留学生と魔女⑤
「彼女、すごい人気だね」
エイミーがテントに引っ込むと、ちょうどケイが木箱を抱えて戻ってきていた。
「あ、ケイ。ありがとう。少し休んでください」
エイミーは木箱を受け取ると、テントの空いている場所を指し示した。ケイは頷いて、そこに腰を下ろす。
「でも、僕が魔術学園に留学中はここまでじゃなかったんだよね。美人だって人気はあったみたいだけど……聖女って呼ばれるようになったのも、植物園で働くようになってからだよね?」
「そっ、う、みたいですね?」
エイミーは目を泳がせた。
(そっか、セレナ様はバーナード様の一つ下だから、ケイとも在学期間が被ってるんだ)
「でも彼女、土魔法の使い手だったよね? 確か専攻も薬草の土壌に関してだったはず……」
疑問を口にしながら見てくるケイに、エイミーは薬を無駄に動かして間を持たせる。
(わわわわ、ど、どう言えばっ……)
内心焦るエイミーに、ケイは腰を浮かせて近付いてきた。
「彼女が薬を作るところ見たことないし……新薬は本当に彼女が開発したもの?」
カチャカチャと薬の瓶を動かしていたエイミーの手の上に、ケイの手が重なる。
(ふ、わわわわ!)
ドキンと心臓が大きく跳ね、エイミーは思わず瓶を落としそうになった。
「おっと」
それをケイがタイミングよく受け止めてくれる。もう一つの手は、エイミーに重ねられたままだ。
「ねえ、エイミーは彼女が薬を作るところ、見たことあるの?」
「か、彼女の作る薬はっ、機密事項でっ……わ、わたしも見たことは……」
透き通る宝石のような水色の瞳に見つめられ、エイミーはクラクラしながら答えた。この瞳に見つめられると落ち着かないのだ。
「そっかあ……じゃあ、僕も見られないのかな。研究者として見てみたいって、エイミーも思わないかい?」
「えと……」
ケイの顔はいつの間にか間近まで迫っていたようだ。おでこがつきそうなくらい近い。
(ひゃわわわ)
顔を赤くして固まるエイミーの前髪を、ケイが優しくかきあげた。
視界が開け、綺麗なケイの瞳が鮮明に見える。ぽーっとするエイミーを覗きこんだまま、ケイが囁いた。
「ねえ、頼んでみようよ。エイミーはセレナと仲良くないの? 君ならそれを元にもっと薬を発展させられると思うんだ。僕もエイミーが新しい薬を作ってくれたら嬉しいな」
ケイは薬の研究に対していつも熱心だ。それに加えて、エイミーを同じ研究者として敬ってくれている。
(ケイならあの作り方でも気持ち悪いって言わないのかな)
エイミーの製薬方法は機密事項だ。他国の皇子であるケイは最も見せてはいけない相手である。それでも、と思ってしまう自分がいた。
「ケイ……あの……」
ケイに視線を戻したところで、エイミーは違和感に気づいた。
「ケイ!? 眠れていないんですか!?」
前のめりで顔を覗きこんだエイミーに、ケイが苦笑する。
「ああ、気づかれちゃったか。恥ずかしいな……」
そう言ってケイは自身の目の下にあるクマを指さした。
(ケイはいつもわたしのことを思いやってくれるのに、全然気づけなかった……)
ケイは今日もずっと笑顔だった。そのことに甘えて彼の体調の変化に気づけなかったことを反省する。
「エイミー、気にしないで。環境が変わって寝つけていないだけだから」
そう言って笑うケイに、エイミーは泣きそうになった。
「ケイはいつも人のことばかりを優先しすぎです……もっと、自分も大切にしてください」
「えっ」
「えっ?」
エイミーの言葉にケイが大きく目を見開いた。自分は何かおかしなことを言っただろうか。
(あっ、そうだ!)
エイミーはいいことを思いつき、立ち上がった。
「ケイ、ここで休んでいてください!」
「えっ? エイミー?」
「ちょっと待っててください!」
エイミーはケイにそう伝えると、テントを飛び出していった。
「ウニョちゃん!」
勢いよく自身の研究室のドアを開ける。ここまで全力疾走で、階段まで駆け上がったものだから息も切れ切れだ。
従霊のウニョは窓際で日光を浴びており、振り返らない。
「お願い、薬を作りたいの」
そう言いながら奥の部屋から必要な薬草をかき集めると、ウニョがいる窓際の机まで戻る。
「うにょ……」
「わ~、最近お留守番ばかりでごめんてば!」
ジト目で振り返ってきた従霊に、エイミーは手を合わせて謝罪した。従霊は常に契約者の側にいるものだから、ウニョが怒るのも当然だ。
「えっと……でも、秘密を明かさなくても、ウニョちゃんのことはケイに紹介したいって思ってるから、もう少し我慢してくれる?」
「うにょ!」
基本、精霊は愛し子に甘いらしいので、エイミーの言葉にウニョはすぐに機嫌を直した。
(そうだよ。ウニョちゃんのこと仲良しの精霊だって紹介すればいいだけじゃない!)
やっぱりケイには薬作りは見せられないが、ウニョを紹介するだけならできる。他の精霊たちと異なる姿のウニョは、魔術師たちから気味悪いと言われているが、ケイなら絶対にそんなことは言わない。エイミーにはそれだけの信頼がケイにあった。
「えっと、じゃあお願いできる?」
「うにょ!」
元気よく返事をしたウニョが大型犬くらいの大きさに姿を変える。
そうしてエイミーは、ウニョの力を借りてケイのための睡眠導入薬を作ったのだった。




