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第23話:七年の隠蔽特訓と成長のインベントリ



 地底における時間は日の出や鳥のさえずりではなく、鋼鉄が花崗岩を削る摩耗の度合いと、ランプが消費する黒油の量、そしてチェストに積み上がっていく古着のサイズによって刻まれる。隠れ滝の要塞の巨大な黒鉄の隔壁を閉ざし、俺たちの隠蔽生活は日常となった。当初は数日間の避難所のつもりだったその場所は、結果として丸七年間に及ぶ完全な隠蔽特訓の日々へと変わっていったのだ。


 俺は三歳の不自由な幼児から、十歳の少年兵へと成長を遂げていた。左肩の鎖骨骨折は完璧に治癒し、強固な骨格へと新生している。十歳の俺の肉体は、小柄ながらも前世の工作兵としての戦闘ドクトリンを寸分の狂いなく実行するための、極めて強靭な筋繊維としなやかさを備えていた。もう周囲を欺くためにたどたどしい幼児のフリをする必要はない。俺のカモフラエー(カモフラージュ)は、地底の誰もが逆らうことのできない、冷徹で凍りついた瞳を持つ「物静かな神童」へと移行していた。


 だが、この深淵の過酷な環境は、俺の肉体にも確かな生体変化(変異)を刻み込んでいた。それは激痛を伴う肉体的な対価だった。

 バンカーに籠って二年目の頃、頭蓋が割れるような凄まじい高熱に一週間近く襲われた。


「死ぬんじゃないわよ、不具の怪物! あんたに死なれたら、アタシはどうやってここから出ればいいのよ!」


 コリンは俺のうわ言の最中、部屋の中をウロウロと歩き回り、怒りと焦燥で白い二つ結びの髪を激しく揺らして叫んでいた。


「黙りなさい、泥棒猫。冷たい水を持ってきて」


 フレヤは引き締まった腕でコリンを押し退け、濡れた布で俺の額を優しく拭いながら冷徹に言い放った。


「ダリオは死なない。私が守るから」


 その変異の果てに、前髪の隙間に隠れるほどの、わずか『1センチメートル』の小さく硬固な二つの黒い角が生え揃っていた。それはフレヤのような圧倒的な熱量を発射する主砲ではなく、純粋な生体レシーバー(受信機)だった。この1センチの角のおかげで、完全な暗黒の中における熱源の感知能力は、以前の十倍以上に跳ね上がっていた。


 この七年間、隠れ滝の要塞は俺たちの私設軍事アカデミアであり、禁忌の図書館となった。俺は深夜、発光菌の薄青い光の下で、バンカーの石の書庫に残されていた古代ドワーフの記録を解読し、あの部屋から奪った教会の禁書と照らし合わせることで、何百時間もかけてこの世界の真のロア(世界観)を掌握した。


 光の女神の教会が、フレヤのような角を持つ子供を「異端」や「罪」として迫害していたのは、単なる信仰の理由からではない。地上の聖職者どもは、自分たちの『神聖兵器』や人工的な奇跡を製造するためのバイオ燃料となる【濃密なエネルギー鉱石】を採掘するため、数世紀にわたりこの深層を極秘裏に侵略していたのだ。奴らは、地底のエネルギーの循環を完璧に制御し、この迷宮の真の所有権を主張する者が現れるのを恐れて、角を持つ変異種を狩り、幽閉していた。角は惑星のエネルギーを物質化する、完璧な生体誘導デバイスだった。


 フレヤは今や十八歳の、圧倒的な存在感を放つ美しい大人の女性へと成長していた。肉虫蕈の豊富なタンパク質により、神殿のアカデミアにいた頃の従順な被害者の面影は、もうどこにもない。そして二十歳になったダークエルフのコリンは、俺の冷徹な戦術眼への絶対的な恐怖と敬意により、完璧に牙を抜かれたパーティの斥候として、俺の命令に絶対服従していた。


 この七年間の宿営地管理において、俺は工作兵としての本能から、ある特殊な兵站の収集癖を発達させていた。彼女たちが着られなくなった古い衣服のすべてを回収し、ドワーフの黒鉄のチェストの中にミリ単位で分類して保管し続けたのだ。


 俺が彼女たちの古着を丁寧に折り畳んで収納していく光景を、コリンは赤い瞳に嫌悪を混ぜ合わせて凝視していた。


「あんた……本当に気持ちの悪い、不具の怪物ね。なんでそんなものを溜め込んでるの? ただの汚いボロ布じゃない。地上の人間って、そんなに悍ましい趣味を持ってるわけ?」


