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第13話:痛みの逆転(フレヤ視点)



 奈落の底の暗闇は、ただ黒いだけではなかった。

 焦げた大地の臭い、硫黄、そして崩壊した村の残骸から立ち上る死んだ血の鉄臭さが立ち込めていた。しかし、それ以上に私を恥ずかしがらせたのは、自分自身の身体から漂う臭いだった。


 ジェレミアス神父につけられた、指の形をした太ももの紫色のあざは、まだ生々しく残ったままベタついていた。地面が消え失せ、1キロメートルもの虚無に飲み込まれていく落下の瞬間、純粋な恐怖のあまり、私はその場でお漏らしをしてしまっていたのだ。私を守るはずの、そして神父の執務室で無理やり捲り上げられていたあの忌々しい神殿の聖職衣は、今や湿って汚れ、冷たく私の肌に張り付いた。まるで、二重の屈辱の皮膚のように。


 私は十一歳で、瞬く間に全てを失った。完全な暗黒の中を回転しながら落ちていく間、私の頭をよぎったのは、あの執務室での暴力のことだけだった。フォン・カルスキー男爵が私を一夜買うために机に並べた5枚の金貨。私を弄んだジェレミアスの手。奴は私の涙と無力を愉しみながら、容赦なくその手を私の内側にまで伸ばしてきた。身体を侵され、物言わぬ所有物にされたあの不浄な感触、あの指による蹂躙のトラウマが今も太ももに焼き付いて、嫌悪感で身体がガタガタと震える。

 翌日、何らかの奇跡的な神の介入によって、神父や男爵による絶対的な『挿入』だけは直前で免れたものの、あの決定的な恐怖から私を救ってくれたのは神様だと信じていた。それなのに、触られた汚れの記憶は消えない。


『あらゆる屈辱の中で私を満足させることを学び、私が命じた時は膝を突きなさい』


 ジェレミアスの言葉が、呪いのように脳裏で繰り返されていた。光の女神のアカデミアは、聖なる信仰の場所などではなかった。頭に二つの小さな黒い角が生えたというだけで、私を傷ついた動物のように閉じ込めておくための、ただの家畜小屋だった。


 外傷の土砂崩れに巻き込まれながら私の意識が集中できたのは、落下の恐怖と、まだ息をしているという不条理な奇跡だけだった。ホセ叔父さんとセレナ叔母さんは奈落の底へと消えてしまった。私は地下世界の迷宮で、完全に独りきり。


 そう思っていた。――ダリオの重みが、私の膝の上に伝わってくるまでは。


「てて……ちめたい……」


 押し殺したような、たどたどしい声が聞こえた。三歳の彼の声は、衰弱のせいで酷くかすれていた。


 暗黒の中で必死に目を凝らす。フードの下に隠れることに慣れてしまっていた私の目は、従弟のシルエットを捉えるまでに時間がかかった。ダリオは激しく身体を震わせていた。土で汚れた指先で彼の額に触れると、彼は猛烈な高熱に侵され、まるで燃え盛るように熱かった。


 彼の手を引いて背中に回した瞬間、私は悲鳴を上げそうになった。彼の左肩は完全に変形し、幼児の薄い皮膚の下で鎖骨が異常に突き出していた。さっきまで、奇妙なほど落ち着いた口調で私に話し、地底の底まで私を守り抜いてくれた超人的な努力の代償として、今、目の前で肉体の限界を迎えて崩壊しかけていた。


 私の思考回路は完全に焼き切れた。虐待の恐怖と喪失の痛みが、息の詰まるような強烈な罪悪感へと変わっていく。彼はまだ三歳だ。ただの赤ん坊なのだ。それなのに、年上であるはずの私は、彼が私を救うために骨を砕いている間、ただ泣いているだけで何もできなかった。


「フレヤ……いっちゃ……だめ」


 ダリオはうわ言を言いながら、幼児の力のない小さな指で、私の汚れた服を必死に掴んでいた。


「ダリオ……まもる」


 涙が堰を切ったように溢れ出したが、今度はジェレミアスへの恐怖からではなかった。彼のためだった。私の安全のために全てを捧げ、私の弱さのせいで苦しんでいるこの小さな存在を見た瞬間、私の角の奥で何かが着火した。かつては私を恐怖させていた『濃密な炎』の熱が、頭頂部でドクドクと野性的な力で脈打ち始める。


『もう、おしまいだ』


 私は暗闇の中で、涙を飲み込み、これまでに感じたことのない怒りで奥歯を噛み締めて誓った。


『泣くのはもうやめる。怖がるのもおしまい。この子は私のためにその身体を投げ出してくれた。今度は、私がこの子の盾になる番だ』


 この忌々しい世界で、私を愛の目で見つめてくれた唯一の人間を、この膝の上で死なせるわけにはいかない。もし教会がこの角のせいで私を異端と呼ぶのなら、私たちの身体に触れようとする奴らを全員、この呪われた炎で灰にしてやる。


 湿った石の床を四つん這いで進み、汚れた衣服を引きずりながら、近くに落ちていた荷馬車の残骸をあさった。私の震える手は、もはや恐怖ではなく、生存へのアドレナリンで動いていた。ダリオが命がけで守っていたあの古いキャンバス生地の包みに触れる。重い金貨の袋と、触れると冷たい2本の剣の隣から、古い毛布と革の水筒を見つけ出した。頭の奥の熱が、解放されるのを待つように高まっていくのを感じる。


 従弟の側に戻り、彼をそっと毛布で包み込む。乾いた布の切れ端で彼の額の汗を拭いながら、私の涙が彼の熱い頬へとぽたぽたと落ちていった。


 ダリオはうわ言の中で、私の動く方の手を掴み、幼児の肉体の中に残された最後の力でそれを強く握りしめた。


「ここ……」


 彼は目をうっすらと開け、しかし真っ直ぐに私を見つめながら、途切れ途切れに呟いた。


「ぽぽ……いたい。いたい、ないない」


「うん、ダリオ、痛いよね。分かってるよ」


 周囲に漂う死体の臭いを無視して、


「眠って。今度は、私があなたの盾になる番だから。もう一人にはさせない」


私は湿った石の床の上に彼と並んで横たわり、彼の燃えるような小さな身体を胸に抱き寄せ、地下世界の冷気から守った。叔父さんたちはもういないし、アカデミアは腐った思い出でしかない。けれど、この子が息をしている限り、私はこの角の炎の使い方を学び、この地下を私たちの要塞に変えてみせる。私たちは落下から生き延びた。正式に、この深淵を支配して生き延びてみせる。


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