↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋多き落ちこぼれ魔女の正体は、最強の愛し子です!  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!
第三章 皇子様と魔女の恋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/36

皇子様と魔女の恋②

 ケイがエイミーと付き合いだしたという噂は、あっという間に広まった。職員たちの間で出る話といえば、そのことばかり。


「ねえ、ケイ~? あたしともデートしましょうよ」


 研究室で成分の数値を取っていたケイは、すり寄ってきた女性魔術師に申し訳なさそうな顔を向けた。


「ごめんね。僕はエイミー一筋だから……」

「ええ~」


 目の前の女性魔術師は口を尖らせ、不満を表わした。


(交際宣言でこういうのは減ると思ったんだけどな……まあ、いい。こういう子のほうが扱いやすいからね。まだ利用価値があるかもしれないし)


 ケイは不満そうな女性魔術師に笑顔を作ると、顔を近付けて囁いた。


「でも、気持ちは嬉しいよ。二人きりで出掛けるのは無理だけど……みんなでならどうかな? 留学中はチームの一員として仲良くしたいし」

「ケイ……!」


 女性魔術師はそれでもいいと目をハートにして頷いた。


(他の子ならこんなに簡単なのにな)


 その場を離れていく女性魔術師に手を振りながら考える。


(エイミーとは恋人までこぎつけたけど……)


 エイミーがケイを好きなのは明らかだ。しかしどうしても一線引かれたような感覚が拭えない。


(僕を見つめる瞳は恋する女の子そのものなのに……なんなんだよ)


 エイミーを完全に自分に落として、情報を引き出す。計画は上手く進んでいるはずだ。それなのに、手に入れた感覚がしない。このイラつく感情はなんなのか。ケイはそのイラつきを出さずに、研究へと戻る。

 ここには他の魔術師たちもいるから、完璧な皇子様の顔を崩すわけにはいかないのだ。


(まあ、今日も会えるだろうし。今度はどうしようかな)


 エイミーはケイのホスト役だ。この研究の時間が終われば迎えにくる。

 交際宣言をしてからもカフェで薬の話はしているが、ケイは攻め続けていた。移動するときは常に手を繋ぐし、カフェも奥の席で向かい合うのではなく、二人掛けのソファを使うようになった。そこで横並びに座り、身体を密着させて語らうのだ。

 そんなケイの行動にエイミーがいちいち赤くなるので、ケイは可愛いなと思っていた。薬の話になるとたちまち興奮した様子で人が変わるのも、愛しいなと思ってしまう。


(……! 僕が絆されてどうする……!)


 エイミーのことを考えているうちに、思考が逸れてしまった。ケイはこれからの計画を練るべく、目を閉じて精神統一をする。


(そういえば、最近は頭がすっきりしているな)


 エイミーから情報を引き出すことばかりに頭を割いていたため、ケイはすっかり忘れていた。エイミーから薬をもらった日に熟睡できたことを。

 あれから続けて飲んでいたが、今は薬がなくても眠れている。


(あの薬…………)


 ケイはエイミーが作った薬の成分を調べたが、エイミーの言う通りの薬草でしか作られておらず、苦いだけで特に特別なものではなかった。それでも眠らせるだけでなく、ケイの自律神経をも整えてしまった薬には驚いていた。


(睡眠薬は副作用も出やすいものだが……)


 実際、帝国で扱われている睡眠薬は、最初は眠れても多用するほどに逆に不眠へと陥るものだ。


(僕の自律神経を壊さないように穏やかに効くって言っていたな。配合だけでそんなことが可能なのか?)


 薬は薬草の掛け合わせと配合だけでは作れない。最後に魔術師の魔法が必要なのだ。


(エイミーは緑の魔術師らしいから、製薬魔法には向いている……でも魔力が少ないんだよな?)


