ep.94 あなたの言葉1
第三学年 九月二日 木曜日
宝塚ゆずり葉高校 三年三組教室
「つまらない物ですが」
「これはこれは、本当につまらない物をありがとうございます」
永嶋が家族旅行で買ってきてくれたお土産に一文字が丁重にお礼を述べていたのだ。
そのやり取りを傍から聞いていた川本は(また、あほな事をやってるな)と思いつつもほったらかして村瀬との話を続ける。
「へえ~、北野にそんなオシャレな店があるんや、行ってみたいな~」
「ほんまに?せやったら日曜にでも行ってみいへん?」
「でも、そんなん高いんちゃうの?」
「そんなことないで、結構、お手頃で手に入るねんから行こうや」
「そうなん、それやったら行ってみよか」
「行こう、行こう!」
はしゃぐ村瀬と川本、それは何気ない、いつもの風景であった。
佐那はカルボナーラをフォークにクルクル巻きつけた。
食堂で一緒に食事をしている林が先程からニヤニヤしながら佐那の顔を見つめてくる。
林の怪しい様子が無性に気になり、佐那は口に手をあてながら堪らず訊いてみた。
「もしかして、スープ、口に付いてる?」
ぷっと林は吹き出すとからかう口調で言った。
「ちゃう、ちゃう、そんなんちゃうって」
「じゃあ、なんなん?」
少し、頬を膨らませていじけた口調で佐那が訊くと、突然、林が佐那の頬を優しく撫でた。
「え、なに!なに?」
驚き瞳を大きくする佐那に、林は悪戯っぽく言ってあげた。
「君~、なんか最近、可愛くなってきてへん?」
「え!そんなことないで、前と変わらへんで!」
両手を大袈裟に振る佐那はあからさまに動揺しているのだろう、瞳がキョロキョロとせわしなく動いている。
今更、何をごまかそうというのか、佐那は場に馴染まないクールな表情で紙コップのウーロン茶をグッと口に流し込んだ。
「もしかして、恋してるん?」
ぶっ! 大袈裟な効果音とともに紙コップにウーロン茶が帰ってきた。
頬杖をついて微笑んでいた林の顔にも少なからずオコボレが飛んできた。
「もう、優子ったら、なに言うてるん」
オタオタしながら佐那はハンカチで林の顔を拭く。
「相手は誰かな~、なんて大体、想像はついてんねんけどな」
「まだ続けるん! そんな人いないって、何を根拠にそんなこと?」
「女の第六感って奴やで」
そう言って視線をあさっての方向に向ける林、思わず佐那もついて行ってしまうと、その先には一文字がいた。
素早く視線を逸らす佐那、その様子を見ていた林は可笑しくてしかたなかった。
林は思う、隠れたところで絶大な協力をしてあげてるねんから、これくらいは楽しませてもらわんと割が合わないと。




