第22話:隠れ滝の要塞と肉虫蕈
俺たちが地底の臓物に閉じ込められてから、正確に丸五日が経過していた。
地上の村の地面が足元から消え失せ、この奈落へと引きずり落とされてからの五日間。俺たちの身体には、未だに地上の臭い――花崗岩の粉塵、乾いた血、そしてフレヤの湿った衣服の臭いが染み付いていたが、環境への応急適応パニックの時間は終わった。中長期的に生き延びるためには、永続的な陣地セーフハウスが必要不可欠だった。
コリンに黒鉄貨を1枚枠与えて翻訳させた教会の地下採掘マップの炭線を辿り、俺たちは北へと向かって急勾配を下る巨大な通路を進んでいた。大鋳造所のあの澱んだ高気圧の空気は次第に薄れ、代わりに冷たく新鮮な風の循環と、床の岩肌をガタガタと震わせる凄まじい地鳴りのような咆哮が響き始めた。
「着いたわよ」
コリンが断崖の縁で足を止め、ハンドクロスボウを下ろした。奴の赤い瞳には、地底の疲弊と、それを上回る生々しい圧倒的な驚きが浮かんでいた。
「北の大水脈よ」
俺たちは、情勢規模の広大さを持つ超巨大空洞へと配置を向けた。
フレヤの角の紫色の光など、真夜中の蛍の一匹にしか見えないほどの巨体のドーム。目の前では、地上の岩層で濾過された清浄な真水の巨大な滝が、百メートル以上の高さから轟音を立てて深い湖へと流れ落ちていた。その反響は、内なる胸の骨を直接叩くように響く。空気は純粋で、竜の巣のあの忌々しい硫黄ガスは一切存在しない。
『真水の無限供給源:確保』
フレヤの背中のハーネスから地形をスカウティングしながら、俺は心の内でログを更新した。
『生存適応値:極めて高い。だが、原生生物の侵入を防ぐための地政学的なチョークポイントが必要だ』
俺は暗闇の中で目を凝らし、工作兵としての俺の目が完璧な直線(構造物)を捉えた。天然の岩ではない。完璧に切り出された黒花崗岩のブロック、そして密閉されたドワーフ製の巨大な鉄の隔壁だ。古代の軍事居住バンカーの隠し入り口。
「フレヤ、あっち」
幼児のたどたどしい声を姉の耳元に届け、小さな指で滝の裏側を指差した。
「かくれてる。お水の後ろ。いこう」
コリンはテレーザのような階級的なプライドからフンと鼻を鳴らしたが、目の奥にある俺への恐怖(戦慄)は隠しきれていなかった。
「滝の裏? 狂ったの、不具のチビちゃん。泥の底で溺れ死ぬわよ」
ダークエルフの少女は悪態を吐いたが、フレヤが死者の軍靴を強く踏み締めて迷わず前進するのを見て、暗闇の中に一人置き去りにされる恐怖から、結局は俺たちの後ろをトボトボとついてくるしかなかった。
湖の縁を慎重に回り込む。水のカーテンをクラス(横切る)して突き抜ける際、冷たい霧が俺たちの顔を叩き、大天災の泥と汚れを洗い流していった。滝の裏側の空間は天然の岩庇に守られており、バンカーの鉄扉は完全に乾燥していた。黒鉄のレバー(水圧バルブ)は無事だ。フレヤは膝を岩に当て、十一歳の肉体の全質量を乗せてバルブを回した。数世紀の封印を破る鋭い金属音が響き、扉が重く開かれ、完全に乾燥し要塞化された古代の居住区が姿を現した。
侵入した瞬間、フレヤの指先の上で踊る紫色の魔術光が最初に照らし出したのは、数世紀前にここを死守して果てた3体のドワーフ衛兵の白骨遺体スケルトンだった。
装甲は錆びついていたが、その足元には黒鉄で補強された【ドワーフの採掘用ピック(ツルハシ)】が転がり、傍らには完全に密閉された【岩塩ロックソルトの箱】が残されていた。
『居住区の略奪フェーズ:アクティブ』
俺は元軍人としての冷徹な目で白骨を見つめ、小さな手でその遺物を指差した。
「フレヤ、ながいの(長い鉄)もって。白い箱も。つかうの」
