解決編!
「さあ、解決編のお時間ですよ!」
ビシィッと言ってやった。
―――ああ、快感!
まだ現実が受け入れられず、魚のように口をパクパクさせているダミアンに向かって、問いかける。
「策略がどうこうと仰っていましたが。策略って、ラフレモーサを毒化させると言う、子供だましのアレの事でしょうか?」
ダミアンの顔が怒りで真っ赤に染まった。
「クレメンス。どうして貴方がラフレモーサを探していたのか、ダミアンに教えて差し上げて」
クレメンスが結構強めに睨んできた。
―――ううう。ごめんよぉ。
「コホン。ライラティーヌ様からのご依頼です。借りを返したければ、ラフレモーサを持ってこい、と」
「はぁ?!」
ダミアンが素っ頓狂な叫びを上げる。
本物のライラティーヌ分の貸し一つ。
それをここで使わせて貰ったのだ。
「と、言う事ですので、ラフレモーサが毒化していても、何の問題もなかったのですよ」
ペロッと舌を出してウインクしてみせる。
「ばっ、馬鹿な! 何故マニュエルに使わん? 父親が死にかけているんだぞ?」
「その件ですが……」
両手をごめんなさい、のポーズにして、てへぺろした。
「単なる過労だったみたいです。わたくし心配しすぎちゃってて、ごめんなさい」
「なっ!? だがマニュエルは死んでるじゃねぇか! 貴様が父親殺しなのは変わりがない!」
床に転がるグラスを指差して、唾を撒き散らしながら訴える。
「ああ。マニュエル様、もう良いですよ」
声をかけると、
「ふぅ。長すぎます」
と言いながら、マニュエルが起き上がった。
「なっ?!」
「父上?!」
驚声は二つ。
ダミアンとクレメンスだ。
「肩が凝りました」
「完璧でした! お疲れ様です」
首を回すマニュエルを笑顔で労う。
「いやはや。紫の茶を飲んだら死んだフリをしろ。何があっても決して動くな、と言われた時は余興か何かかと思いましたが、まさかこんな事態になるとは」
「疑問を持ちつつも全力の演技。流石ですわ」
「恐縮です」
マニュエルは恭しく一礼すると、ダミアンに対峙した。
「き、貴様。病ではなかったのか」
「さて? 少し胃が痛みますな。何せ気苦労の多い職場なもので」
「くっ」
策略の全てが、ライラティーヌの手の平の上だった事を漸く理解できたようだ。
ダミアンが肩で息をしながら、血走った目で睨んでくるが、最早打つ手はない筈だ。
だが、ダミアンは大きく息を吐くと、無理やり貼り付けた様な笑顔を作った。
「仮に貴女が言った通りだとしよう。だがそれは罪か? 私はただラフレモーサの噂をクレメンスに伝えるように指示しただけだ」
そう言い逃れしてくる事は分かっていた。
それを言わせない為に、相当な危険を冒したのだ。
「確かにそれだけでは罪には問えませんね。でも忘れてはいませんか? わたくし襲撃を受けたのですよ? 領主一族の殺害未遂。これは極刑に値します」
「私がやったという証拠はないだろう」
「それは無理筋じゃありません?」
ライラティーヌはペロリと唇を舐めた。
ドアの側で傍観するタンストンに微笑む。
「言い忘れましたが、アヒムとわたくしはお友達なのです」
「! ……ふん。私に罪を着せようとする輩は五万といる」
「先程まで気持ちよさそうに披露していた自白はどうするつもりですか?」
「お前達が口裏を合わせているだけの話、という事になるな」
この線で逃げ切れると自信を取り戻したのだろう。
ダミアンは落ち着き払って、こちらを見返して来た。
「嘘を見抜く魔術具はどう切り抜けますか?」
「そう言えば、最近また窃盗が起こっているらしいな。城の護りも強化しておいた方が良い」
「成る程」
ダミアンは身体を二つに折って、笑い始めた。
「くくく。惜しかったな。だがその手は私には届かない。所詮は小娘の浅知恵なんだよ、ばーか!」
ライラティーヌは悔しさで肩を震わせ……
てるわけじゃなかった。
余りに予想通りすぎて、馬鹿らしくなってきたのだ。
―――うーん。もう聞き逃した事はないかな。あ、大事なのを一つ忘れてた。
「最後に一つ教えてください。ヘルマン兄様は今回の件をご存知なのですか?」
ヘルマンの関与は大事な確認事項だ。
出来れば言質を取っておきたい。
「ふん。このような事、事後報告で十分だ」
―――ちっ。残念!
出来れば共倒れにしたかったが、仕方ない。
まあ、アーレントを失脚させれば、どうせヘルマンには何の力も残っていないのだから問題はないのだけれど。
全てを聞き終えたライラティーヌは、会話を投げ捨てた。
「もう十分です」
「何を?」
ライラティーヌは足元に転がっていたサーベルを、足で弾いた。
クルクルと宙を舞うサーベルを片手でパシッと受け止めると、そのまま切先を突きつけた。
「終局です。負けを認めて投了して下さい」
ライラティーヌは最強の一手を召喚した。
ヨアヒムとコンラーディンが、忽然と現れた。
その瞬間、全てが決した。
「ヨアヒム様?!」
「コンラーディン様?! そのお姿は!」
ダミアンだけでなく、タンストンやマニュエルも驚愕の表情になった。
そんな中、立っているコンラーディンを見てクレメンスが一人、ズレた驚き方をしていた。
どこまでもコンラーディンしか目に入っていないらしい。
コンラーディンは、口元に人差し指を当てて、悪戯っ子のように片目を瞑ってクレメンスを黙らせた。
そう、今はそんな場合ではない。
全員の視線が、突然現れた最高権力者、ヨアヒムに注がれた。
「ダミアン。残念だよ」
領主の怒りに震える一言が、ダミアンの破滅を告げる一言だった。
ダミアンの全身を震わせているのは、怒りか、絶望か、羞恥か。恐らくその全てだろう。
ライラティーヌはついと一歩前に出た。
「貴方の一番の敗因は、今日ここに来た事ですよ。いつものように手下にやらせれば言い逃れも可能でしたのに、のこのこやって来るなんて。自己顕示欲もここまで来れば愚かですね」
「黙れ! それはお前が……!?」
そこまで言って、ハッとした顔になった。
そして、ワナワナと真っ赤な顔で睨み付けて来た。
「そう。わたくしが、ですよ」
「貴方を此処に自ら来させる為に、わざわざクレメンスに手柄を上げさせたのですよ」
「!」
クレメンスも目を白黒させている。
骨の髄まで利用してごめんなさい。
「子供の挑発に乗って、こんな所まで来て。うふふ。見下していた相手から手の平で転がされていたと知って、どんな気持ちかしら?」
「くっ。……殺してやる」
「まあ楽しみ。でも残念。貴方の行く先は処刑台です」
腕を組み、深めた笑顔で凄んだ。
言ってやりたかった一言を投げつける。
「碁打ち相手に読みの勝負に勝とうなんて、千年早いですわ」
こちらに転生して約一年。
時間はかかったが、これでやっと決着だ。
―――仇は取ったよ『ライラティーヌ』。
「碁打ちを舐めないで下さいませ! 百回死んで消えちまえ!」




