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恋多き落ちこぼれ魔女の正体は、最強の愛し子です!  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!
第四章 皇子と魔女の刹那の幸せ

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皇子と魔女の刹那の幸せ②

「よし、ここで最後だな。レストランを予約してあるから昼食にする。ここから歩いて行くぞ」

「人のデートを勝手に仕切るなんて酷いね」


 いくつかの薬屋を視察した後にバーナードが告げれば、ケイは肩をすくめた。

 ケイは終始エイミーの手を繋いだままで、本当にデートなのかと錯覚してしまう。


「ちっ、視察だって言ってんだろうが。行くぞ」


 ずっと機嫌の悪いバーナードに申し訳なくなり、エイミーはケイを見上げた。


「ケイ……ごめんね」

「なんでエイミーが謝るの?」

「えっと……一応、婚約者……候補なので……ケイにあんな態度を……ひゃっ!?」


 口をもごもごとさせながら説明していると、ケイに繋いでいた手を持ち上げられ、甲にキスされてしまった。


「酷いな、エイミー……君の今の恋人は僕でしょう?」

「う……あっ……」


 手に唇をつけたまま上目づかいでこちらを見てくるケイに、エイミーは真っ赤になって視線を漂わせる。


「おい! 何してる!? 早く行くぞ」


 先を歩いていたバーナードがこちらに向かって叫んでいる。エイミーはハッとして足を進めようとした。が。


「エイミー、ちょっとごめんね?」

「へっ? ――ひゃあああ!?」


 ケイの声に振り向くと同時に、エイミーは彼に横抱きに持ち上げられてしまった。


「おい!?」


 何事かと走り戻ってくるバーナードとも、後ろに控える騎士たちとも違う方向に、エイミーを抱えたままケイが走り出す。その方向には橋があった。


「ケイ!?」

「舌を噛まないようにね。少し我慢して」

「ケイ! てめえ!」


 後ろでバーナードの怒鳴り声が聞こえる。ケイは振り返ることなく、そのまま橋から飛び降りた。


「ひゃああああ!?」


 下は川が流れている。深さもそれなりで、泳げないエイミーは青ざめた。


「大丈夫だよ」


 ケイの優しい声とともに、足元がキラキラと光り輝いた。瞬間、ざあっと水の上を滑るように、ケイの足が川の上を移動していくのが目に飛び込んだ。


「うわあ……水の魔法!?」


 水魔法をこんなふうに使うなんて。心地よく頬を撫でていく風を感じながら、エイミーは興奮した。


「怖くない?」

「うんっ、楽しいです!」

「あはは、良かった」


 バーナードの姿は遠ざかり、声もすっかり聞こえなくなっていた。


「いいのかな……」


 怒り狂うバーナードが想像できて、エイミーは顔を曇らせる。しかしケイは、いたずらっこのようにウインクしてエイミーを覗き込んだ。


「後で一緒に怒られよう。僕はエイミーとデートがしたかったんだ。少しくらい楽しんでもいいだろう?」

「ふふっ、ケイが一緒に怒られてくれるなら、頼もしいです」


 その顔にエイミーも共犯者のように笑った。

 こんなことは初めてで胸が高鳴る。バーナードに内緒で植物園内をウロウロすることはあっても、外出することなんてなかった。しかも恋人と一緒なんて!

 ふふっとケイを見上げれば、優しく細められた瞳がエイミーに向けられた。流れる風がエイミーの前髪を吹き上げ、くっきりと美しい水色が目に映る。


「やっと僕だけ見たね」

「へっ」

「バーナードのこと、ちらちら気にしていただろう?」

「あ、あのっ、それは……」


 唇を尖らせていたケイは、ふっと笑みをこぼすと、エイミーとおでこを合わせた。


「今からは僕だけを見て、エイミー。改めてデートしよう」

「は、はいっ……」


 顔が近すぎて、心臓がうるさい。これではキスをする距離みたいだ。

 エイミーはこの前キスされたことを思い出し、恥ずかしくなって目をつぶった。すると、ちゅっと額に温かな唇が触れる。


「ひゃ!?」


 大きく目を見開けば、至近距離でケイと目があう。


「期待した?」


 意地悪なケイの笑みに、エイミーは顔を真っ赤にして首を横に振る。


「……僕だけがエイミーの恋人だと思っているのかな?」

「そっ、そんなこと、ないっ、です!」


 頑張って否定すれば、ケイの声がエイミーの耳をくすぐる。


「言葉にして。エイミーは誰の恋人?」


 優しく責め立てる声に抗えない。抱きかかえられたままなので、逃げることもできない。エイミーは勇気を出して声を振り絞った。


「ケイ、です! ふむっ……」


 瞬間、エイミーはすぐに唇を塞がれてしまう。

 優しく重なった唇を離すと、ケイははにかんでみせた。


「嬉しい」

「ケ……んっ……」


 ケイはそう言うとまたエイミーの唇を塞いだ。

 橋の下を移動するエイミーたちを見る人などいない。水の上は二人きりだ。

 ケイはエイミーが落ちないようにしっかりと抱きかかえてくれている。細く見えるのに鍛えられた身体は、努力家なケイを表わしているようだ。


(すごい……恋って、こんなに幸せをもらえるんだ)


 甘くて幸せなこの時間がいつまでも続けばいいと願いながら、エイミーは安心してケイに身体を委ねた。

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