フレヤは一切の嫌悪感を見せずに頑丈なピックを拾い上げてコリンへと放り投げ、岩塩の箱をキャンバス袋へと仕舞い込んだ。奥の部屋へと進むと、床一面を埋め尽くす【肉虫蕈にくむしし】の畑が現れた。地底の養分を吸って微かに脈打つ、純粋なプロテイン(タンパク質)の塊。
コリンはエリスが遠征帰りに獲物に飛びつくかのような狂暴な飢えを剥き出しにし、蕈の前に四つん這いになった。細い指先で肉厚の茎をもぎ取ると、そのまま口の中へと乱暴に放り込んだ。
「これ、本物の食い物よ!」
少女の赤い瞳に、生存の歓喜ドパミンが爆発的に点火した。
「塩漬けの牛肉の味がする! この岩塩があれば絶対に腐らせずに保存できるわ。外に狩りに出なくても、何ヶ月もここで暮らせる!」
コリンが蕈を貪る間、フレヤは壁の石装の衣類棚を開いた。そこには乾燥した空気の中で守られていた、ドワーフ民兵の黒い革鎧と頑丈なキャンバス生地の軍用シャツが眠っていた。
フレヤは新しい衣類を見つめ、それからあの部屋での調教のトラウマとお漏らしの泥に汚れた、自分の神殿の聖職衣を見つめた。十一歳の彼女の顔に、冷徹な決意が宿る。
「コリン、これ切って」
もはや反論を許さない引き締まった声で、フレヤは両腕を広げた。
その威圧感に気圧されたダークエルフの少女は、短剣を使って忌々しい聖職衣をズタズタに切り裂いた。フレヤは地上の屈辱の皮膚を脱ぎ捨てると、入り口の滝の縁へと歩み寄り、衣服の残骸を激しい激流の中へと投げ捨てた。地上の汚れが世界の臓物へと押し流されていくのを、彼女は静かに見つめていた。
彼女は民兵のキャンバスシャツを纏い、黒い革の防護ベストを身につけた。サイズは少し大きかったが、ベルトを猛烈な力で締め上げる。彼女はもう従順な被害者ではない。地底の要塞を征く『少年兵ソルジャー』の姿がそこにあった。
『自活的なカロリー兵站:確立。人員の精神的サニテーション:完了』
侵入不可能な要塞を手に入れた強烈な快感が、俺の脳内を駆け巡る。
コリンは軍服を纏ったフレヤを見つめ、それから金貨の袋を隠匿するための強固な石の保管庫を見つめ、最後にベンチに座る俺を見つめた。冷酷な現実が、奴のテレーザのような階級的プライドを完全に叩き潰したのだ。もしここを出て行けば、自分は再び死体を漁るだけの飢えた浮浪児に戻る。だが、この幼児の命令に従っていれば、この不落の要塞で王族のように安全に暮らせる。
コリンは一歩前に出ると、俺の前に『片膝を突いて』跪ひざまずいた。
奴はポーチから地底の地図と修理道具を取り出すと、降伏の証として石のテーブルの上にそれらを並べた。
「アタシもここに残るわ」
コリンは屈辱的な怒りに拳を固く握りしめながらも、その赤い瞳に絶対的な敬意(恐怖)を孕んで吐き捨てた。
「認めざるを得ないわね、この肥溜めは地底のどの街の隅よりマシよ。アタシは二度と貧乏人に戻るつもりはないわ。あんたのために働いてあげる、不具の怪物モンスター」
「わるいおねえちゃん、かしこいの(賢い)」
俺は三歳の幼児の満面の馬鹿笑いを作り、パチパチと不器用に手を叩いてカモフラージュを完遂した。目の奥の老兵の瞳で、パーティの血の契約を承認する。
「これでおねえちゃん、ダリオのお仕事(部下)ね。フレヤ、砦の隊長(将軍)」
俺は古い毛布を抱えて石のベッドへと横たわり、鎖骨の復位痛がようやく消え去っていくのを感じた。戦利品は無傷。真水と食料は無限。そしてフレヤの手には【濃密な炎】の主砲。
俺は地上の世界に向けて、冷徹な蔑みの笑みを心の内で浮かべた。光の女神の教会は、俺たちを異端として大穴に埋めて抹殺したつもりだろうが、この地底バンカーは俺たちの秘密の『塹壕(要塞)』となる。地底の最初の1週間が終わり、長期的な魔術特訓キャンペーンの基盤は、完璧なロジスティクス(兵站)の勝利によってここに確定した。