 実際に飲んだ効果の高い薬と、エイミーの評判に違和感を感じる。

 研究の手を止めて考えていると、終業を知らせるベルが鳴った。エイミーが迎えに来るな、と片付けをしてから出口に向かうと、そこにエイミーはいなかった。


「エイミーは?」


 不満げな顔で迎えに来たであろう人物に訊ねる。


「今日は俺が送っていく。が、その前にちょっと付き合え」


 ふてぶてしい表情で顎を突き出すバーナードに、ケイは大きな溜息をついた。



「どういうつもりだ?」


 ケイはバーナードに人気のない研究室の裏手まで連れてこられた。

 やっぱりその話かと溜息をついてバーナードを見る。


「前も言ったけど、君はただの候補だよね? なんでそんなにエイミーに干渉するの?」


 苦虫を潰したかのようなバーナードの表情に、ケイは思わず口元を緩めてしまう。


(本当にわかりやすいな。バーナードを攻略したほうが早いんじゃないかってくらい)


 右手で口元を押さえれば、ぎらりと鋭い目を向けられた。王国が誇る騎士団の騎士だけあって凄みがあるが、ケイは動じない。


「あいつは恋愛ごっこがしたいだけだ。お前みたいな上級者が相手にする女じゃない」


 ケイは目をぱちくりと瞬いた。

 バーナードは何を言っているのだろう。エイミーがケイに好意を持っているのは明らかなのに。


「……それならちょうどいいじゃないか。僕もあの子と恋愛がしてみたいんだから。留学中の思い出作りだよ」


 とりあえず合わせる形で返せば、バーナードはなぜか勝ち誇ったように言った。


「あいつに本気なら泣くなよ?」

「泣かせるな、じゃなくて?」


 おかしなことを言うなと笑えば、バーナードは笑みのままふんっと鼻を鳴らす。

 ケイはバーナードが悔し紛れでそんなことを言っているのだと考えた。


「君も素直になればいいのに」

「……は?」


 バーナードの笑顔が途端に崩れる。本当にわかりやすい男だ。


「これまでエイミーがいいなって思った相手、なんですぐに噂になるんだろうね?」

「……何が言いたい」


 眉を吊り上げたバーナードにケイは笑みを崩さずに続けた。


「その噂、君がわざと流しているんだろう?」

「…………!」

「君は本当に顔に出るね」


 口を真横に結び、固い表情をするバーナードにケイは眉尻を下げて見つめる。


「エイミーが他の男に目を向けるのが、そんなに嫌?」


 ケイはもちろんエイミーが恋多き魔女だと噂されているのを知っていた。だからこそ、自身の魅力で落とせると思ったのだ。しかし、エイミーが自ら男たちに言い寄っているのではないと、話せばすぐにわかった。そこでケイは女性魔術師たちから集めた情報を整理して、バーナードこそが噂の根源だと仮定した。その証拠に、ケイがエイミーをデートに誘った話は、事実を曲げられて噂になった。バーナードはまさかケイがエイミーと付き合うとまで言い出すと予想していなかったのだろう。


「……あいつは俺のものだ」

「本音が出たね」


 ケイの問いにバーナードが牽制をしてきたので、思わずふっと笑みが漏れる。


(まだ候補だから、他の男を近付けないようにしていたんだろうな。でもなんで候補のままなんだ?)


 今まで深く考えてこなかったが、侯爵家の長男で騎士団のエリートでもあるバーナードが、なぜ平凡な彼女の婚約者候補のままなのだろうか。考えてもわからない。


「あいつに関わるな」

「エイミーが君のもとに必ず戻るという自信があるのなら、少しの間楽しんでもいいだろう?」


 ケイの挑発に、めずらしくバーナードは乗ってこなかった。


「本気じゃないんだな?」

「……僕は帝国に帰るんだよ?」


 肩をすくめてみせれば、バーナードは苛立ちを示すように大きく息を吐いた。


「お前と恋愛ごっこをすれば、あいつも満足するだろう」


 棘のある言いかただ。まるでエイミーは絶対に本気にならないとでも言いたげに。


「いいか、手は出すなよ」


 釘を刺すようにバーナードがひとさし指を突き付けてくる。


(まあ、キスくらいはするだろうけどね)


 ケイはバーナードに頷きながら、クスリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。