終わりに向かう魔女の恋⑨
「うう……ケイに嫌われたかな?」
「うにょ!」
エイミーは一人だけ研究室に戻ってきた。セレナとセオドアの薬を作るためだ。
セレナは医務室に、セオドアは騎士たちが騎士団へと連れていった。
ケイはバーナードとともに報告をするため、騎士たちと騎士団へ向かった。
「さっきの禁止区域の件もあるし……ケイを一人で行かせて大丈夫だったかな……」
窓から外を見れば、月が空高くまで上がっている。今日はいろんなことがありすぎた。
「うにょうにょ!」
薬を作り終え、ウニョが大型犬の大きさから手のひらサイズへと戻る。薬はこのあと、園長が取りにきてくれる算段だ。
「よし……明日こそケイにちゃんと話すぞ!」
今日はケイも疲れただろう。様子がおかしかったのが気になるが、もう夜も遅い。きっと寮に帰ったら休むはずだ。
(誠心誠意ケイに説明して、それでも一緒にいたいって気持ちを伝えて……)
ケイは国を捨ててまでエイミーと結婚したいと言ってくれた。そんなケイに隠し事をしていたのは不誠実だと思う。
「うにょ!」
エイミーが決意を新たにしていると、ウニョが窓を手で指した。
「あ!」
先ほどウニョがカフェに侵入させていた精霊が窓ガラス越しにこちらを覗いている。
「来てくれたのね。ありがとう!」
エイミーは窓を開けると、精霊を部屋へと招き入れた。
* * *
「報告、ご苦労。我が国の聖女の救助にご助力いただき感謝します、ケイ殿下」
団長の執務机の前で、バーナードと並んで立っていたケイは目を伏せた。
「いえ……僕は何も……」
「詳しくは明日、セオドアを尋問してからになると思います」
ケイの言葉を遮り、バーナードが告げる。
「ああ、そうだな。しかし呪いか。まったくなんて厄介なものを……」
「団長」
バーナードが口を挟めば、団長は咳ばらいをした。
「とにかく、今日は帰っていい。ゆっくり休んでくれ」
バーナードは頭を下げると、さっさと団長室を出ていった。ケイも後を追う。
「バーナード」
「お前が立ち入り禁止区域に立ち入ったことは不問にしてやる」
ケイが呼びかければ、バーナードはふんぞり返りながら振り返ってきた。
「その代わり、何も聞くなって?」
「今日のことは全部忘れろ。他言しようものなら、殺す」
ピリリとした空気がバーナードから発せられたが、ケイは気にせず疑問を口にした。
「……エイミーは本当にお荷物の魔術師?」
「俺の婚約者だ」
答えになっていない。
じろりと睨んでくるバーナードに、ケイは肩をすくめた。
(さっきの……エイミーの力……だよな?)
エイミーが仲良しの精霊を肩に乗せてきた瞬間、ごっそり魔力が持っていかれる感覚がした。不思議な出来事はそれだけではない。傭兵と戦ったとき、精霊に魔力を捧げていたはずなのに、逆に力があふれる感覚がした。どちらも、ケイが使ったことのない上級魔法が発動して驚いたものだ。
(驚きすぎて変な顔しちゃったな……エイミー、傷付いた顔をしていた)
何者だと問い詰めてしまった自分が悔やまれる。何者であろうと、エイミーに対するこの気持ちは変わらないはずなのに。
(でも……嫌われるくらいがちょうどいいのかもな)
エイミーとは良い思い出のまま別れたかった。この期に及んで未練がましくエイミーを想う自分に辟易としてしまう。
「バーナード、話しておきたいことがある」
「あ?」
ケイは覚悟を決めて、バーナードにエイミーを託そうとした。が、今もっとも会いたくない人物の声で固まってしまった。
「ああ、ケイ! 無事でよかった!」
「ドレ……イク?」
どうしてここに、と顔を強張らせるケイに、ドレイクは良い兄の顔で近付いてくる。
「君も聖女様救出に向かったと聞いてね。怪我はしていないかい?」
わざとらしい口調でケイの目の前まで迫ったドレイクは、隣に並ぶとバーナードを見た。
「メンデス護衛隊長も大変でしたね」
「これが仕事ですので」
にこやかなドレイクに、バーナードが頭を下げて答えた。ドレイクの顔がにやりと凶悪に歪む。
「でもケイは帝国の人間だ。まさか巻き込まれてしまうなんて……」
「ドレイク!! 彼は関わらないように配慮してくれた! 僕が勝手について行ったんだ!」
ドレイクは今回のことを国際問題に発展させようとしたのだろう。バーナードも顔色を変えたが、ケイが間に入ったことで安堵の表情を見せた。
「そうか……。植物園はお前の留学先だからね。仲間思いの弟だ」
(なんだ? あっさり引くな)
ケイがドレイクに警戒すれば、ドレイクはバーナードに向き直った。
「私の事情徴収は終わりましたので、帝国に帰らねばなりません。その前に弟と二人きりで話しても?」
「どうぞ」
バーナードはすぐに了承した。これ以上国際問題だと話を引き延ばされては困ると考えたのだろう。
「空き部屋がありますのでどうぞお使いください。防音魔法もかかっております」
「ありがとう」
ドレイクがにこりと微笑むと、バーナードはすぐに空き部屋へとケイたちを案内した。
(まさか、僕と二人で話すのが目的で……?)
最初に国際問題をチラつかせれば、弟と二人きりで話すくらいバーナードは許すだろう。
頭の中で思考を巡らせるケイは、先に部屋に入れられた。後ろで扉が閉まる音が聞こえて、振り返る。
「お前、聖女を助けるとか何をやってる?」
途端に素顔を見せてきたドレイクに、ケイは身構えた。
「せっかくあのセオドアとかいう伯爵令息を唆して、呪いまでかけたというのに台無しだ」
「……は?」
ケイは耳を疑いながらも、震える身体を止められなかった。




