終わりに向かう魔女の恋③
「ケイ、あの子と恋人なんだって?」
カフェのテーブルで向かい合ったドレイクが、頬杖をついてこちらを見てきた。ケイは返事をせずに、唇を横に引き結ぶ。
今カフェは国賓二人のために貸し切りにされているらしく、誰もいない。エイミーは外で待機している。
「……なんの用だ。計画は順調に進んでいる」
「順調……ねえ」
睨むケイにドレイクが溜息を吐いて、視線だけ横に逸らした。
「王女と婚約の約束をしているのに、メンデス侯爵家長男の婚約者に近付いたことと関係あるのかな?」
「っ……あの子は、関係ない」
ドレイクはエイミーがバーナードの婚約者候補だと知っているようだ。王国騎士団との繫がりを持つドレイクならば知っていてもおかしくはない。
「関係ない……ねえ」
ドレイクは視線をケイに戻すと、胸ポケットを探り、何かを取り出した。
「じゃあ、これは何?」
「――――っ、」
ひゅっとケイの喉が鳴る。
それはケイがディグア公爵宛てに出した手紙だった。もちろん開封されている。
「ここには、国王陛下に秘密裏に謁見したいから力を貸してほしいと書いてあるねえ? 秘密裏に国王と会って何を話すつもりだった?」
(落ち着け……手紙には詳細は書いていない。誤魔化すんだ……)
視線を逸らさずに口を開こうとしたケイの顎を、ドレイクが前のめりに立ち上がって掴む。
「お前、父上を、帝国を裏切ろうとしているな?」
「違うっ……!」
ドレイクの手を振り払い、ケイは必死に頭を働かせた。
「それは……あの子と結婚したいから、王女との婚約の話をなかったことにしてもらおうと思っただけだ!」
「へえ! 女遊びをしていたお前が、たった一人を決めたと?」
「それはお前たちが勝手に流した噂だろう!」
愉快そうにこちらを見るドレイクを睨む。ドレイクは笑顔のまま続けた。
「任務の合間にお前は何をやっているのかな?」
「別に恋愛くらい自由だろう」
「本気であの子が好きなんだ? じゃあ、あの子を殺せばお前は本当のことを話すかな?」
「な、に、を……」
目の前で凶悪に笑うドレイクに、ケイは青ざめる。その反応を待ってましたとばかりに、ドレイクはケイに顔を近付けた。
「俺はてっきり、あの子から情報を引き出すために騙しているんだと思っていたけど……違うなら殺したほうがお前は口を割りそうだ」
そう言って、ドレイクは再び胸ポケットから紙を取り出す。それを見たケイは絶句した。
「それ……は――」
「そう。お前が握った軍事計画の機密書類。お前に群がる令嬢たちの中に、念のため駒を紛れこませておいたんだ。お前は帝国騎士団幹部の娘から、この書類を手にしただろう?」
書類をテーブルに並べ、ドレイクが迫る。
「さて、ケイ。お前はこの偽の書類で何をしようとしていた?」
「――っ」
すべてドレイクにバレている。しかも偽物を掴まされていたなんて。
(僕にスパイをさせておきながら、僕を監視させていたってことか……)
俯くケイに、ドレイクは冷酷に告げる。
「ケイ、お前はあの女の子と共謀して帝国に冤罪を吹っかけようとした。そうだな……まずはあの女の子の身柄を引き渡してもらって、帝国で見せしめに死んでもらおうかな」
「あの子は関係ない!」
ゾッとしたケイは、気づけば叫んでいた。
「あの子は……あの子は、僕が利用しただけだ! 騎士団魔術師の婚約者なんて、なにか秘密を知っているに違いないと踏んで、近付いたんだ!」
最初はそうだった。でも今は本当にエイミーに惚れている。
(どうしたらエイミーを守れる……!)
ドレイクに目を付けられてしまっては、平民のエイミーなど国際問題になる前に引き渡されてしまうだろう。
「でも、あの子に近付いても何も出てこなかったんだろう?」
このままではドレイクは王国に罪をなすりつけるためにエイミーを殺してしまう。
「違う! あの子は植物園の秘密を知っている! 立ち入り禁止区域に僕は連れていってもらう約束をしているんだ!」
「……へえ?」
ドレイクの表情が変わった。興味を引けたようだ。
「だから、僕は結婚を望むあの子に本気だと示すため、国王に会おうとした! あともう少しで王国の秘密の深部に近付けるんだ! だから邪魔をするな!」
「そうだったのか……」
ドレイクは納得したようだ。ケイがホッと息を吐くと、ドレイクが隣までやってきて囁いた。
「じゃあ、その立ち入り禁止区域まで案内されたら、あの子を殺せ」
「は……?」
冷や汗がケイの背中を伝う。ドレイクは声を潜めたまま続けた。
「秘密さえわかれば、あの子は不要だろう? お前には王女と婚約をしてもらわなきゃ困るからな。婚約式で油断している王国を攻める、というのが父上の考えだ」
ドレイクはどのみちエイミーを殺すつもりなのだ。ドクドクと心臓が脈打ち、手が震える。
「できるよなあ? ケイ。お前はあの子を利用しただけなんだから。お前がやらないなら、俺がやってやるけど?」
ポンと肩に置かれたドレイクの手を、ケイは振り払った。
「僕がやる! 僕の任務だろう!?」
「わかってるなら失敗するなよ」
「ぐっ……」
ドレイクに腹を殴られ、ケイはその場で崩れ落ちた。
(ここは王国だから、痣が見えないところを……さすが狡猾な義兄だ……)
呻くケイには振り返らず、ドレイクは先にカフェを出ていった。




