終わりに向かう魔女の恋④
ケイが義兄である兄とカフェの中に入っていくのを見届けて、エイミーは心配になった。
(ケイは帝国で大切にされていなかったんだよね……?)
ケイが心配で様子を見にきたと言っていたドレイクは、優しそうな笑みを浮かべていたが、瞳の奥は冷たいように感じた。
(それに……何か嫌な感じがした……)
「うにょ!」
考え込むエイミーのポシェットの中から従霊が顔を出す。最近はポシェットの中にいるのがお気に入りらしい。これならケイや他の人から隠して側にいられるため、エイミーも身に付けていた。
「うにょうにょ!」
「え? 本当? ありがとう、ウニョちゃん!」
ウニョはケイを心配するエイミーに、精霊をこっそりカフェの中に侵入させると言ってくれた。
(それなら何かあっても助けられるよね)
エイミーが安堵していると、バーナードとセレナがやってきた。
「あれ、どうされたのですか?」
「ドレイク皇子をここまで連れてきたのは俺だからな」
「そうだったんですね」
エイミーは園長からドレイクを案内するよう言われたので、バーナードが来ているとは思わなかった。
「バーナードは騎士団でよくドレイク殿下と魔物退治してるからね」
「ケイのお兄さんと仲がいいんですか!?」
セレナの説明に、エイミーはバーナードへ前のめりになった。ケイの兄がどういう人なのか、バーナードの話を聞きたい。
しかしバーナードは、見つめるエイミーから視線を逸らすと、真っ赤になって震えた。
「~っ、~っ……ちっ、色気づきやがって!」
「うええ!?」
答えはなく、いつもの暴言を吐かれてエイミーは目を丸くした。
「あはは。バーナードはね、エイミーの可愛さを周囲にばらされて怒っているんだよ」
「はい?」
笑うセレナにエイミーは首を傾げた。
「そのために前髪を伸ばさせていたんだもんねえ?」
「うるせえ!」
「ええっとお?」
セレナは何を言っているのだろうか。バーナードは義務感からエイミーの婚約者として振舞っているわけで、けしてエイミーを好きなわけではないのだ。
「目立ってしまったのを怒られているのですよね? でも、今でも精霊たちは王都を中心にこの国を守っています。それは、わたしが務めを果たしている証拠になりますよね?」
エイミーは特級愛し子であることを隠さなくてはいけない。だからこそあまり目立たないように気を付けてきたわけで。
でもケイと出会って、考え方が変わった。
エイミーは人と関わってもいいし、目立ってもいい。自由なのだ。要は、愛し子としてこの国に貢献さえしていれば問題はない。
(守ってもらえるのはありがたいけど、それだけじゃ一生引きこもりだもの……わたしはケイを守れる人になりたい)
じっと見つめるエイミーに、バーナードは眉を吊り上げた。
「お前、言うようになったじゃないか」
「褒められた……」
「褒めてねえ!」
ふにゃりと笑えば、いつものように怒られてしまった。それからバーナードは、エイミーの腕を乱暴に掴んで告げる。
「いいか? 結婚するまでの間だと今は目をつぶってやっているだけだ。ケイの留学期間ももうすぐ終わる。くれぐれも気を許すなよ」
「ちょっと、言い方……」
「セレナは黙ってろ!」
間に入ろうとしてくれたセレナをバーナードが大声で制する。エイミーはセレナにふるふると首を振った。心配そうに眉を下げつつも、セレナは後ろに下がる。
「ケイとはどうせ別れるんだ。返事」
命令口調で告げてくるバーナードに、エイミーは目を伏せた。
「い、嫌、です!」
「はあああ!?」
案の定、バーナードから怒りの声が降り注いだが、エイミーは負けずに叫んだ。
「だってわたしはケイが好きなんです! バーナード様とは結婚できません!!」
「はああああ? てめえ!」
怒り心頭のバーナードにエイミーは両頬をつねられる。
