ep.80 甲山森林公園
第二学年 三月二十七日 土曜日
甲山森林公園
春うららかな陽気だった。
一面に咲く桜は、やわらかな風に乗り、春の香りを山一面に満たしている。
花見に来ていた一文字の頭上には、華やかに桜が咲き誇っている。
そして周りにはいつもの友がいた。
「それにしても満開やな~、絶好のはなび日和やな」
「ほんまやな~ って、なんで真昼間から花火やねん。
それを言うなら花見日和やん!
銀ちゃん、そこで噛んだらあかん、せっかくの桜が台無しやわ」
穏やかな春の陽気を切り裂かんばかりの早く鋭い林のツッコミだった。
「なぞなぞお弁当タ~イム!」と、川本がおどけた口調で言いながら動物だらけのリュックから弁当箱を出すと、続いて佐那と林も鞄から弁当箱を取り出した。
「よっ!」という掛け声と共に、あやかる男共は力いっぱいの拍手をした。
「さ~て、優子が出したお弁当が優子が作ったとは限りません。
どれを誰が作ったか当ててみて大会~」
「ほお、この俺を試そうというのか、笑わせてくれるぜ」
(かっこわる!)
空気を読み違え、微妙に気取り口調の正輝は滑稽だった。
・ミートボールに玉子焼き、そして梅干入りのおにぎりといった、定番のおふくろ弁当
・ハムにカツ、ツナマヨネーズと、一見バリエーションがあるようで無い、玉子ばかりのバランス最悪サンドイッチバスケット
・一面の銀飯にぶつ切りのうなぎが二匹、豪快うなぎ重
「あのうなぎの適当さから見て、あいつしかいないよな」
「おう、奴や、あの大雑把さは奴しかおらん」
「佐那は、いつも飯作ってるから、一番まともやろ」
「せやな、そうするとおのずと答えが見えてきたな」
そして男共の答えは、「おふくろ弁当:佐那」、「サンドイッチ:川本」、「うなぎ:林」
「はい残念!」
ピシャリと早口で斬る林、佐那と川本も嬉しそうに笑っている。
「それにしても、ここまで完璧に外されるとは思いもせんかったわ」
「完璧に?うなぎは林やろ、ここは譲れへんで!」
「譲る譲らへんとちゃう!私ちゃうから」
「じゃあ、誰?」
「それ、私」
照れた様子で手を挙げたのは佐那だった。
両手を合わせて申し訳なさそうに言う。
「ごめん、作る約束してたん、すっかり忘れてて、起きるの遅いわ、材料もあり合わせしか無いわでバタバタしてもうて・・・」
「あり合わせでうなぎが二匹もおったんかい!」と一文字がツッこむとドッと辺りを笑いが包み込んだ。
それは本当に穏やかな情景だった。
悪夢を紡いだこの場所で再び笑いあえる日を与えてくれた友に正輝は心の中で感謝していた。
賑やかなランチが終わると、広場で賑やかなフリスビー大会が開催されていた。
「すまん、指が引っ掛かった!」
永嶋の暴投に銀平が猛ダッシュ、そしてナイスタイミングでジャンプ、が、手足が短く届かなかった。
残った一文字がレジャーシートに転がり空を見上げていると、数枚の桜の花びらが、ひらりひらりと舞い降りてくる、パッと掌を広げそれを受け止めたのは一文字を呼びに戻って来た佐那だった。
手の中の花びらを黒く澄んだ瞳でじっと見つめる佐那が妙に気になって、一文字は上半身を起こすと何気なく聞いてみた。
「どないしたん、そんなに桜が好きなんか?」
「うん、好きやで」
「何でそんなに好きなん?」
「繊細で清楚に咲いて、自然のままに潔く散る気高さ、正直すごいって思う。
私、桜が一番好きやわ、出来れば自分もそうありたい」
「なんや、佐那の目標は桜みたいに聴こえるな?」
「せやね」
小さく風が吹いた、舞い散る桜の中で浮かべた佐那の優しい微笑が、一文字には桜そのものに見えた。




