ep.67 銀平杯2
第二学年 十一月十五日 日曜日
宝塚市民体育館 武道場
市民体育館の武道場には、武道着姿で一文字、永嶋、正輝が、奴の登場を待っていた。
どうでもいいと言えばいいのだが一つ疑問だったのは、試合をするわけでない佐那までが武道着をつけていたことだ。
佐那が言うには武道場に入る際は、出来る限り武道着がいいとの個人的なこだわりだそうだ。
「で、肝心のあの男はまだ来おへんの?」と、外野の林が川本にぼやいたときだった。
その奴が現れたのだ、銀平杯主催者にて優勝候補筆頭の男、小林銀平だ。
銀平は手になにかを大事そうに抱えている。
「すまん、すまん、こいつがさっき出来上がったばっかりでな」などと、遅れた言い訳をする銀平が近づくにつれ、抱えているこいつの正体が分かった。
それは、銀平お手製の割り箸を組み合わせて作った歪んだ優勝トロフィーだった。
さらによくよく見ると、それにはみみずが這ったような字で第一回銀平杯優勝とマジックで書かれていた。
「これ見てくれや、優勝トロフィー作って来たで、めっちゃええやろ!」
「そ、そうやな」
皆、本当に言いたいことはぐっと堪えた。
銀平は嬉しそうに続ける。
「それと対戦相手を公平に決めるために、あみだくじを作ってきたで」
どこまでも準備のいい男だ。
一文字達は自分の線を選び、あみだに命運を託した。
そして一回戦にして準決勝の相手が決定した。
『岡一文字vs永嶋勝』 『小林銀平vs白山正輝』といった豪華なカード?だった。
正直、(一回戦は貰った)と一文字は思った。
そして一文字と永嶋の試合が開始された。
両者共に両手を前に出し、相手の様子を覗う、永嶋はふと思った。
(俺ら普段は合気道の練習してるのに、なんで柔道で対決してるんやろ)と、
そんな心の隙を一文字は逃さなかった。
釣手と引き手を素早くとるや、瞬時に釣手を力強く手前に引き、足を払った。
「おっ、速攻の出足払いや、一さんなかなかやるな!」
「うわっ!」
永嶋は大きく揺らぎ横転しそうになるところを、腰を落としてかろうじて凌ぐが、重心は後方へと流れた。
(よっしゃ!一気に行く)
好機とみた一文字は、すかさず飛び込み大内刈り、大内刈り、大内刈り・・・
「一の奴、容赦ない連続攻撃やな、これは勝負あったか?」
「でもまだ、永嶋君の軸は完全にはぶれてへんで」
永嶋は重心を前に移動して必死に耐え忍ぶ。
(しつこいっつうの!)
苛立つ一文字が体を捻り強引な背負い投げを仕掛けると永嶋の体が浮きあがる。
「決まるか?」
「うぬぬぬ・・・」
ぶつかり合う力と力、永嶋の足が再びに畳に着く。
永嶋が一文字の猛攻を耐え凌いだのだ。
「あほ、反応が遅い。一の奴、背中がお留守やで」
一文字の背後をとった永嶋は、首に腕を絡みつかせて力いっぱい締め上げる。
「うがっ!」
この反撃を予想もしていなかった一文字は完全に首をとられていた。
(くそ、これはマジでやばい、こうなったら後方に捨て身で倒れこんで・・・)
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「あれ?」目が覚めると、すぐ近くに銀平と佐那の心配そうな顔があった。
「一君、大丈夫?」
「え、どういうこと?」
「一さん、締め技で落ちてもうてんで」
(俺が、永嶋に落とされた!)
死ぬほどの屈辱だ。
そんなとき、「大丈夫か、岡」と、心配というには、あまりにもニヤついた永嶋が寄ってきやがった。
(生涯の汚点!)
心が揺らぐが、それだけに何事も無かったように一文字は振舞うことした。
「大丈夫や、一本とられてもうたな」
「まあな」と見下す視線の永嶋は、(ぶん殴りたい奴、NO1だ、いや、腕をあげやがったな)と正直、関心させられもした。
スポーツマンシップさながらに永嶋の手に引き起こされ、一文字は林らが待つ観客席へと惨めったらしく退いた。




