終わりに向かう魔女の恋⑦
「お前、何をしたかわかっているんだろうな?」
ケイとともに森を出れば、腕組みをしたバーナードが入り口で待ち構えていた。
「ケイ、お前のことも報告させてもらうからな」
「……どうぞ」
厳しく責めるバーナードから庇うように、エイミーはケイの前に立った。
「バーナード様、すべてはわたしの判断でしたことです! ケイは関係ありません!」
「エイミー、いいんだよ。君だけ咎められるのは嫌だ」
「ケイ……」
ケイはエイミーの肩に手を置いて、横に並んだ。いつだって守ってくれようとするケイがエイミーの胸を締め付ける。
「おい」
怒りを含んだ声に振り向けば、バーナードが怖い顔でエイミーたちを睨んでいた。
「下手したら、ケイを騎士団で拘束することになる。わかってんだろうな、エイミー」
「バーナード、エイミーを責めるのに僕を使うなんて卑怯だね?」
「ケイ……てめえ余裕だな。お前は見ちゃいけないものを見たんだ。このまま帝国に帰すわけにはいかねえぞ」
「ははっ。たぶん、大丈夫じゃないかな? だって僕の身体にはこの国の血が半分流れているんだよ?」
ケイとバーナードの言い合いを聞いていたエイミーは、ぎゅっとワンピースの胸元を握りしめる。バーナード側までスタスタと歩いて行くと、顔を近付けて囁いた。
「バーナード様、あそこはわたしだけが許された聖域。そしてわたしと精霊が許せば、誰でも入れます」
エイミーの言葉にバーナードはぴしりと固まった。
あの森には結界があり、エイミーと精霊が許した人物だけ通ることができる。立ち入り禁止にはしているが、本来誰も入ることはできないのだ。そして、精霊はこの国の要。その精霊が認めたとなれば、文句を言える人などいない。
「……それでもケイは帝国の人間だ。看過することはできない」
「わかっています。わたしも国王陛下に説明します」
「国王陛下!? エイミー……君は……」
その後の内容はケイにも聞こえたようだ。驚いた表情でこちらを見ている。
(もうケイには明かしていいんじゃないかな? ケイとはずっと一緒にいるつもりなんだから)
エイミーは愛し子であることをケイに告げようと、精霊の木の前で決意してきたのだ。
「おい、やめろ、エイミー」
それに勘付いたバーナードが止めようとする。エイミーが口を開こうとしたそのとき、騎士団の一人が走り込んできた。
「メンデス護衛隊長!! セレナ嬢が攫われました!」
その報告に、ケイの顔が一気に青ざめていく。セレナの心配とともに、エイミーの不安は膨らんでいった。
「セレナはドレイク殿下を案内していたはずだろう」
エイミーたちは、セレナが攫われたという現場までやってきていた。
「それが……殿下がこちらのベンチで休んでいる間に、セレナ嬢がカフェまで水を取りに行かれまして……。なかなか戻ってこないセレナ嬢を殿下と探しに来てみれば、ここに水のカップが落ちていたというわけです……」
たどたどしく説明する男は、セレナを護衛していた騎士だ。
セレナは植物園内だから大丈夫だと、この騎士にドレイクの側についているよう命じたらしい。
「申し訳ございません!! 処分はいかようにも……!」
「そんなものは後だ! 殿下はどうしている?」
「はい……騎士団にご滞在いただいています」
バーナードと騎士のやり取りを聞きながら、エイミーは辺りを見回した。
ここは一般開放されている場所から一本それた道で、職員しか通れない場所だ。ここを通ればカフェまですぐなので、セレナは近道として使ったのだろう。道に落ちたカップはそのままにされ、水たまりができていた。
(セレナ様の魔力……)
しゃがみ込んでカップに触れれば、バーナードが後ろから叫ぶ。
「おいエイミー、追えるだろ?」
「もちろんです!」
返事をすると、エイミーはすぐに精霊にセレナの魔力の痕跡を辿らせる。
魔法は魔力と引き換えに精霊から力を借りて使うもの。普段精霊と密に接する魔術師の魔力を辿るくらい、精霊には簡単だ。
「お前はケイを寮まで連れて行け。あと団長に報告。セレナは俺たちが追う」
バーナードは部下の騎士にそう告げると、エイミーを見た。
「おい、ウニョを連れてるな? 行くぞ」
「はい!」
返事をしてバーナードとともに出立しようとすれば、ケイに腕を掴まれた。
「待って!? どうしてエイミーが行くの? 危ないよ」
ケイの顔色はまだ良くないようだ。エイミーはケイを安心させようと笑った。
「ケイ、大丈夫だから。待っていて」
ケイはぐっと唇を噛みしめると、エイミーの腕を掴む手に力をこめた。
「僕も行く」
「はあ!?」
最初に声を上げたのはバーナードだ。バーナードはこめかみに青筋を浮かべると、苛立ちを隠さずに告げる。
「これは俺たちの国の問題だ。他国の皇族が介入していいことじゃない」
「でもエイミーが心配だ」
「こいつは大丈夫なんだよ!」
「エイミーが留守番で、僕とバーナードが行けばいいじゃないか」
ケイはバーナードに食い下がって引かない。ちっとバーナードが舌打ちをした。
「……バーナード様、ケイにも来てもらいましょう」
「はあ? 何言って……」
呆れた表情で振り返るバーナードに、エイミーは続けた。
「力のある人が多いに越したことはないはずです。ケイは、今は植物園の仲間です」
「わかったよ! 犯人が何人いるかわからないしな。おいケイ、自分の身は自分で守れよ?」
「騎士は連れて行かないの?」
「三人いれば十分だ」
バーナードの言葉を不可解に思ったのだろう。ケイは顔をしかめていた。
「じゃあ行きましょう!」
さっそくセレナの魔力を感知した精霊が道案内に立ったのを見て、エイミーが声をかける。
「エイミー、僕が守るから」
「ありがとう……」
ケイの表情にはどこか焦りを滲ませている。それはエイミーを心配してくれているからなのか。
「おい! ケイと俺が前で、エイミーは後ろからついてこい!」
「はいはい」
怒鳴るバーナードに返事をすると、ケイは前に出て走り出した。その後ろをエイミーもついていく。
(ケイ……なんでそんなに辛そうなの?)
ケイは森で涙を流していた。そのことを思い出せば、エイミーの胸に再び不安が湧き上がる。
ケイが抱えるものの大きさを、エイミーはいまだ知らない。そのことが不安を余計に大きくさせていた。




