終わりに向かう魔女の恋②
「よし……」
今日の研究を一段落させたケイは、ちらりと懐中時計を見た。研究は楽しくて、あっという間に終業時間だ。
「ケイ、お疲れ~!」
「お疲れ様」
研究チームの男性魔術師たちがケイを囲む。エイミー一筋を貫くケイに、あれから女性魔術師たちは迫ってこなくなっていた。
「ケイは今日も彼女がお迎えだろ~?」
「いいなあ、俺も可愛い恋人が欲しいよ」
ケイを囲む男たちの最近の話題はこればっかりだ。
ケイの目論見通り、二人は植物園内で有名な公認カップルとなった。エイミーを直接的に攻撃するいじめもなくなったように思う。ふふっと笑うケイに、同僚の一人が疑問を口にした。
「でもケイ、留学期間はあと一か月だろ? その後はどうするんだ? もしかして、あの子も帝国に連れて帰るのか?」
「まさか」
ケイは声を潜めて答える。
「実は今、正式に王国へ移り住めるよう準備をしているところなんだ」
「え!? 本気か!?」
「それってあの子と結婚するため……とか?」
驚く男たちにケイが微笑めば、「まじか~」と声があがる。
(僕はエイミーとこの国で生きていきたい)
ケイは覚悟を決めたあの日から、慎重に事を進めてきた。
皇帝の指示で王国のスパイ活動をしてきたことを文書にまとめ、帝国が裏で王国に攻め入る準備をしている書類も手に入れた。あとは国王に秘密裏に謁見し、ケイの身柄を保護してもらうだけだ。
ケイは母の生家であるディグア公爵家に力を貸してもらえるよう手紙を出した。今は母の兄――叔父が爵位を継いでいて、返事待ちである。
ケイは強制とはいえ、皇帝に加担している。その罪を口実に、王女との婚約も辞退する。そして国王に忠誠を誓い、自身の能力を植物園で活かしたいと願い出るつもりだ。
(エイミーは僕のことを受け入れてくれるだろうか?)
何もかも捨てて、ケイは一介の魔術師として王国でやり直したいと思っている。皇子でなくなる自分は、次期侯爵という地位のバーナードには敵わないだろう。それでも、と期待してしまうのは、彼女の前にあった線が無くなったと感じるからだ。
(すべてが片付いたら、エイミーに求婚しよう)
「そういえば、この前あの子がケイに薬草のアドバイスをしているのを聞いて、俺も聞いてみたんだ」
「そうなの?」
いつの間にと睨むケイに、同僚が焦って答える。
「アドバイスだけだから! ほんとにあの子に惚れてんだなあ、ケイ」
「あっ! だからお前のこの前の研究、前に進んだのか」
別の同僚が口を挟めば、話が盛り上がる。
「そうそう。あの子、薬草の知識ハンパないよ。なんで研究チームじゃないんだろう?」
「え? エイミーは研究チームの一員だろう?」
首を傾げるケイに、同僚たちが顔を見合わせる。
「そういえば、あの子ってどこの所属なんだ?」
(どういうことだ? エイミーは同僚と折り合いが合わなくて園長の研究室にこもっているんだったよな?)
ケイが考え込んでいると、また別の同僚が思い出したかのように言った。
「そういえばあの子、魔術学園を飛び級で卒業したって聞いたぞ」
「あ、それ俺も聞いた! 呪いで先生たちを脅したって聞いてたけど……あの知識量なら納得だな」
(エイミーが魔術学園を飛び級で卒業……?)
魔術学園は座学だけではなく、実技もこなさないと卒業できない。
(エイミーほどの知力なら座学は余裕だろう……でも、彼女は魔力量が少ないんだよな?)
思えばケイは、エイミーが魔法を使うところを見たことがない。
(僕は……まだエイミーのすべてを知っているわけでは、ない?)
秘密も明かされて、近付いたと思っていた距離が急に開いた気がして、焦燥感に駆られる。
「お、お迎えが来たぞケイ」
「エイミー」
声をかけられ、ハッとして振り向いたケイは固まった。
「ケイ、お兄様をご案内しました」
エイミーと一緒にいるのは、義兄のドレイクだ。
「よう、ケイ」
「ドレイク……」
血の気が引いていく感覚がする。立っているのがやっとのケイに、ドレイクが笑顔で声をかけてくる。
「騎士団の仕事で王国まで来たんだ。弟が元気にやっているか様子を見たいと願い出たら、この子が案内してくれたよ」
「えっと……ここではなんですので、職員用のカフェをご案内します」
「ああ、悪いね。ありがとう」
エイミーはケイのホスト役だからこそ、兄であるドレイクを案内してきたのだろう。
(留学期間はまだあるのに、なんだ?)
ドクドクと心臓がうるさい。ケイは嫌な予感を胸に、エイミーとドレイクの後ろをついて行った。




