ep.57 修学旅行1
第二学年 十月五日 月曜日
新幹線内(新大阪~博多)
穏やかに晴れた日でよかった。
この日は高校生活の一大イベントであろう修学旅行の第一日目だった。
目的地は九州、一文字達をのせた新幹線は風を切り颯爽と走りゆく。
青春の想い出の一ページ目はカード麻雀であった。
「はい、棚橋君、それロンです、タンヤオ、ドラ一、四十符二翻三九〇〇点、お疲れ!」
「ふざけんな!お前さっきから安あがりばっかりやんけ!」
「棚橋君、これが戦略ってやつですよ、ふふっ」
そんなあほなやり取りをしているとクラスの女子が、労働力を求めて声を掛けてきた。
「岡君、写真お願いできる?」
「こんな感じでええか?」
と言いつつ、すかさず女子の肩に手をまわす。
「うん、そうそう、じゃなくて写真撮って!」
女子は一文字の手を冷たく払いのけると強引にスマホを手渡す。
仕方無いので一文字はスマホを構え、手を握り合い微笑む女子達を「ハイ、チーズ」という恥ずかしい言葉と共にシャッターに収めた。
癇に障ったのは、フレームの端に棚橋やら永嶋らが嬉しそうにVサインをして映りこんでいたことだった。
今度は俺らも負けじとばかりに写真を撮ることにした。
カメラマンをかって出てくれた女子が、スマホを構えるとどこから湧いて来たのか、暑苦しい男達の群れがドドッと雪崩れ込んでくる。
癇に障ったのは、シャッターがおりる瞬間、後ろの誰かさんが一文字の髪を引っ張り、顎しか写っていなかったことだった。
新幹線で博多入りした一文字達は、バスで佐賀県の吉野ヶ里遺跡へと向かう。
吉野ヶ里遺跡は、弥生時代に栄えた千人規模の集落であり、二重三重の濠や見張り櫓など外敵の侵入を防ぐ設備が残されている。
さらには青銅器、ガラス製の管玉、甕棺、絹織物なども多数発見されており、学術的にも貴重な遺跡である。
十二メートルはある櫓からは、遺跡を一望することが出来る。
林は隣でキョロキョロと辺りを見回している佐那に言った。
「この敷地って三十ヘクタール以上あるねんて、東京ドームの約八倍くらいになるんやで、弥生時代の村やのに規模大きいと思わへん?」
ぼーっとなにか考え事をしている佐那に代わって川本が応じた。
「ほんまやね、これだけの規模やから既に農耕されてたんかな?」
「田んぼの跡はまだ見つかってへんらしいけど、農具が発見されてるらしいから、まず間違いないやろうね」
「へえ~、優子はほんまに物知りやね」
「コホン、あたりまえやん、これでも昔は神童と呼ばれててんで、なんてな!
それより佐那や。
アンタ、さっきから何を熱心に考え込んでるん?」
林に肩を叩かれた佐那はぴくりと肢体を反らすや、驚きに目を大きく見開いている。
「え、なに、なに?優子、なにするん?」
「なにって、こっちのセリフやわ。
さっきから、なにを真顔で考え込んでるん?
さては、また、合気道の技でも考えてたんちゃうん?」
「そんなんやないよ。ほらあそこ見てみ。
張り巡らされたV字型の深く幅のある外濠と高い柵、内濠の出っ張った箇所には櫓があって、石弓とかの飛び道具で攻撃できるから守りは相当堅そうやんか。
村の人口が千人やったら、守備兵力は五、六百といったところかなって考えたときな。
仮に私が同じくらいの兵力で、外部からここを攻略するとしたら、どないしたらええんかなって思って、」
(はぁ・・・)
真剣な眼差しで言ってのけた佐那の頭を、林は優しく撫でながら溜息混じりに言ってあげた。
「よしよし、アンタは、ほんまにお馬鹿さんやねえ」と、
あからさまに怯みつつも佐那が何やら反論しようとした時、川本も慈愛に満ちた表情を浮かべて頭を撫ではじめた。
「佐那ちゃん、優子の言う通りやわ、なかなかのお馬鹿っぷりやで」
「りょ、涼子まで・・・」
頬を膨らまし、ふてくされた口調でそう言ったのが、佐那の精一杯の抵抗であった。




