ep.73 男だらけの聖夜の怪談大会
第二学年 十二月二十四日 木曜日
棚橋家子供部屋
「これは半年ほど前の話やねんけどな」
その日は、どこかうっそうとした曇り空だった。
そのせいか人通りは疎らだった。
棚橋は下校ついでに買い物をしようと阪急宝塚駅周辺のショッピングモールに向っているときのことだった。
棚橋が武庫川に掛かる宝塚大橋に差し掛かったとき、なんとなく背筋に悪寒が走ったのだ。
風邪のひきはじめかなどと思ったが、大して気にもせず歩いていると橋の中央らへんに水色のスカートが印象的な小さな女の子がうずくまるように座り込んでいるのが目に入った。
年のころは五、六歳くらいであろうか。
そんなことをぼーっと考えながら歩き、女の子との距離が十メートルくらいになった時だった、
(何かヤバイ・・・)
棚橋が感覚的に感じた瞬間、少女がふと顔を上げ棚橋のほうを見やった、絶句した。
顔が無いのだ、いや白く発光したような感じでぼやけているのだ、女の子は間違いなくこの世のものではない。
(気付いていないふりや、下手に構うと・・・)
視線を逸らし、正面だけを見据えて急ぎ足で女の子の横を通り過ぎる、
「お兄ちゃん、遊ぼ」
(声、掛けてきよった!)
棚橋の額から妙な汗が噴出し、背筋の悪寒はより厳しいものになった。
(知らないふりをして、知らないふりをして・・・)
「お兄ちゃん、遊ぼ」
(手、繋ぎよった!)
不意に女の子が棚橋の手を握って来たのだ。
青ざめ、動揺する棚橋をよそに女の子は無邪気な口調で話しかけてくる。
「ねえねえ、どこ行くの?どこ行くの?」
(勘弁して・・・)
「そうだ、川に行こうよ、川に・・・」
急に声のトーンが冷たくなったことが気になり、そっと少女の顔を覗うと、はっきりと浮かび上がった白目が棚橋を見つめていた。
少女は低く枯れるような声で言った。
「 川に 行こうよ~ 」と、
その後は、無我夢中で逃げて、気が付いたら花のみちにおったな。
「うわっ、怖っ!まじで!今のほんまか!」
「いや、つくり話や」
「そんなん、カミングアウトすな!台無しじゃ!」
ふてぶてしい棚橋に突っ込む一文字がそこに居た。
恋人達が愛を囁きあうクリスマス・イブ、この日、暑苦しい男だらけの聖夜の怪談大会は予定通り開催されていたのだ。




