終わりに向かう魔女の恋①
「今日はツアーに参加してくださり、ありがとうございました」
案内を終えたケイが頭を下げれば、参加者たちからは拍手が起こった。
「ケイ様っ、あたし、今日二回目でえ」
「あ、私なんかケイ様の日は毎回参加してます!」
わらわらと集まってきた女性たちに、ケイは皇子様の笑顔を向ける。
「みなさん、覚えていますよ。嬉しいです。初めての方も、植物園の活動を応援していただけると嬉しいですね」
ケイの言葉に黄色い声が飛ぶ。
一人一人丁寧に見送ると、ふうっと息を吐いた。そこにセレナがやってくる。
「お疲れ様。すごい人気ね。ケイがツアーを担当してくれるようになってから、入場者が爆増したよ」
「セレナが男性客、僕が女性客を呼ぶことで王国中の人を呼べているんじゃないかな?」
「すごい自信ね」
ケイの軽口にセレナが呆れた表情を見せた。最初は驚いたものの、セレナの裏の顔にもすっかり慣れた。どうやら聖女の顔は表だけで、仲良くなった相手には素を見せてくれるらしい。ここまでの関係になれたのも、エイミーのおかげだ。
ケイはエイミーの笑顔が見たいからという理由だけで、ツアーの手伝いもするようになった。
『ケイ、すごい! ケイのおかげで植物園の魅力が伝わったね!』
先日、病欠の魔術師の代わりとして急遽ツアーの引率を受けたケイは、そう言って喜んでくれたエイミーの笑顔を見て、手伝いを続けることを決めた。
ツアーガイドは客として受けたことがあったし、エイミーと植物園内を歩くことで場所も説明も覚えていたので、そつなくこなすことができた。それに加えてわかりやすく噛み砕いて説明するケイのツアーは、女性だけでなく子どもにも人気になっている。
(皮肉なものだな……画策しているときは何も進展しなかったのに)
すっかり職員の一員になってしまった自分を自嘲気味に笑う。ケイはツアーガイドの仕事を得て、植物園内の行動許可範囲も広がったのだ。
セレナとはツアーガイド仲間として接するうちに、仲良くなった。なんでも、エイミーを大切にする姿勢が認められて、セレナから歩み寄っても良いと思ったのだとか。
『セレナ様がわたしなんかと仲良くしていると評判を落とすので、内緒にしてください!』
エイミーはやはりセレナと仲が良かったようだ。エイミーの説明に納得できないものの、ケイは承諾した。
(セレナが仲良くすることで、逆にエイミーの立場が守られるんじゃないのか?)
そんな疑問が湧いたが、エイミーが必死に頼むのだから仕方ない。
(すっかりエイミーに弱くなったな、僕も……)
これが惚れた弱みというやつだろう。ケイはエイミーが秘密の一つをまた打ち明けてくれたことに喜びを感じていた。それは、王国の秘密を暴くためじゃない。エイミーともっと心で繋がりたいと思うからだ。
「エイミーも可愛くなったよね。ケイのおかげかな?」
セレナが視線を向けた先には、エイミーがいた。
「元から可愛かったよ」
「はいはい。ごちそうさま」
ケイの言葉に呆れながらも、セレナは嬉しそうだ。自分と同じく、エイミーを大切に想っている目だと思う。
最近のエイミーは、セレナに相談しておしゃれを頑張っているらしい。最近は制服のワンピースではなく、淡い色のワンピースの上に新調したローブを着ている。
それが恋人である自分のためだというのだから、ケイはニマニマしてしまう。
エイミーはおしゃれとともに前髪も上げるようになった。その前髪を留めるのは、ケイがプレゼントしたピンだ。
「あれ、独占欲丸出しだよね。皇子様なのに余裕のないことで」
エイミーはこちらに気づいたようだ。嬉しそうに手を振っている。セレナはそんなエイミーに手を振りながら、ケイに皮肉を言ってきた。
(自分でもそう思うんだから、セレナも気づくか。エイミーだけは気づいていないみたいだけど……)
エイミーのピンには自身の瞳の色であるアクアマリンが輝いている。常にそれを身に付けているエイミーを見れば、ケイの心は満たされた。
「おい、見ろよ魔女だぜ」
「え!? 魔女!? あんな可愛かったか!?」
少し離れたところで男性魔術師たちがエイミーの噂をしている。
目立たないよう植物園の隅を歩いていたエイミーだったが、おしゃれを始めてから目立つようになってしまった。声をかけられることも増え、元々明るい性格の彼女は魔女という評判を変えつつある。
「そりゃあ、ないよ。だってあんなに可愛い子、見つかってしまったらほっとく男はいないからね。……ああ、だからバーナードは隠していたのかな?」
「あいつは拗らせてるだけ」
セレナに笑みを向けると、ケイは「失礼」と声をかけて噂をしていた男性魔術師たちのもとへと向かった。
「ダメだよ。あの子は僕と付き合っているんだから」
「ケ、ケイ殿下!?」
彼らは他の部署の魔術師のようだ。ケイに面識はないが、自分のことは知っているようだ。
「え!? 魔女と殿下が恋人って噂は本当だったんですか?」
植物園中に広まっている噂だが、どうやらまだ信じていない者もいるようだ。
ケイはにっこりと笑うと、彼らに牽制するように言った。
「そうだよ。エイミーは僕の恋人だから、手を出さないでね。ほら、彼女が付けているピンは僕の瞳の色でしょ?」
そう言われた魔術師たちがエイミーのピンを見て、顔を赤らめた。
男性が自身の色を女性に身に付けさせるのは、自分のものだと誇示して他の男を寄せつけないため。それは王国でも帝国でも変わらない風習だ。
「そういうわけだから、他の人にも言っておいてね」
ケイは魔術師たちにウインクをすると、エイミーのもとへと駆けだした。後ろでは「マジ!?」と魔術師たちが騒いでいる。
(これで確実にエイミーと僕の仲は周知されるはず)
これまでも見せつけるように行動してきたが、エイミーが目立ち始めた今が最大の機会だろう。
(あとは……バーナードか)
「ケイ!」
笑顔で迎えてくれるエイミーに、ケイも笑顔を作ると、抱きしめた。
「ケ、ケイ!?」
自身から逃れられないよう強く抱きしめれば、エイミーからおずおずと背中に手を回された。
恋人らしくあるためにエイミーが頑張ってくれているのは、おしゃれだけではないようだ。
「好きだ……」
「わたしもケイが好き……だよ」
溢れる想いを口にすれば、当たり前のように返してくれる。
(ああ……本当に僕はもう君がいないとダメなんだ……)
ケイはエイミーを強く抱きしめると、新たな決意を胸に抱いた。




