ep.89 女として、友として2
「はい歴史のお勉強、薩長同盟を取り持った土佐藩出身の元郷士はだ~れだ?」
「林さん、幕末は私の得意分野ですよ、もちろん、」
「ハイ遅い、答えは坂本竜馬でした」
「あほ、わかっとるわ、言わせんかい!」
「その竜馬は嘘か本当か北辰一刀流免許皆伝とのことです。
まあ、本当のところ免許まではどうか知らんけど北辰一刀流を学ぶために、開祖である千葉周作の弟にあたる千葉定吉の道場に入門しているのは事実やねん」
「で、それが何?」
「アンタ、ほんまに幕末得意なん?」
本当は全く得意では無いのでダンマリを決め込んだ。
「まあええわ、その千葉定吉の娘に千葉佐那ってのがおるんよ」
「佐那!」
(ほんまにええ喰いつきやな~、おもろ、)と林は心の中で大いに満足していた。
「アンタらの師範、あんなんやから想像つくと思うけど、相当な幕末好きやからな、佐那の名前ってそこから来てるねんで、結構笑える話やろ」
「まあ、あの師範やからな~、それで誰とも付き合わへん理由は?」
「せっかちやな~。
そうそう、竜馬が初めて道場に来たときに定吉は竜馬と佐那に剣術の勝負をさせてるんよ。
結果、竜馬は一本もとれず惨敗、少女剣士に弄ばれてキレた竜馬は腕力で押し倒して馬乗りになったらしい」
「それで?それで?」
「乗られた佐那は恥ずかしさでいっぱいになって自分の部屋に駆け込んだとか。
それ以来、二人は恋に落ちたらしい、なんか壮絶な話やと思わへん」
「う~ん、たしかに唖然とさせられる話やな。でも、それが、」
「補足があるんよ」
「補足?」
「それからも佐那と竜馬は何度か立ち合うも佐那は一度も勝てなくなってしまったとさ、はい、お終い、チャンチャン」
「勝てなくなる・・・」
何か不吉な予感が一文字を包み込んだ。
「さすがに気付いた?
自分の名前の由来の人やもん、小さい子供の頃からこの話を聞いて育った佐那は、人を好きになると心に弱さが生まれるって頑なに信じてるんよ。
私らからすれば何をあほな事って思うけど、あの子にとってはね」
「確かに、佐那らしいと言えばらしいな・・・」
「そこを克服せん限り、佐那は誰とも付き合わへんやろうね」
これは難問やと一文字はしみじみと感じた。
「それにしても、なんで俺に協力しようなんて思ったんや?」
「アンタのことなんかどうでもええんよ。
そんなことよりも誰にも関心を示さへんかった佐那にせっかく芽生え始めた感情を大切にしてあげたいと、親友として世話を焼いてあげてるって訳やわ、あんな佐那は初めてやったから・・・」
「あんな佐那って」と、一文字が応じようとしたのを遮るように間髪いれず林は言った。
「それにしても、その相手がよりによって岡君とは、佐那も見る目は無いな~」
「やかましいわ!」
「せやけど、ここまで来たら命掛けて惚れや~、せやないとお姉さんが赦しませんで!」
「岡一文字、命を掛けて!」
(かっこわる!)
拳を握り真顔で誓う一文字が林の爆笑を誘ったが、ここは必死に堪えた。
「あ、そうや」
林は言うなりバシッと一文字の頭を思いっきりひっぱたいた。
「痛っ!なにすんねん!」
頭を抱える一文字に林は厳しい口調で言いやがった。
「アンタ如きが私を振るな!」と、




