皇子様と魔女の恋③
「わあ、この薬草、発育が良くなってる!」
「うにょぉぉ」
ウニョと一緒に畑へ薬草を摘みにきたエイミーは、屈んで薬草へと手を伸ばす。
最近のバーナードは魔物討伐で忙しいらしく、会っていない。手紙は来るが、その連絡と「機密は死守しろよ」とだけ。ケイのことについてうるさく言われると思っていたエイミーは拍子抜けだ。
「ちょっと! 薬草を摘むなら、水やりもしていきなさいよね!」
畑にやってきた女性魔術師の一人が、エイミーを見つけるなり叫んだ。
「さっきまで精霊が飛んでいたのに、魔女が来た途端にいなくなったな」
(今日はウニョちゃんがいるから……)
今度は男性魔術師がやってきて、不快そうな顔でエイミーを見た。
二人は畑の世話をする魔術師だ。何度か絡まれたことのあるエイミーはへらりと笑顔を作るが、目元が前髪で隠れているため、口元しか二人には見えない。
「やだ、気味悪い! 私たちも呪われるかも」
「え? それって魔女が失恋したらの話だろ?」
「だからお優しいケイ様が人柱になって私たちを守ってくださっているのよ! 彼が帰国したら災いが訪れるかもしれないわ!」
(ううう……そんな噂になっているの?)
エイミーとケイがお付き合いをしているという噂を、知らない者はこの植物園内にはいない。
ケイは人前だというのに手を繋いでくるし、カフェではカップルシートと呼ばれるソファーにエイミーを座らせて密着もしてくる。その光景に二人が本当に付き合っているのだと魔術師たちは衝撃を受けていたはずだが。
(けっきょく、変な噂になっちゃうんだよな……ケイはどう思っているんだろう)
エイミーはどう思われようが気にしない。だが、ケイとは楽しい思い出のまま別れたいと思っていた。
「あ、のっ……わたし、人を呪うなんて、できない、です」
立ち上がり、魔術師の二人に向かって告げる。
エイミーが初めて言い返したことに、二人は驚いているようだった。顔を俯かせれば、長い前髪が宙で揺れる。
「そんなことわかってるわよ」
「……え?」
女性魔術師の言葉にパッと顔を上げれば、冷ややかな目がエイミーを睨みつけていた。
「魔力量の低いお荷物のあんたが、私たち魔術師に呪いなんかかけられるものですか。でも、そうね。陰気なあんたの存在が精霊を遠ざけて私たちの邪魔をしている可能性はあるわ」
逆である。
魔術師たちがエイミーに酷いことをするから、怒った精霊たちが力を貸さないのである。そのたびにエイミーが精霊たちを宥めてお願いしていることなど、この国の魔術師たちは知らない。
もちろんそんなことは言えないが、否定はしたい。どう言おうかと逡巡していると、肩に乗っていたウニョが怒りで威嚇した。
「シャー」
「やだ! 気持ち悪い! まだそんなのとつるんでいるの!?」
「いえ、あの……ウニョちゃんは精霊で……」
ウニョを宥めながら、エイミーは女魔術師に近付こうとした。
「来ないで!」
ばしゃりとエイミーを水が襲う。どうやら女魔術師が水魔法を使ったらしい。しかしその水はエイミーに当たることなく、横に逸れて薬草へとかかった。
「うにょ!」
叫ぶウニョが睨む先には、女魔術師に力を貸してしまったことで震える精霊がいた。まさかエイミーを攻撃するなんて思っていなかったのだろう。精霊は魔力に惹かれて力を貸してしまう生き物なので仕方ない。間一髪で魔力の流れを逸らしたのはウニョだ。
「ひっ……呪い」
女魔術師は自らの手とエイミーを交互に見ると、震えながら叫んだ。
「きゃああああ! 呪いよおおお!」
「ひいいい!」
逃げ出した女魔術師の後を追うように、男性魔術師も逃げていく。
畑に取り残されたエイミーはぽかんとした。
「あ、水やり……」
本来は彼らの仕事である。しかしこの時間に水やりをしないと、萎れてしまう薬草もあるのだ。だからこそ、この植物園内の薬草は緻密に管理されている。
「うにょぅ……」
まだ唸っているウニョを撫でながら、エイミーは怯えていた精霊に声をかけた。
「大丈夫よ。気にしないで。あの人にも変わらず力を貸してあげてね?」
精霊は頷くと、慌ててどこかに飛んでいってしまった。それを見送り、エイミーは畑を見渡す。
「さて。水やりしようか」
* * *
「エイミー!?」
畑にやってきたケイは、エイミーが広い畑を一人で水やりしているのを見て驚いた。
「ケイ!? どうしてここに……」
ケイに気づいたエイミーが驚きの声を上げた。その表情は前髪で目が隠れているため、わからない。
「いや……この精霊が慌てた様子で僕を引っ張るから」
「研究室までケイを呼びにいってくれたのね……ありがとう」
意思疎通ができない精霊にもきちんとお礼を告げるエイミーに、ケイは目を細めた。
(やっぱり、いい子だよな)
精霊が室内に入ってくることはめずらしい。驚いたケイだったが、その必死な様子に何かあると思ってついてきたのだ。
幸いこの畑は、研究室に繋がる場所なのでケイも行き来が許されている。
(きっと精霊はいじめられているエイミーを助けたかったんだろう)
エイミーの魔力量が少ないことをケイは知っている。それでも精霊に対するエイミーの態度を見れば、好かれているのがわかる。
「でも、なんでケイを……?」
首を傾げるエイミーに近付き、ケイは彼女の前髪をそっと持ち上げた。
「それはやっぱり、僕が恋人だからじゃない?」
モスグリーンの目が見開かれ、顔が赤く染まる。ケイはこの顔が好きだ。
ケイのことが好きでたまらないという、まっすぐに好意を向けてくる顔。
ケイはふふっと笑うと、エイミーにいたずらっぽく言った。
「エイミー、僕の属性覚えてる?」
「あっ」
エイミーのキラキラとした期待の目が向けられ、ケイの高揚感が高まっていく。
「そう、水魔法は僕の一番得意な魔法だよ」
エイミーの期待に応えるように、ケイはちょっとだけ得意げに言ってみせた。




