ep.75 甲山二人大戦
第二学年 一月十七日 日曜日
甲山某所
空に雲が多くて太陽がなかなか顔を出さないせいか、気温はすこぶる低い。
銀平はスキーのゴーグルのフィット感を確認すると、「よしっ」と満足げに声をあげる。
腰にはBB弾収容のための旧式一眼レフケースを身につけている。
これは間口が広く弾を取り出しやすい優れものだ。
愛用の拳銃デザートイーグルに勢いよくマガジンをセットすると銀平は叫んだ。
「一さん、準備完了や、十秒後に戦闘開始やぞ!」
愛用のワルサーP38を手に既に茂みに潜んでいる一文字は返事をするような愚行は犯さない、そう彼はプロなのだ。
どこかに潜んでいる一文字を探すため、銀平は銃口を天に向け、顔の側面に拳銃を両手で持ち、あたりを見回しながら慎重に歩みを進める。
(もう少しや、もう少し近づいたらハチの巣や)
三歩、二歩、一歩、
一文字は銀平の肩口に照準を合わせたワルサーのトリガーを引いたが、運悪く木の枝に弾かれてしまった、それならと矢継ぎ早に連射する。
一文字の狙撃に気付いた銀平は応戦するが、安定した足場で頭上から攻撃してくる一文字に対して地の利を失していることを悟り、なんとか回避しようと近くの茂みに飛び込んだ。
歩腹前進で反撃できそうな岩陰へと這って行く。
その後、撃っては隠れ撃っては隠れの銃撃戦を展開した。
しばらく経つもなかなかに決着がつかない。
業を煮やした銀平は、接近戦に持ち込もうと撃っては茂み、撃っては岩陰、徐々に間合いを詰めていく。
互いの距離が十メートル程度になろうとした時だった、気付かない間に枝か何かに引っ掛けたのであろうか、銀平のご自慢の弾丸ケースからBB弾がボロボロとこぼれ落ちだした。
(あ、やべっ、)
ケースを押さえた瞬間だった、ペチ! 銀平の広いデコに弾がヒットした。
「イテ!くっそ~、当たってもうた」
「暗殺者の異名を持つ俺の実力思い知ったか!」
「次はこうはいかんで、よっしゃ、もう一勝負や!」
「銀ちゃん、待て、家族連れが犬の散歩にきた、銃隠せ、銃!」
お父さん、お母さん、娘さんの幸せそうな家族が、中型犬のお散歩にやってきたのだ。
小学校高学年くらいであろう少女が不思議そうに一文字達を見ている、男二人が山の中で何してるんやろう?といった目つきだ。
銀平などはスキーゴーグルを被った上に腕ごと銃を懐に忍ばせているうさんくささだ。
そんな時、ボロっと銀平の一眼レフケースがBB弾を吐き出しやがった。
(そうです、サバイバルゲームしておりました・・・)
少しして家族連れは、何やらケタケタと笑いながら去っていった。
笑いの真の理由が何かは分からない。
が、一文字と銀平は自分達があざ笑われているような、寂しい気持ちにさらされていた。
「まあ、気を取り直して、もう一戦いこか!」と銀平が言った時だった。
雨粒がぽつぽつとやって来た。
「雨雲は小さい、こんなんすぐ止むわ」と木の陰に隠れて余裕をかましていたのが裏目に出た。
雨足はどんどん激しくなり、水溜りはみるみる拡大し小さな川へと化していく。
もはや雨宿りなどと言っていられない。
「銀ちゃんこれはあかんぞ、撤退や!」
「うむ、それしかないな」
頷きあい一文字と銀平は濡れた山道を走り出した。
「なんや、土砂降りやんけ、ほんまについてへんな!」
「ほんま、ついてへんわ!」
本当についてなかったのかこれからだった、
「一さん、これはあか・・うわっ!」
「どないした!」と一文字が振り返ると、濡れた山の斜面で銀平が転倒し、泥まみれでもがいていた。
「大丈夫か!」
「あいたた、あかん足を捻ってもうた・・・」
戦闘ではなく、雨からへっぴり腰で逃げ出す際の名誉の負傷だった。