「い、いひゃい、いひゃいです!!」
「いいか? お前が嫌だろうがなんだろうが、俺と結婚することは国が決めてんだよ!」
そんなことはエイミーもわかっている。でも、ちょっとくらい抵抗してもいいじゃないか。エイミーがバーナードに頬をつねられ続けていると、ドレイクが一人でカフェから出てきた。
「お待たせしました」
「ああ」
エイミーから離れ、バーナードが騎士の顔になる。
ドレイクはバーナードからセレナに視線を向けると、手を胸にあてて軽く頭を下げた。
「セレナ嬢。お噂はかねがね。私もあなたのツアーに参加してみたいのですが、もう帰国しなければなりません。今お願いすることは可能でしょうか?」
「えっ、ええ。わたくしは構いません。メンデス護衛隊長はどうですか?」
瞬時に聖女の顔をするセレナはさすがだ。感心しながらエイミーは横にいるバーナードに視線を向けた。
「はい。護衛をつけさせていただきますが、構いませんよ」
「ありがとうございます!」
「ではこちらへ……」
バーナードが合図をすれば、後ろに控えていたセレナの護衛が出てくる。その護衛を伴い、セレナはドレイクを連れていった。
「じゃあ、ツアーが終わるまでじっくり話そうか」
「ひいいいい」
ぐるりと凶悪な顔を向けてきたバーナードに、エイミーは震えあがった。そして肩に置かれた腕からちらりと見えた火傷に気づく。
「バーナード様、また火傷されているじゃないですか!」
「あ? ああ。いつものことだし、大したことねえよ」
バーナードは騎士服の袖をまくり上げると、火傷を見た。その火傷は痛々しく、大したことありそうである。
「どうして薬を取りにこなかったんですか?」
そういえば最近バーナードに薬を処方していなかった。エイミーが疑問を口にすれば、バーナードは唇を曲げた。
「お前の側にはいつもケイがいるから、薬なんて貰いにいったらバレんだろーが」
「だから我慢を?」
「お前の薬は苦いから嫌なんだよ!」
魔法による火傷は、エイミーが作る薬でしか治せない。それなのにバーナードはエイミーの秘密がバレないよう、自身を犠牲にして我慢していたようだ。
(本当に真面目で正義感の強い人だなあ)
エイミーはポシェットの中から丸いガラス瓶を取り出した。
「バーナード様、これなら苦くないですよ」
「あ?」
エイミーはガラス瓶の蓋を開け、中の塗り薬をバーナードの火傷部分に塗布した。
「レンデュカの花が咲いたので、作ることができました!」
「ああ……お前の畑のか」
「はい! 塗り薬なら苦くないし、火傷に直接塗布できるからいいと思いまして! そのためにはレンデュカが必要不可欠で……」
意気揚々と説明しながら薬を塗るエイミーの手の上に、バーナードが手を重ねる。
「俺のために……?」
「はい……?」
なぜかバーナードが真剣に見つめてきている。エイミーは首を傾げた。まだ話は途中なのだ。
(ケイのおかげでレンデュカが育って、この薬を作れたんだって説明しないと!)
エイミーが口を開こうとしたところで、バーナードが重ねた手に力をこめた。
「エイミー……俺は……」
「バーナード様?」
どうしたのだろう。バーナードはいつもの怒っている顔だが、顔が赤いように思える。
「俺は、お前と……」
バーナードの顔が近付いてきたと同時に、切り裂く悲鳴のような声がエイミーを呼んだ。
「エイミー!!」
「ケイ!?」
カフェの入口にはケイが立っていた。遅れて出てきたようだが、顔色が悪い。
「ケイっ……大丈夫!?」
エイミーはバーナードの手を振りほどくと、ケイのもとに駆け寄った。
「えっ……ケイ!?」
エイミーの手を繋ぎ、ケイが歩き出す。
「おい!?」
後ろでは引き留めるように叫ぶバーナードの声が聞こえる。
エイミーはケイに手を引かれ、その場から連れ去られてしまった。




