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恋多き落ちこぼれ魔女の正体は、最強の愛し子です!  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!
第三章 皇子様と魔女の恋

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皇子様と魔女の恋⑤

「ケイ、こっちです!」


 ケイはエイミーに連れられ、植物園の奥までやって来た。ここまで入るのは初めてだ。ホスト役のエイミーがいなければ無理だっただろう。

 ケイは先ほどの出来事を思い返す。


  * * * 


 エイミーは同僚から酷い目にあっているはずなのに、明るく振舞っている。その原因に拍車をかけたのはケイだ。

 ケイは交際宣言することで、エイミーが妬みを買うことはわかっていた。わかった上で皆に見せつけるように振舞った。


(そうして頼るのが僕だけになって依存して、僕の言うことだけ聞くようになれば……)


 そう画策していたのに、ケイは初めて見たエイミーの涙を拭ってあげたいと思ってしまった。それだけではとどまらず、ふにゃりと笑うエイミーが愛おしくてキスしてしまうのを止められなかった。


(何をやっているんだ! もっと僕に落としてからじゃなきゃ意味ないだろう!!)


 そう思うのに、エイミーの初めての相手が自分で良かったと安心する自分がいる。

 バーナードは本当にまだ候補なのだと、自分が割り込む余地はあると思ってしまうのは、計画だからじゃない。

 とっくにエイミーに惹かれているのだとケイは認めるしかなかった。

 認めてしまえば自分のしたことに後ろめたさを覚える。エイミーに辛くはないかと問えば、予想外の言葉が返ってきた。


「えっと、楽しい……です、よ?」


 それは嘘をついているようには見えなかった。エイミーは本当に植物園が好きなようで、楽しいと笑う。しかも、卑怯な手でエイミーに近付いたケイのおかげでもっと楽しいと言ってきた。

 心臓が掴まれる思いで、ケイはエイミーを抱きしめた。


「……ケイがこの国にいる限り、側にいますよ?」


 吐き出した思いに応えてくれたエイミーの言葉に、ケイは泣きそうになって我慢した。

 しばらくの抱擁のあと、エイミーが話題を変えるように明るく言った。


「そういえば、ケイはこの畑に水やりをしてくれていたんですね」


 ケイは創薬の研究をメインにしているが、属性は水だ。得意の水魔法は薬草生育の分野でこそ役に立つ。

 そこで研究の傍ら、ケイは研究室に繋がる畑だけ水やりを手伝っていたのだ。


「どうしてわかったの?」

「えっと……ここの薬草だけ生育が良い、ので……」


 口ごもりながら話すエイミーにケイはそうなのかと首を傾げた。

 ケイは他の畑に行くことはできない。大抵の薬草は研究室に繋がる畑で事足りるから、行く必要もないのだけれど。


「レンデュカの花はこの畑にしかなくて……今日やっと摘めました……」

「だからここに何度も来ていたの?」


 ケイはエイミーが他の魔術師に絡まれてしまうことで、薬草を摘めていなかったのだと理解した。

 エイミーのほうは気にしていないようで、摘み取った花を見て顔を綻ばせた。


「わたしの畑でも育てているんですけど、中々花をつけなくて……やっぱり水魔法を浴びないとダメなのかなあ」


 薬草は普通の水で育つ品種もあるが、水魔法の使い手が魔法で出す水でしか育たないものもある。

 しょんぼりした顔をするエイミーに、ケイはじゃあと妙案を思いついたように言った。


「僕がエイミーの畑に水やりをするのはどう?」


 エイミーは一瞬驚いたような、困ったような顔を見せたが、すぐに好奇心に抗えないといったわくわくとした顔に変わった。


 * * *


「えっと、ここがわたしの畑、です」


 植物園の奥は中央よりは暗さがあるものの、ほのかに太陽の光が届いている。王国が誇る天井のガラスを遮るように、奥には深い森が見えた。


(あそこが立ち入り禁止区域だな……)


 ケイの想いに反するように、トントン拍子に計画が進んでしまった。


「えっと、これがレンデュカの畑で……」


 嬉しそうに畑を紹介するエイミーに、ケイの胸がずきりと痛む。


(まさか、本当にキスをしたことで心を許して……?)


 そんなつもりはなかったと言い訳をしながらも、秘密を探ろうとする自身もいて、ケイは自分が心底嫌になった。


「ケイ?」


 心配そうにこちらを見てきたエイミーに、ケイは慌てて皇子様の笑顔を繕った。


「じゃあ、いくよ?」


 畑に手をかざせば、エイミーの瞳が期待で輝く。


(精霊は近くにいないが……いけるか?)


 今、この場にいるのはエイミーの肩に乗る精霊だけ。異質な形をしているがおそらく緑の精霊だから、水魔法の力は借りられない。

 ケイは精霊に向かって魔力を差し出すように、もう片方の手を天に掲げた。すると、一気に魔力が集まり、畑にかざしていたほうの手からキラキラと水が降り注いだ。


(なん、だ……? 力がみなぎる……この力は――)


「うわあ!」


 ケイの魔法を初めて見たときと同じようにエイミーが歓喜の声を上げる。

 ケイは森へと向けた視線をエイミーへ戻した。


「すごい、ケイ! ありがとう!」


 ケイの魔法の水を浴びたレンデュカはあっという間に茎を伸ばし、蕾をつけていた。


「明日には咲いちゃいそうだね」


 畑を覗き込むようにして屈むエイミーの隣に、ケイも腰を落とす。


「エイミーのほうが咲いたみたいだ。可愛い」


 そう言ってエイミーの前髪を持ち上げれば、熱を宿した瞳が現れる。


「そんなこと言ってくれるの……ケイだけ、です」


 視線を漂わせるエイミーに、ケイの独占欲がムクムクと湧きあがる。


「本当に? バーナードは?」

「バーナード様!? なんで!?」


 驚くエイミーは、本当にバーナードの気持ちには気づいていないようだ。しかもバーナードのほうはまだ「様」呼びなことに自尊心がくすぐられる。


「じゃあ、エイミーの初めては全部僕にくれる?」

「ふわっ!?」


 顔を真っ赤に爆発させて、エイミーが倒れそうになる。ケイはすかさず受け止めて、エイミーを抱き上げた。


「エイミー、可愛い」

「…………っ、っ!!」


 顔を真っ赤にして抗議してくるエイミーを本気で愛おしいと思う。


(任務をしくじれば、僕の命はない……でも、君の側にずっといたい)


 ケイは自身の止められない想いと、国からの任務の間で揺れていた。

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