ep.53 旧国鉄廃線跡1
第二学年 八月十八日 火曜日
兵庫県西宮市某所 旧国鉄廃線跡
これより沙雨がはじまろうというのか、未だ昼の三時を過ぎたばかりだというのに、辺りは霞がかかり視界はそう広くない。
その上、大気は湿っており、どことなく心地悪い。
この環境こそ、今の一文字達にとっては絶好の状況と言えた。
そう彼らはこの界隈では有名なホラースポットである、廃線跡にあるトンネルに肝試しに来ていたのだ。
「やっぱり、バチあたりやし、帰らへん?」
「ここまで来て帰れるかいな、行くで行くで!」
寺の娘で信心深い佐那は帰ることを提案するが、好奇心まみれの林は一切受け入れるつもりはないようである。
そもそもホラースポットに向かっていることを、佐那はほんの数分前に教えられたのだ。
でないと来ないという林の悪魔の判断だった。
「何びびっとんねん佐那、幽霊なんか、言うてもたかだか噂やって」
「そうやで、幽霊なんて恐がりさんが見る幻覚みたいなもんやで~」
「でも、ほんまに幽霊出たらどうする?」
正輝と林が元気付けようとしている最中に、空気を読めない川本が弱気な発言で場を挫く、一文字はそんな川本のでこにツッこみつつ、親指で奴を指して力強く言った。
「大丈夫や、そんな時のためにアイアン銀がいる!」
「ま・か・せ・と・け!」
一文字の指先には両手を上げマッチョのポーズをとる銀平がいた。失笑した。
それにしても気丈なイメージがあった佐那が幽霊なんて幻想でびびっているのが、正輝にはどことなく可笑しく、可愛らしく感じていた。
そんな時だった。霞掛かるトンネルの奥から人の足音がして来たではないか。
ジャリジャリと小石を踏みしめる音、ゆっくりだが確実にこちらに近づいて来る。
場が場だけにさすがの正輝も一瞬冷やりとしたが、少しするとジャージを着たおやじがノコノコ出てきた。
単にランニングをしていただけであった。
(ああ、情けない・・・)
一瞬でもうろたえたことが誰にもばれていないか気になりキョロキョロ皆の顔を見回したが、誰も正輝に気を止めていないようであった。
ともあれ全員で入れば迫力がないということで、グー・チョキ・パーで三組に分かれることにした。
一番手 一文字―川本―永嶋、
二番手 正輝―林、
三番手 銀平―佐那となった。
「なんや、アンタとかいな~」
「あほ、喧嘩上等の俺と一緒やねんぞ、ありがたく思えって」
「そうなん、なんか白山君って表は厳ついけど、内面、意外とやわそうやもん」
林の鋭い洞察、一瞬、ギクっとしたが、それだけに虚勢を張った。
「あほか!俺は喧嘩で鳴らした猛者十人相手に殴り勝った男やぞ」
「わかった、わかった、それじゃ頼りにしてるわ」
正輝も林が相手では形無しってところだった。
二人のやり取りをバックコーラスに、容赦ない闇を湛えたトンネルを前にして一番組の三人は立ち尽くしていた。
「なあ、岡君、ほんまにここに入るん?」
「おうよ、川本、山あり谷ありの人生において、こんなん怖いうちに入らんぞ」
「声、震えとるで」
「永嶋さん、失言ですよ」
「すいませんした、すいませんした」
人工的に微笑む一文字に、永嶋がわざとらしく何度も頭を下げやがる。
こんな馬鹿な光景が、なんとなく場を和ませ、前進する力を与えたものだ。
腰が退けている川本を真ん中にして三人は手を繋いでトンネルの中へと歩みを進めた。
中は暗く、静かだ。
時折、どこかで水の滴る音がする。
闇と静寂、これだけなのに妙に不安が三人に圧し掛かってくる。
不意に一文字と繋いだ手を川本がグッと強く握り締めてきた。
「なんか唄おう」
「え?」と言いつつ、一文字も永嶋も不安を紛らわすのには効果的だと判断し、川本の提案に乗ることにした。
三人はやけにハイテンションなノリで流行りの歌を、大声で歌いまくっていた。
ここ以外では考えられない異様な光景であった。
光が見えてきた、三人の歩行速度は否応なく早まり出口へと迫った。
抜けた、どっぷりと疲れていた。
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