホに撮影したばかりの写真を表示してさっとバルベラママに見せる。

 絵と勘違いしたみたいだけど、言いたいことは伝わった。

 すぐベストポジションに移って撮影に入る。

 バルベラママは上機嫌で、娘の肩を抱いて笑顔を作る。

 俺はすかさずカシャカシャと撮影をはじめた。


「いい笑顔です! もう少しバルベラに近づきましょうか! そうですそうです、いいですねー」


 似非(エセ)カメラマンになってバルベラ親子に声をかける。

 絶対強者であるバルベラママがノリノリだからだろう、クロエとアンナさんのプレッシャーは収まった。


「あとでゆっくりオハナシしましょうね、ナオヤさん」


 ……。

 …………。

 掘った墓穴は、マジで墓穴になるかもしれません。アンデッドジョーク笑えないですぅ。いや自業自得なんだけども。




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