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ep.70 銀平杯5

 銀平が自作のトロフィーを、大会委員長に抜擢された川本から受け取ろうとした時に正輝からこれまた予想だにしない提案を投げかけられたのだ。


「なあ、そのトロフィーを賭けて銀平と佐那とが戦ってみたらどうや?」


「え!」


 みんなの視線が正輝に向けられる。


「どないや銀平?」


「せやけど、女の子相手にはな・・・」


 明らかに銀平は困ったようすで自分の坊主頭をペシペシと撫でた。


「ゆうても佐那は強いから、どうなるか分からへんで」


 みんなの視線が一斉に佐那に移動する。


 佐那は驚いた様子で手を振って拒否を訴える。


「そんなん、私、柔道はよう分からへんし、無理やで」


「別に柔道やなくてもええやん、銀ちゃんは柔道で、佐那は合気道で佐那なりの戦いをしたらええやん」


 そんな無責任な提案を力強くするのは林だった。


 銀平と佐那は、目を合わせてお互いに困っていることを確認しあった。

 が、お互いにやってみたい、そんな気もしていた。


「ええやん、やってみてや~」


「私も見てみたいわ~」


 外野が好き勝手にものを言う中、佐那の頭の中に哲彦の言葉が浮かんできた。


「合気道は武術や、誰かと競い合うためのものやない、自己を研鑽するためのものであり、その上で、不慮の事態において己を守るための力とするもんや」


 戦ってみたい好奇心と哲彦の教えが、合いまみえ葛藤の中で心が揺れる。

 そんな時、銀平の声が聞こえてきた。


「まあ、俺はええけど・・・後は上原さんがどうかやな、」


 どうやら銀ちゃんは、脆くも好奇心に飲み込まれたようだった。


(私はどうする?)


 佐那は考えた。


(やっぱり、やめておこう、)


 そう決めかけたとき、川本が持つ銀平の手作りトロフィーが目に入った。


(なんか欲しい)そんな気もした。


「上原さん、一回やってみいへんか?」


 銀平の問いに佐那はハッと我に返った。


 周りを見やると皆、やってくれという目を向けていた。


 佐那の好奇心と周りの熱い眼差しが相乗効果を生み出し、哲彦の教えなんかはどこかに吹き飛んだ。


「私なりの戦い方しかできへんけど、ええの?」


「ええで」


 銀平の返答をきいた上で佐那は覚悟し、微笑を浮かべて言った。


「じゃあ、一回限りやで」


 その答えにみんな一斉に歓喜の声を上げた。真剣な眼差しで佐那が銀平に言った。


「やるからには、真剣勝負やで、本気できてな」


 銀平は戸惑いながらも静かに頷いた。


 そして二人は対峙した。


「はじめ!」


 一文字の掛け声と共に佐那は銀平に近寄ると、「お手柔らかに」と言いながらすっと右手を差し出した。


 握手でもしようというのか、銀平が応じて右手を差し出した瞬間だった。


 佐那は両手で銀平の手首と親指を制するや、それを頭上に振り上げつつ、左つま先を軸に外回転をして捻り、銀平の背に持っていく。


 そして刀を振るように切り降ろす。


 絶え間ない一連の四方投げ、これにはさすがの銀平もなすすべなく背中から畳に倒された。


「勝負あり!」


 一文字が佐那の勝利を告げると、佐那は制していた銀平の腕を解放した。


「ごめん、大丈夫?」と差し出した佐那の手を取りながら、銀平は照れたように笑いながら言った。


「まいった、この勝負、上原さんの勝ちやわ」と、


 銀平に微笑みかける佐那を、喜びに沸く林と川本が抱きつき揉みくちゃにしていた。


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