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ep.51 合宿3

 夜、正輝の目の前では、一文字と永嶋が畳の上に寝そべり、堕落した様子でテレビの相手をしている。


 永嶋は流行りのドラマを見ようとしていたが、それを邪魔するためだけに一文字は執拗に興味も無い料理番組にチャンネルを合わせていた。

 永嶋が本気で嫌がれば、嫌がるほど一文字は喜びに満たされる。


 正輝は思う、ここまで来ればもはや愛やなと、


 そんな光景も見飽きたので、正輝はタバコを吸うため外へと繰り出した。

 夏とはいえ、新緑に包まれた夜は、どこか寂しく、涼やかであった。


 旅館の傍らを流れる川のほとりに行くと、そこには一人で黙々と木刀を振り続ける佐那の姿があった。


「お前、一人でこんな所で何やっとんねん?」

 近づきながら声を掛ける正輝に気付いた佐那は、息を乱しながら正輝のほうに顔をむけた。


 月の光で照らし出された白い頬には黒髪が汗でしがみついている。

 それを細い指でかき上げながら、佐那は言った。


「あ、正輝君、せっかくいい景観やし、何もせえへんのがもったいない気がして、」

「なんや、佐那は意外と貧乏性やな、」

「うん、せやね、自分に与えられたええもんは、最大限活かしたいやんか」

「なるほどな、」

 正輝はもっともらしく応じた。


 月の光とザアザアと流れる川音があたりを包む、自然という名の懐の中で二人は立っていた。

 川風が佐那の髪と袴を揺らしている。


「正輝君はどないしたん?」


「お、俺?」


「タバコを吸いに来ました」

 とは言えず、言い訳の種を探したが、いい物が思いつかず、ありきたりだが気分転換の散歩ということにした。


「そうなんや」

 と応じた佐那は、木刀を月で照らしながら興味深げに眺めはじめた。


 その行動にいったい何の意味があるのか正輝には理解できなかったが、その仕草は妙に美しく正輝の瞳には映った。


 ふと問いかけた。

「佐那は、俺にこうしてほしいとか、そんなんあるか?」

「え?」

 困惑する佐那に、自分でも「俺、何言ってるねん?」と思いつつも、必死に言葉の意図を伝える。


「いや、だから、俺に対してお前が思う、こうした方がええとかいう注意点みたいなもんあったら教えてくれ、ほら合気道の先輩として何かあるやろ、」

「正輝君の注意点?う~ん、急に言われても・・・」

 曲げた人差し指を薄い唇にあてながら、佐那は真剣な表情で考えこんでいる。


(我ながら、どうかしている?)

 そんな気がして、気恥ずかしくなった正輝は、太い腕で頭を掻きながら慌ててフォローを入れる。


「まあ、俺は完璧やろうから別に無理にとは言わんけどな」


「じゃあ、三つだけ」

「三つもあるんかい!」

「ご、ごめん・・・」

「ええって、それより正直に言ってくれや」


 そう言って微笑んだ正輝につられるように佐那は微笑み頷いた。


「一つ、煙草をやめること」


 正輝はここに来た理由を見透かされた気がして、ポケットに手を突っ込み煙草ケースの膨らみをごまかした。

 くしゃっと音がした、余計に胡散臭い気がして変な汗が出たものだ。


 そんな正輝の様子に気付いているのかいないのか、佐那はマイペースに続ける。


「一つ、睨みつけたりして人をむやみに威嚇しないこと」


「一つ、これからもみんなで一緒に合気道に取り組むこと」


 ザアザアと響き渡る川音の中で、正輝は静かに誓った。

「お前が望むなら、そうしよう」と、


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