第一章 俺、勇者になります。①
見知らぬ森に物理的にほっ放られた俺たちは何処かに街が無いか探すことにした。
と、いっても方位磁石や地図が有るわけでもないので、とりあえず歩く。
「う〜…お兄ちゃんまってぇ〜…
愛瑠疲れたよぉ〜…」
着慣れない服や靴のせいなのか、足元が腐葉土や落ち葉だからなのか、元から運動オンチなのが祟ったのか何時もよりへたれるのが早い。
参ったな… 俺は運動神経には自信があるが体力が無限にある訳ではない。慣れない山歩きで愛瑠を背負って行くのは得策ではない。
仕方ないので休憩をとる。
うーむ、学校帰り直接落とされたから手持ちは財布と教科書やノート、食料はカバンの中に紛れ込んでいたビスケットや飴のみ。
木陰で何故か持っていた分厚い本をパラパラ読んでいる愛瑠。
そして何かを思い立ったかのように森の奥に走っていく。
「おい!愛瑠!?」
俺は慌てて後を追う!
どうしたのだろうか?
☆○□◇□○☆
突如走って行った愛瑠を追いかけて数分。
衿愛は眠っている謎の巨大生物の前に居た。
「愛瑠!危ないぞ!早くこっち来い!」
愛瑠は杖を構え、何かを唱え始める。
本が鈍く光始め、連動するかのように杖が発光を始める!
「キャプチャーリングっ!」
詠唱をやめ何かを叫ぶ愛瑠。
光のリングが杖の先から放たれ、
眼を覚ましかけた化け物を包み込み、そのまま消える。
のっそりと起き上がるバケモノ。
起き上がったバケモノはぱっと見で全長は5mほど、ライオンの顔に蛇の尻尾、さらに大きな翼と俗に言うキマイラという神話生物に酷似していた。
…あれは殺る眼やで、逃げんとアカン。
エセ関西弁で心の中で呟き愛瑠の元へ走る!
「おい!愛瑠!逃げるぞ!?」
愛瑠はキマイラっぽい生物を何かを祈るように見つめる。まさか恐怖で逃げれなく!?
キマイラはゆっくりと愛瑠に顔を近づけていく。
あっ、これはアカンわ。人生オワタ\(^o^)/
全てを諦め、また心の中で辞世の句を考える。
しかし…
「……」
「きゃっ!?」
キマイラは愛瑠を食べる(性的ではない)わけでもなく、まるで飼い主に甘える猫のように顔を擦り付けるだけだった。
…Do you COTO?
俺が混乱していると、満面の笑みを浮かべて走ってきた愛瑠がまくしたてる。
「すごいよお兄ちゃん!この本と杖、いろいろな魔法が使えるようになるみたいなんだよ!」
魔法…?
それってファンタジーやらRPGやらで出てくる不思議な力的な…
「それでいまこの子にかけた魔法が、この本のここに書いてある"キャプチャーリング"ってやつ。『生物を支配する光のリングを生成。一度成功すると自在に使役できるようになる』って!!」
愛瑠が本を見せてくれるが、俺には何が書いてあるのかはサッパリ解らない。おそらく愛瑠には読めるのであろう。理由は解らないが。
信じ難いが、実際このキマイラっぽい生物が愛瑠の眷属になったのは確かなようで、愛瑠が背中に乗っても攻撃をしようとも振り落とそうともしない。
「お兄ちゃんも乗りなよ!キマちゃんなら空を飛べるから街探しも楽になるはずだよ!」
「お、おう…」
おっかなびっくりキマイラの背中に乗る。
てかキマちゃんて…もう名前付けてるし。
「よーし!飛べ!キマちゃん!!」
キマイラが羽ばたきをすると周りの樹木を吹き飛ばして宙に舞う!
「すげぇ!本当に言うことを聞くのか!」
驚愕と興奮で思わず叫んでしまう俺!
こんなバケモノに乗って街なんか行くと絶対エライことになると思うんだが…
まぁ最悪は街民のみんなに説明するか街外れでキマイラに待ってて貰うかすればいいだろう。
☆○□◇□○☆
数分が経った。
キマイラは飛ぶタイプでは無いらしくあまり早く飛んでいない。
そこで休憩も兼ねてキマイラの背中で今後どうするか会議をする。
「ねぇお兄ちゃん!キマちゃん飼ってもいい?」
「いやお前飼うって…そのへんの犬猫とは違うんだぞ?」
「大丈夫!」
何かを唱えて杖を振ると巨大な肉塊が空中に出現する!
「エサには困らないよ!空気中の成分からお肉を作る魔法だってあるし!」
えっ、何そのバイオな魔法。
お前もう何でもありじゃん。
☆○□◇□○☆
日も暮れてきたので岩山に着陸。街探しは明日に繰り越しだ。
キマイラは愛瑠が出した巨大な肉塊を貪り食べている。
俺ら人間はその肉塊の一部を切り出し、これまた愛瑠が灯した火の玉でじっくり焼いたものを食べる。
本人曰く豚肉をイメージして作ったらしいので多分大丈夫だろう。
さらに愛瑠が作り出した調味料で味付け。
まさに愛瑠が居なければ作れない晩餐である。
食事後はこれまた愛瑠が切り出した丸太で作った小屋(高さ5m。キマイラと同室)で寝る。
…もう街探さなくても良いんじゃないかな?
そう思うくらい快適な一晩だった。
続く!
次回はとうとう街を発見!乞うご期待なんだじぇ!!