ep.64 学園祭
第二学年 十一月七日 土曜日 宝塚ゆずり葉高等学校
二年三組教室
正門近くに植えられた紅葉が色づきはじめたこの頃、宝塚ゆずり葉高校では学園祭が催されており、一文字ら二年三組はおでん屋を出店していた。
幸運にもこの日は妙に冷え込み、売れ行きは上々だった。
割烹着を身につけ、料理長気取りの一文字は、ぐつぐつと煮えたぎる鍋をかき回しながら叫んだ。
「棚橋、あかん、スジと玉子とはんぺんが、このままやったら足りんぞ!」
「わかっとるわ。今、永嶋が買い出しに行っとるって」
「そうか、はよせえよ!」
一文字と棚橋がやり合っていると調理場にエプロン姿の佐那が、イソイソとやってきた。
「一君、玉子2個、大根とジャガイモ1個ずつお願いできる」
「はいよ~、ちょっと待ってくれよ~」
佐那に応えている最中、愛らしいモンスターがデカデカと描かれた派手なエプロンを着けた林がドタドタとやってきた。
「岡君、スジ6本と玉子2個、あとチクワも2本、急いで!」
「はいよ~、ちょっと待ってな~」
林に応じつつ、手早く具を皿に載せると佐那に手渡した。
佐那はそれを手に客のほうへと小走りで去っていった。
一文字が林の要求の品を皿に詰めている時だった。
陣中見舞いとばかりに余裕をかまして肩で風をきる正輝が、片手を上げながらのれんをくぐってきた。
「じゃまするで!」
「じゃまするんやったら帰って!」
「あほ!どないな店やねん!」
一文字ら店員一同の切り返しに腰が砕けのけ反る大げさなリアクションを取る正輝は、やはり関西人だった。
「で、林、売れ行きはどないや?」
「ああ、今忙しいねん、暇な棚橋君とでもしゃべっとといて!」
「暇ちゃうわ!」
地獄耳な棚橋が、遠方より反論したが、林に構う様子は微塵もない。
林に適当にあしらわれた正輝は今度は佐那に声を掛けた。
「佐那、景気はどないや」
「あ、正輝君いらっしゃい、まあ、ぼちぼちやで、それよりなんか食べてく?」
「そうやな、適当に握ってくれ」
「うん、2、3、見繕うわ」と応じると、佐那は一文字に向かって声を投げる。
「一君~、売れ残りそうなん適当に2、3、見繕うて~!」
「あほ!そんなん口にすんな!どんな店やねん」
「ごめん、ごめん、冗談やん」と、佐那は言ったが棚橋が運んできた皿にはコンニャクが3個載っかっていた。




