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ep.52 合宿4

 第二学年 八月八日 日曜日

 小豆島内某所 山中の道場 


 この日は早朝から道場で体術を主とした練習であったが、はしゃぎ過ぎて寝不足な一文字は正直、鍛錬どころではなく、「気合いれる!」と、相手をしてくれている熱血おやじにどやされながら、ふらふらと練習を潜り抜けていた。


 そんな一文字の横で束ねた髪を揺らしながら佐那が懸命に練習している。

 正輝は昨日のことを考えていた。


(佐那が望むなら・・・)


「何、ぼーっとしてんねん、次、白山やで」

 相手をつとめる永嶋の促す声に正輝は、ハッと稽古場に引き戻された。


 清らかな考え事を汚い声に遮られて正輝はムッとして思わず永嶋を睨みつけようとした、


(睨みつけたりして人をむやみに威嚇しないこと)


 とっさに正輝は引き攣った満開の微笑を送る、受け取った永嶋は正直気持ち悪かった。



「それでは稽古はここまでにしましょう」

 師範・哲彦が言うや、道場生達は稽古を止め、素早く一列に座した。


 哲彦は皆が並び終えたことを確認すると、張りのある声で話し始めた。

「私が常日頃から繰り返しているので、多くの人は聞き飽きたかも知れませんが、あえて、ここでもう一度話をさせて頂く」


 一呼吸おいて、哲彦は続ける。

「皆さんが今日ここで鍛錬した合気道は武術です。

 これは誰かと競い合うためのものやなく、自己を研鑽するためのもんであり、その上で、不慮の事態において己を守るための力とするもんやと私は考えています。

 今まで合気道に取り組む中で合気道は本当に強いのか?と問われることが何度もあります」


 ここで再び一呼吸を哲彦はおいた、


『合気道は強いのか?』


 一文字だけでなく正輝もこの疑問は常に抱いていたので思わず次の言葉に吸い付けられる。

 いや、大方、武術に関心のある者であれば、あれが強い弱いのと優劣を意識してしまうのは自然の成り行きであろう。


「そう問う者に私はまず聞きたい、君のいう強さとはどういったものなのかと?

 試合で勝つことなのか、喧嘩で勝つことなのか?

 素手なのか武器を持つのか?一対一なのか対複数なのか?

 戦う場は林なのか、岩場なのか?体調などは考慮するのか?

 直接的な武力の衝突を強さとするならば、その優劣などは状況次第で如何様にも変化するものであり、各自が戦いの場を想定した上で自分が納得出来るものが強いというしかないでしょう。


 裏を考えてみましょう、技も力量も同一の者が同じ環境下で戦っても時々で変動的な勝ち負けが生じるものです、ましてや異なる武術の優劣を競うことに意味などありません。


 また、強さとは直接的なものだけでなく、人間としての強さというものもあります。

 私はこの人としての強さこそ、生きていく上で重要となってくると思います。


 これさえも概念は多岐に渡り、個人個人が求めていくものであります。

 そんな中で合気道は数ある自己研磨手法の一つに過ぎないというのが最も正しい認識といえるでしょう。


 最後に付け加えますと、例えどのような名刀を手にしようとも、扱う者が未熟であれば、それは事を成す力とはなり得ないということを覚えておいて頂きたい」


 師範・哲彦のこの言葉と道場の掃除で、合宿は終わりを迎えたのであった。


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