ep.78 頼れる人3
冷たい空にゆらりゆらりと煙が昇って行く、それを見上げ前川が己の勝利に酔ったときだった。
(両足が揃っとる・・・)
うつ伏せに倒れ、虫の息のはずの永嶋が、突然、膝と肘とで前川の両足を挟みこんだのだ。
前川は驚き、慌てて足を抜こうとするが、両足はしっかりロックされており抜くことができず、ただフラフラするだけだった。
永嶋が横にゴロリと回転し背中でロックした両足に体重を掛けると、前川はなすすべなく後方に倒れ、三度背中をアスファルトに叩きつけた。
駆け抜ける衝撃に前川が「うぐ」と唸ったときだった。
永嶋はスルリと前川の右腕をとり、両足で挟み込むや、機敏な動作で両内腿で上腕部を絞め、両手で手首を手前に引き寄せる、完璧なまでの腕挫十字固めであった。
「ぐああああ!」前川の腕は伸びきり、激痛が走る、さすがに堪らずタップする。
血にまみれた永嶋が冷たく言い放った。
「これはスポーツと違う、どっちかがくたばるまでやるんやろ、悪いけどこの腕はもらう」
「ちょ、ちょっと待て!」
「何を今更、覚悟せえや」
「ちょっと待てって!」
「じゃあ、最後に聞く、もう終わりにするか?約束通り俺らに二度と関わらんか?」
氷の言葉、じわりと締めを強める。
前川に更なる激痛が襲い掛かる、とにかく逃れたい、前川は冷や汗を全身に噴出しながら、早い口調で言った。
「や、約束する・・・」
「ほんまに約束できるな?」
「約束するから、はよ離してくれ!」
前川の言葉を確認すると永嶋は腕をほどいてゆっくり立ち上がり、おぼつかない足取りで正輝の元へと歩きだした。
「てめえ、よくも前川さんを!」
二人の男がいきり立ったとき、殺気を帯びて正輝は言った。
「お前ら二人で、俺の相手が務まるんかい!」
(殺される・・・)
迫力に圧倒され、男二人が硬直する。
「前川、約束や、今後、一切俺らに関わんな」
怒りに燃えた眼光を湛え、乱れ乱れの息で前川は、ほざいた。
「俺にこんなことしといて、このまま終わると思うな、絶対、ぶっ殺したるからな」
「どこまでも負け犬やな、こんなしょぼい奴、ほっといて行こうや」
そう、永嶋を促すと正輝は闇に横たわる前川に背を向けた。
血に腫上がった顔を並べて夜道を歩く二人は、周りからみれば異様な空気を放っていた。
寒い空に浮かぶ月を見上げて、永嶋はふと思った。
(勝った・・・あれから俺は頼れる存在に少しはなったのだろうか・・・)
同じように顔を腫らした隣の正輝が、声を掛けてきた。
「永嶋、今日はすまんかったな、変なことに巻き込んでもうて、」
「ああ、いや、気にせんでええって」
「せやけど、お前があそこまでやるとは思わんかった、正直、見直したで」
「いや、たいしたことやないって」
「お前は戦友やな!」
嬉しそうに正輝はそう言うと、永嶋の肩をバンバンと力強く叩いた。
「戦友?」
「そう戦友や!」
喜びに湧く正輝が手を差し伸べると永嶋はそれに応じて手をさし出す、握られた拳と拳は友情の証だった。
が、正直なところ永嶋はこの手の男の友情物語に引き気味だった。
「よっしゃ、俺のおごりや勝利を祝ってこってりラーメンでも食いにいこうぜ!」
永嶋の心中など知らない正輝は、さらに勢いづいて言ったが、永嶋の応えは冷淡だった。
「いや、今日、スキヤキやから帰るわ」と、