「ゴミじゃない、わるいおねえちゃん」


 俺は十歳の、一切の幼児性を排した冷徹で落ち着いたトーンで応じた。


「迷宮の鉱物と魔力が染み込んだ特殊な繊維は、純粋な軍事アセットだ。前線における最高の止血帯、伸縮性の高い腱ロープ、装甲のパッチの原材料になる。戦争じゃ、布は火薬と同じくらい重要だ。もし次に飢えることがあれば、このボロ布をお前に喰わせてやる」


「反吐が出るわ!」


 コリンは腕を組み、俺の軍人然としたトーンに恐怖して一歩後退しながら吐き捨てた。


「このバンカー、どっちが危険な怪物か分からないわね。あの炎の変異種か、それともあんたのその狂った頭のどちらかよ」


「両方よ」


 新しい黒い革の軍服を纏い、工作用の短剣を腰に帯びたフレヤが前衛室へと入ってきながら言った。


「でも、コリン。私たちには金と力がある。あんたにあるのは、そのうるさい口だけ。ダリオのインベントリが気に入らないなら、外に出てヒルと一緒に寝たらどう?」


 コリンは奥歯を噛み締め、テレーザのような階級的プライドを無理やり呑み込んだ。もしここを出て行けば、自分は再び死体を漁るだけの飢えた浮浪児に戻る。この少年の命令に従うことが、唯一の這い上がる階段なのだ。


「残るわよ」

 ダークエルフの少女は石のベッドの上に腰掛けた。

「ただし、今日の黒鉄貨を要求するわ。あんたのその忌々しい剣を、アタシが一日中研いであげたんだからね」


「ほらよ」

 俺はコインを放り投げた。奴はそれを猫のような敏捷さで空中でひったくった。

「明日、歩く。鋼鉄の切れ味を試す必要がある」


 毎日繰り返される特訓こそが、この暗闇における俺たちの唯一の宗教だった。訓練室で、俺はジェレミアスの2本の細身の剣を使い、高速剣技と外科手術的なカウンターを、十歳の肉体の物理法則に合わせて最適化させていった。


「ダリオ、あなたの構えは低すぎるわ」


 ある午後、俺が細身の剣の分子構造に紫色のエネルギーをインジェクションしているのを見て、フレヤが言った。


「本には、魔力は外に放出して空気を焼き尽くすものだって書いてある。あなたはエネルギーを金属の中に閉じ込めて窒息させているわ」


「地上の剣技は下俗だ、フレヤ」


 俺は一本の花崗岩の鉄骨から数ミリのパリティで刃をピタリと止め、無音のまま応じた。


「無駄な閃光は、暗闇の中で己の位置を露呈させるだけだ。俺はエネルギーを内側に圧縮する。空気を焼くのが目的じゃない。切っ先を高周波の熱振動で満たすんだ。見えない炎こそが、最も深く切り裂く。見ろ」


 外科手術のような正確さで、俺は細身の剣を石ブロックへと滑らせた。鋼鉄は火花を散らさなかったが、花崗岩はまるで溶けたバターのように、滑らかな断面を残して完璧に二つに両断された。


「凄い……」

 十八歳のフレヤの瞳に、野性的な歓喜が宿った。

「私にもその熱の絞り方を教えて。私の濃密な炎のボルトから、あのうるさい爆音を消したいの」


「明日、やろう」

 剣を鞘に収めながら、俺は言った。

「今は休め。古代の鋳造所の最深部が外で俺たちを待っている」


 俺は隠れ滝の内池の縁へ歩み寄り、結晶のような真水に自分の姿を映し出した。フレヤの指先の上で踊る紫色の光球が横から俺の顔を照らし、額から覗く1センチの黒い二つの角が、壁に鋭い影を投影させていた。

 黒い革 of の軍服に身を包み、背中には2本の細身 de の剣をクロスさせて背負った十歳の少年。幼児のフリをしてカモフラージュする弱者の時代は終わった。その瞳には、無数の戦場を生き抜いてきた老兵の死に絶えた光が宿っている。


 俺たちには不落のシェルターがあり、食料があり、隠匿した資産があり、古着の戦略アセットがあり、そして完全に支配された戦闘分隊がある。古代ドワーフの大鋳造所のマップは外で俺たちを待っている。この迷宮の深層は、一人の軍事戦術家が暗闇の中で七年間、 shadow その爪を研ぎ続けていたという事実を、今からその血を以て知ることになるだろう。


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