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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第十章 いまの売上の中心であるスーパー部門を充実させます!……お魚、食べたいし』

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第三話 はははヤダなあアンナさん、あれは宣伝のために仕方なく、そう仕方なくで、だからカメラなんて持ってきてませんよはははは


「すごい、すごいぞナオヤ! どこまでも水だ! はははははは!」


「テンション上がりすぎだろクロエ。まあ初めて見るならそんなもんか」


 朝焼けの時間が終わって、太陽があたりを照らす。

 クロエは水辺ではしゃいでいた。


「こんなに大きな泉があるなんて! これが海(・)か!」


 白い肌に朝日を浴びて、波打ち際をビキニで。

 スタイルが良すぎてヤバ——くない。従業員をそんな目で見てたらセクハラって言われて本部から鬼の指導が入る。看板? あれは広告だから。必然性があるから許してください。


 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから25日目。

 俺はアイヲンモール異世界店を離れて海にいた。

 この世界に来てから初めての休日、じゃない。


「この砂浜というのは足が取られるのだな! 鍛錬に良さそうだ! ふはははははは!」


「ビキニで木剣を振るエルフかあ。なんだこれ」


「ふふ、クロエさんは楽しそうですね。水着を持ってきてよかったです」


「遊びに来たわけじゃないんですけどね。まあ働きづめだったし、ちょっとぐらいいいか」


「……ひさしぶり。泳ぐ」


「はい、行ってらっしゃいバルベラちゃん。今日はあんまり遠いところまで行っちゃダメですよ?」


「……わかった」


 母親みたいなアンナさんの注意に送られて、バルベラは砂浜を歩き出した。

 泳ぐ気満々で、すでにスクール水着だ。尻尾が出てるけど後ろどうなってるんだろ。

 全員分の水着を持ってきたアンナさんマジお母さん。アンデッドだけど。

 アンナさんは砂浜にタープを張って日陰を作り、飲み物や軽食を用意している。マジお母さん。リッチだけど。あと胸元からおへそまで空いたワンピースタイプの水着が無駄にセクシーで困る。中身ってどうなってるんですかね。


「ナオヤさん、今日は撮影は禁止ですよ? カメラは持ってきてませんね?」


「はははヤダなあアンナさん、あれは宣伝のために仕方なく、そう仕方なくで、だからカメラなんて持ってきてませんよはははは」


 スマホはある。

 クロエもアンナさんもバルベラも、スマホを使えばカメラと同じように撮影できることは知らない。


 俺たちが海に来た目的は、休日を楽しむためでも、遊ぶためでも、三人の水着姿を見るためでも撮るためでもない。

 目的は、魚介類の仕入れ先と配送ルートの調査だ。

 アイヲンモール異世界店の完全営業(グランドオープン)にはまだまだかかるけど、せめてスーパー部門だけでもちゃんと営業させようと思って。


「いきなりぜんぶやろうとしたって無理なんだし、一歩ずつ一歩ずつ」


「どうしましたナオヤさん?」


「ああいえ、なんでもないです」


 アイヲンモール異世界店と最寄りの街から海までは、馬車で二週間ほど。

 街道はあるし「腐りにくくなる」「見た目以上の容量が保存できる」魔道具『アイテムポーチ』はあるけど、それでも新鮮な魚介類は手に入らないそうで。

 仕入れ先と配送ルートが確保できれば商機はある。


「まあ俺たちは、アンナさんの『幻惑』でドラゴン形態(モード)のバルベラをごまかして夜間飛行してきたわけだけど。二、三時間で行けるにしても、これを通常の配送方法にするにはなあ」


 背中に俺とクロエとアンナさんを乗せて、悠々と空を飛んだバルベラを見る。

 人間形態はあいかわらず10歳ぐらいの見た目でスクール水着がよく似合——めっちゃジャンプして海に飛び込んだ。


「ええ……? 足元は砂なのに5メートルぐらい飛んだぞいま。違和感がすごい」


「ふふ、人の姿をしていても、バルベラちゃんはドラゴンですから」


「そうですよねここまで空を飛んできましたもんね。ジャンプぐらい余裕ですよね。ドラゴンヤバい」


 対抗しようとジャンプしたクロエは、あんまり飛べなくて波打ち際でびちゃっと潰れた。


「しょっぱい、しょっぱいぞ! なんだこれは不思議だな! はははははは!」


「ああうん、楽しそうで何よりです。タフだなエルフ」


 アイヲンモール異世界店の営業はコレットとファンシーヌさんと行商人一家、着ぐるみゴーストに任せてきた。

 調理場ではエプロン付きスケルトンたちががんばってくれてる、はずだ。

 夜間飛行で人気(ひとけ)のない砂浜に降りて夜明けを待って、日帰り、最悪でも一泊で帰るつもりなんだけど。

 がんばってもらったし、港町に行く前にちょっとぐらい海で遊んでもいいだろう。あ、タイムカードは『休憩』でつけてください。


「アンナさんも泳いできたらどうですか? 荷物は俺が見てますから」


「いえ、私は泳げないもので……その、呼吸は必要ないので海底を歩くことはできます。ナオヤさんがそうおっしゃるなら私は」


「無理しないでください! それ死なないってだけですよね!?」


 焦って止めた俺を見てアンナさんはくすくす笑った。アンデッドジョーク笑えないです。

 砂浜と海と水平線から顔を出した太陽は、異世界でも変わらない。

 実際は違うんだろうけど俺にはわからない。

 あ、浮上した勢いでバルベラが海から飛び出した。空飛ぶスクール水着って異世界すぎたわ。


「バルベラもはしゃいでるなあ。ドラゴンって水場が好きなのか? 種によってはトカゲも水場が好きだし、でも海ってどうなんだっけ。海イグアナ? コモドドラゴンも海はOKだったような」


「バルベラちゃんは海も水場も好きですよ」


「でもバルベラは『レッドドラゴン』で炎系っ言ってませんでしたっけ?」


「それに、ここはバルベラちゃんの故郷に近いですから」


「アンナさん聞いてます? ん? 故郷?」


「はい。海をしばらく行った先の孤島で生まれたそうですよ?」


「へえ、故郷が近いなら知り合いを紹介してもらおうかなあ。うまくいけば仕入れ先を知ってるかも。……待って、故郷? ドラゴンのバルベラの? じゃあ人間の知り合いはいないかな、ってそういうことじゃなくて!」


 空を見る。

 モンスターの影はない。空には白い雲が浮いている。


 浜を見る。

 モンスターの影はない。アンナさんはリッチだけど。あと人間形態(モード)のバルベラが海から上がってきた。見えるモンスターがぜんぶ身内な件。


 海を見る。

 モンスターの影はない。

 いや、波間に角が見える。

 サメの背びれみたいに海をかきわけて近づいてくる。


「アンナさんあれは」


「なんだこの魔力の塊はッ! この速さは!? 逃げろナオヤ! 強(・)大(・)な(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)が来るぞ!」


 さっきまではしゃいでいたクロエの、真剣な声が響く。

 海水に濡れた肌もそのままに、こっちに駆け戻ってくる。


「…………なんだろ、既視感がある。デジャヴュってヤツ?」


 なんかクロエがこんなこと言ってるの聞いたことある気がする。

 考え込んでる間にクロエが近づいてきた。

 海をかきわける背びれも近づいてきた。



 俺がアイヲンモール異世界店の店長になってから25日目。

 …………26日目を迎えられるといいなあ。異世界怖い。異世界にいきなり送り込んだアイヲンやばい。



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