ep.62 修学旅行6
夜の海上は風が強いので甲板には、ほとんど人影はない。
それでも、そんな状況を逆手にとって何組かのカップルが愛を語り合っているようだった。
親が見れば少し寂しい光景だなって思いつつも、恋し合っているのが少し羨ましくも思えた。
空を見上げると星が遠慮深げに瞬いていた。
しばらく星を見つめていたら、気付いた時には正面打ち入り身投げの入り方ついて考えており、目の前には自分の手刀があった。
恋という行為が自分にはひどく遠いものに思えて、思わず溜息などをついてしまった。
あらためて空を見てみた。
夜だから当たり前だけどとても暗い。
黒い海は冷たく波打ち、引き込まんとしているかのようだ。
ふとあの日を思い出した。
久美と再会したあの日、彼女は今も赦してくれてはいなかった。
いや、赦す・赦さないではないと思う、私を根本から受け付けてくれないのだろう、今までも、きっと、これからも、
(親友やった久美、私は間違ってたん?)
「下を向いてたら心が枯れてしまう、強がりでも前を向かんといかんよ、佐那」
「一君・・・」
佐那が振り返るといつの間にやら、すぐ傍まで一文字が来ていた。
「こんなところで一人で何やってんねん、ここ結構寒いやん、風邪引くで」
「うん、でも、風が気持ちええから、」
「なんか、悩み事でもあるんか?えらい暗い顔してたで」
「そんなこと、ないで・・・」
微笑む佐那の瞳は悲しさに沈んでいた、風でなびく髪がそれを無理に隠そうとする。
一文字はあえて冗談ぽく、一歩踏み込んでみた。
「じゃあ、俺を待ってたん?」
「そうかもね」と言って佐那は小さく笑った。
(否定しない?)佐那の真意が分からない、一文字は思わず口ごもった、佐那が言った。
「修学旅行、楽しかったわ。一君達のおかげやね、ほんまにありがとう」
「いや、俺のほうこそありがとう、佐那」
お互い、ぎこちないお礼を交わし、冷たい風の中で笑いあった。




