ep.68 銀平杯3
続いて銀平と正輝の一戦が開始された。
力量からおそらくこれが実質の決勝戦といえよう。
長年培った技の銀平と、体格差を活かした力の正輝、必見の一戦である。
緊迫した空気の中、両者まずは、引き手と釣手の取り合いをはじめる。
手を出せば弾かれ、手を出されれば弾く、その様子を見ていた川本が、不思議そうな表情で佐那に尋ねた。
「なあ、佐那、さっきも気になっててんけど、あれは何してるん?」
「あれは、お互いに自分の得意な体勢をつくるために、手の内の取り合いをしてるねん」
「ふ~ん、そうなんや・・・」
(今や!)
馴染んだ動きで銀平が素早く得意の手を取るや、正輝を前方に崩そうと引きつけるが、正輝は力で引き戻し、揺るがない。
(なんやこの力)と、銀平は内心驚いた。
互いに譲らぬ崩し合いが、しばらく展開した後、次に動いたのは正輝であった、
(一気に崩す!)
大雑把だが、強引な力で銀平を押し、後方に崩すと、連続的に大内刈り、小内刈りを繰り出した。
「うわ~、白山君、激しい攻撃やな。さすがに小林君もやばいんとちゃう?」
「いや、たぶん大丈夫。正輝君が力んでるから、銀ちゃんは次の動き読んで対応してるわ」
(ここは耐えるしかないか)
足を引きつつ重心をコントロールして凌ぐ銀平に対し、
「ええ加減にせえや!」苛立った正輝は、渾身の力をもって引き付けた。
これには銀平もたまらず、ガクッと崩れ、前のめりになった。
すかさず正輝は銀平を右前隅に崩しつつ、左足を軸に体を鋭く回転させ、右足を銀平の左足前方に突き出した、力の体落としである。
「銀平、飛べや!」
「おわっ!」
さしもの銀平も吹き飛び畳に叩きつけられた。
「技あり!」
一文字が叫ぶ、倒れた銀平に正輝は追い討ちとばかりに袈裟固めに入ろうとするが、銀平は腕で押し返しつつ、素早いエビ動作で間合いを広げると、回転しながらすかさず立ち上がった。
「あぶな~」
「くそっ、決め損なったか・・・」
正輝も立ち上がったが動作がやけに緩慢だった。
「なあ、佐那、この試合はどうなりそう、正輝君が有利なん?」
「ポイント的には有利やけど、試合が始まってから、ずっと力みぱなしやったから体力の消耗が激しいわ。あれだけ疲れてると厳しいかもしれへん」
「ふん、ふん、なるほど」林はなにやら分かったような素振りで頷いた。
再び、両者対峙する。
この名勝負に観客は、息を呑みじっと動向を見守る。
(へばってきたみたいやな。この時を待っとったで、こっからが勝負や!)
動いた、仕掛けたのは銀平だ。
軽く後方に正輝を押し、右足で右かかとを刈りにいく。
「くそ!」
凌ぐために正輝が右足を後方に引くと体が開いた。
そこを銀平が脱力から一気に前に引き付け、素早く懐に入り込むや、十八番の背負い投げを繰り出した。
「させるか!」正輝は力で後方に重心を残して凌ぐが、バランスが崩れて左足が前に出る。
「おら!」銀平がすかさず引き手を引き上げつつ、右足を軸に反転し膝を落として袖釣り込み腰を繰り出すと、フッと正輝の足が畳から離れた。
「白山が浮いた!」
「うぐぐぐ・・・」
それでも重心移動で正輝は耐える。
「あれを耐えるか、すげえな白山・・」
「まだ、次がある・・・」
佐那の呟きと同時だった。
銀平はすかさず襟を取っていた右手を外して道着の右膝下あたりを掴むと、正輝を肩にのせ、「どりゃ~!」とばかりにぶん投げた。
「すげえ、肩車や!」
「うおおおおぉ!」
これにはなすすべなく正輝は弧を描いて宙を舞い、背中から畳に叩きつけられた。
ドスンという音が道場内に響くと同時に、「一本!」一文字が声を上げた。
決着がついたのだ。
天井を見上げる正輝は、「くっそ~!」と悔しそうに叫んだ。
横たわる正輝を銀平が手を貸し立たせてやった。
互いに一礼して引き上げてくると、両者疲労からドスッと腰を落とした。
(今なら勝てるかもしれん)
小汚い考えが永嶋の脳裏をよぎった時、一文字が声をあげた。
「よっしゃ、早速、三位決定戦や!」
(実行に移すとはすごい奴・・・)
「あほ、ちょっとは休ませろ」との正輝のもっともな意見が通り、小休止の後に正輝と一文字の試合がはじまった。
「行くぞ、おら!」
疲労が抜けきれていない正輝であったが、持ち前の力を活かした体落としで一文字を一蹴していた。




