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王立植物園の魔女は恋がしたい〜恋多き落ちこぼれ魔女の正体は、最強の愛し子です!〜  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!
第四章 皇子と魔女の刹那の幸せ

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皇子と魔女の刹那の幸せ③

「お疲れ様」

(終わっちゃった……)


 川の上の移動を終え、ケイはエイミーを道に下ろしてくれた。


「そんな顔しないで。お楽しみはこれからだよ」


 残念そうに俯くエイミーに気づいてくれたケイが、指を絡めて手を繋ぐ。


「お腹空いたでしょう? 美味しい屋台があるんだ。行こう!」

「う、うんっ!」


 繋いだ手を引き、ケイが楽しそうに笑う。その笑顔が眩しくて、エイミーも笑顔になった。



「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」


 ベンチに座って待っていたエイミーにケイが差し出してくれたのは、紙に包まれたクレープだ。


「ここのは格別に美味しいんだ。どうぞ」

「いただきます」


 ケイは自身のクレープをかじりながらエイミーの隣に座った。ケイに続いてエイミーもクレープにかじりつく。

 クレープは細かく刻んだ肉と野菜がふんだんに包まれており、肉汁がじゅわっとエイミーの口の中に広がった。


「美味しいっ!」

「でしょ? 良かった。バーナードはレストランを予約していたみたいだから、そっちのほうが良かったって言われたらどうしようかと思った」


 ふふっと笑いながら見つめてくるケイに、エイミーはブンブンと首を横に振った。


「誰かと屋台のごはんを食べるなんて……初めてで楽しい、です」


 エイミーは平民出身だ。慎ましい生活を送る実家では、王都の街で買い物も外食もしたことがない。特級愛し子に認定されてからも、学園や植物園の外へ出ることはなかった。


「え? バーナードとも?」


 ケイが驚いた顔でこちらを見た。

 バーナードが婚約者候補なのは公表されていないことだ。なので、表立って二人で出掛けるということはなかった。研究室でお茶をするくらいだろうか。

 エイミーが頷けば、ケイはくしゃりと笑った。


「嬉しいな。またエイミーの初めてをもらえた」

(うひゃああああ!)


 こんな些細なことで喜ぶのは自分だけだと思っていた。


(ケイも……同じ気持ちなんだ)


 嬉しくて気恥ずかしくて、エイミーは俯いてクレープを頬張った。クスリと笑い、ケイも前を向いてクレープを食べ進める。そしてあっという間に平らげると、紙をくしゃりと丸めて言った。


「美味しいものはまだまだあるよ。全部にエイミーを連れていくから」


 そう言って立ち上がったケイは、エイミーに手を差し出した。


「ふあっ、ふぁい!」


 エイミーは急いでクレープを頬張ると、ふにゃりと頬を緩めてケイの手を取った。



 ケイは本当にいろんな店を知っていて、エイミーはお腹がいっぱいになるまで屋台飯を楽しんだ。


「はい、エイミーの分」

「ありがとう」


 最後にやってきたのは、果実水を出す屋台だ。

 野外には丸いテーブルと椅子が四つ点々と置かれており、そこでゆっくり飲んでいけるようになっている。

 エイミーはケイから果実水を受け取ると、そのテーブルに向かい合わせで座った。


「ケイ、わたしより王都の街を把握しているね」

「ふふっ、学園時代から街にはよく出ていたんだ。薬屋を見て回るのが好きでね」

「学園に留学中もホスト役はいたの?」


 果実水を飲みながら、エイミーはケイに質問をしていく。随分打ち解けた気がして、今なら何でも聞けそうな気がした。


「学生時代は今より自由だったかな? 制限はあったけど、薬屋の販売が厳格になったのも特効薬ができてからみたいだし」

「そう……なんだ」


 エイミーは改めて自身の作った薬が厳重に守られていたことを知る。その責任がずしりとのしかかってきたようで、心が重く感じた。


「だから、僕の初めての人はエイミーだよ」

「っ、っ、ホスト役、だよね!?」


 ケイの言葉にその重さが払拭される。エイミーは熱い顔をまっすぐに向けてケイを見つめた。

 ケイは真剣な顔をして、テーブルにのせていたエイミーの手を握りしめてきた。


「キスをしたのも、エイミーが初めてだよ」

「ひゃああああ!」


 思わず口にして叫んでしまった。

 エイミーだって初めてのキスだ。二回のキスは、幸せで溶けてしまいそうな多幸感に包まれたことを思い出す。


「エイミー、可愛い」

「もっ、そんなこと、言わないでっ……」


 顔を真っ赤にして俯くエイミーの手を、ケイが重ねていた手に力をこめてから立ち上がる。


「エイミーは可愛いよ。もっと自信を持って」


 そう言ってケイはエイミーの手に何かを握らせた。


「これ……?」


 手を開けば、ヘアピンが収まっていた。銀細工で作られた花がついたヘアピン。花の中央にはアクアマリンの石が埋め込まれている。

 エイミーが見上げれば、ケイは手からヘアピンを取り、前髪を持ち上げるように付けてくれた。


「うん。もっと可愛くなった」

「ふわ!?」


 急に視界が開け、エイミーは思わず両手で顔を覆った。その両手をケイが優しく顔から剥がす。


「は、恥ずかしい顔だから隠さないと……」


 エイミーはバーナードに言われたことを思い出して俯いた。


「もしかしてバーナードに言われた?」


 エイミーの両手を掴んだままのケイに頷く。ケイはふうと息を吐くと、エイミーに顔を近付けてきた。


「僕の言うこととバーナード、どっちを信じるの?」


 その表情は少し拗ねているように見える。エイミーは迷いながらも答えた。


「ケイを……信じたい……」

「うん。エイミーは誰の恋人?」

「ケイ……」

「うん」


 笑顔になったケイの唇が額に落ちる。


「ケ、ケイ! 人が見て……」


 慌てるエイミーにケイはにっこり笑った。


「僕は王国中の人にエイミーが恋人だって見せびらかしたいくらいだけど?」

「も、もうっ!」


 唇を曲げるエイミーに、ケイがあははと笑う。幸い、エイミーたちを見ている人はいないようだ。

 ケイが席に座り直したところで、エイミーはふと、前に感じていた疑問を口に出した。


「でも……ケイは皇族だから、王国が平和とはいえ一人で出歩くのは心配されるんじゃないの?」


 エイミーも護衛がいないと外に出られない。皇族であるケイもそうだろうと思っていた。

 ケイはエイミーの質問に表情を曇らせると、泣きそうな顔で笑った。


「皇族といっても、僕はいらない皇子なんだ」


 ケイの口から出てきたのは、エイミーが想像もしない内容だった。

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