ep.74 新年あけましておめでとう
第二学年 十二月三十一日 木曜日
永平寺境内
「9、8、7、6、5、4、」
「3、2、1、」
「待てって、ズレてる、はい、あと3、」
「2、1、」
第二学年 一月一日 金曜日
永平寺境内
「ゼロ~!」
「あけましておめでとう!」
「おめでとう~!」
「おめでとう~!」
一斉に年初の挨拶、そしてお祝いの拍手。
轟々と炎をあげる焚き火を囲む一文字、永嶋、正輝、銀平、佐那、林、川本の七人は、年越しと初詣のため、ここ永平寺に集っていたのだ。
無論、この焚き火や参拝者に振舞う甘酒の準備などの作業要員も兼ねていたのだが。
見て見てとばかりに着物の袖をひらひらさせる林が、相変わらずの早口で言った。
「それにしても、晴れ着姿で甘酒配らされるとは思わんかったわ」
「あほ、俺らなんか年明け早々、汗とすすにまみれてんねんぞ」
「みんな、ご協力感謝してます」
年越し数分前に晴れ着姿になった佐那が、可愛らしく頭をペコリと下げる。
そんな佐那に満足げな表情で正輝が嬉しそうに言った。
「そうや佐那、先生にちゃんとお年玉、用意させとけよ、特に俺のはな」
「はいはい、言っておきます」
「よっしゃ、じゃあ、初詣と繰りだそうぜ!」
と言って、焚き火から数歩の本堂を参拝する、目を閉じ合掌し、思い思いに祈る。
「上の観音堂もお参りしとこうや」
銀平の提案に乗り、石段を登り観音堂へ、ここへ来ると一文字はいつも思い出す、佐那とここで出会ったあの日を、
舞い落ちる紅葉の葉を宙で掴もうと真顔で取り組んでいた佐那、あの日の彼女は遠い存在だった。
それが今では、こうやって笑い合える仲間の一人だ。
人の繋がりってのは不思議なものだ、などと感傷に浸る一文字、
「なんや、冷えてきたから便所に行きたなってきたな」
それをぶっ壊す銀平の気の利かない言葉・・・
そんな時、誰かが言った。
「こうやってみんなで年越すのって楽しいね、いつまでもこんな年越しをやれたらええね」
「そうやな、じゃあ、来年もやるで!」
「そうそう来年も再来年もその次の年も!」
「再来年か、そんときはみんなどこに居るんやろうな」
「ほんまやね、自分のことすら分からへんもんね」
「そうやな、ほんまに分からへんな、せやけど、どんな道を歩いてても再来年のこの日、みんなここに集合な」
誰かが手を出した、それに誰となく手を重ねた、その手に手が重なっていく。
誰かが打った鐘の音が新年の夜空に響き渡る。
「よっしゃ、約束じゃ!」
暗い寒空の下で、正輝の掛け声にみんな頷き、誓い、笑いあった、
ただ、この手のノリが嫌いな永嶋さんだけは、どこかひいていた・・・




