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解決編のヴォルデマール

 転移した先は、穏やかな庭園の中だった。


 遠隔式ジオルレイドの存在はヴォルデマールの命に直結している。

 いくらフォルクハルトでも、カラクリを知られる訳にはいかなかったのだ。


―――私の一存で人に教えていい事柄じゃないよね。


 まだ耳にフォルクハルトの吐息が残っているような気がした。


 パンパンと両手で頬を叩いて気合いを入れる。


 ここからが、最終局面だ。



――――――――――



 出た先は、小さな部屋だった。


 先日ゲルドゥヴォルが置いてあった、あの部屋だ。


「来たか」


 隣部屋に続くドアからヴォルデマールが姿を表した。


「……なんだ、その格好は」

「ちょっと襲撃に遭いまして。こんな見た目だけど無傷です」


 服の切れ目をペロンとめくって見せ、お腹を見せる。


「無事なら良い。見苦しい。さっさとしまえ」

「はぁい。……みんな揃っていますか?」

「ああ」


 ヴォルデマールが隣部屋に続くドアを大きく開いた。

 ドアの向こうに、呑気にお茶を楽しんでいる一行の姿が見えた。


 フェーベにハムドルト。コンラーディンにヨアヒムの四人だった。


 四人とも騎士団の制服を着込んでいる。


「お父様、よくお似合いですわ!」


 駆け寄ると、全員が驚いて腰を浮かした。


「ライラティーヌ! その姿はどうしたのだ?!」

「襲撃を受けました。回復薬を飲んだので、今は無傷です」


 またお腹を見せると、コンラーディンが頭を抱えた。


「襲撃だと?!」

「賊はフォルクハルトが無力化してくれました。今は森です。その内連行されてくるでしょう」

「森?」


 フェーベとハムが目を三角にした。


「この馬鹿主人! ラフレモーサ採りに行きやがったな、こんにゃろう!」

「我々にヨアヒム様のお忍びの手伝いをさせたのは目眩しだな!」

「何が、騎士に化けるんですから本物の騎士が一緒じゃないと~だ、今日という今日は許さんぞ!」


 すごい息の合いようだ。

 二人のキレ技に磨きがかかってきている。


「まあまあ、そんな事より」


 ライラティーヌは全員の目を順に見た。


「ハムドルトとフェーベは騎士団に戻り、サイフォン邸を包囲して下さい」

「サイフォン?」

「わたくしを襲撃した首謀者がそこにいます」

「まさか!」


 腰を浮かしたのはヨアヒムだった。


「マニュエルやクレメンスに限って、そんな事はあり得ない!」

「その二人ではありません。と言うか、まだ犯人もそこにはいません」

「どう言う事だ」

「詳しくは後で説明いたします。今は時間が惜しいのです。フェーベ、包囲する時間は23時です。間違ってもそれより先に騒ぎを起こさないで下さい。相手に気取られては困ります」

「はっ!」


 足早に立ち去ろうとする二人の背中に忠告する。


「騎士団も一枚岩ではない事をお忘れなく」


 ライラティーヌは残った三人に目を這わす。


「さて、わたくしは今から首謀者を捕らえに行きます。同行して下さいますか?」


「騎士団を待つのではないのか? 騎士が居なくてどうやって捕縛するのだ」

「大丈夫です。大立ち回りにはなりません。もしなったとしても、相手よりわたくしの方が強いです」

「なんと」


 信じられない、というようなヨアヒムに、ヴォルデマールが太鼓判を押すように頷いた。


「魔術込みで正面から戦えば、相手が誰であれライラティーヌが負ける事はないだろう」

「とても信じられませんが、ヴォルデマール殿が仰るならそうなのでしょうな」


 正確には『負ける事はないが勝つ事もあまりない』のだけれど。まあ細かい事はどうでも良い。


 しぶしぶ了承したヨアヒムを急かして、隣部屋に移動する。


「これはジオルレイド?」

「はい。これに入ります」

「入る? 失われた魔術具の筈だ」

「ですから、騎士の二人を帰らせたのです。これはわたくしの絶対の秘密です。どうか今夜が過ぎれば、忘れて下さいませ」


 コンラーディンがヴォルデマールに向かって首を傾げた。


「ヴォルデマール殿もご一緒なさるのですか?」


 みんなの視線がヴォルデマールに集まった。


「いえ、ヴォルデマールさんは使いっ走りです。地味に重要な役割ですよ」


 ヴォルデマールが思いっきり、不愉快を顔に貼り付けた。


 ライラティーヌはジオルレイドを起動する。


「時間が惜しいです。詳しい説明は中でしますから、取り敢えず入りましょう」



――――――――――



 誰もいなくなった室内で、ヴォルデマールは一人盛大なため息を吐いた。


「まったく、嵐のような娘だ」


 三人が入ったジオルレイドを持ち、一階の掃き出し窓から庭に出る。


 いつの間にか、雨が降り出していた。

 まだそれほどでも無いが、もう少ししたら本格的に荒れてくるだろう。


 雨除けの外套を羽織り、庭を進む。


 ヴォルデマールの館は、サイフォン邸と背中合わせに隣接している。


 二つの庭を分ける生け垣は、いつの間にかご丁寧に一人が通れる程の穴が作られていた。


「まったく、人の庭に断りもなく」


 生け垣の隙間を通ると、サイフォン家の庭に出た。


 生け垣に触れて濡れた肩口を忌々しげに払う。


「この貸しは大きいぞ。まあ、だがお手並み拝見と行こうか」


 庭を進み、屋敷に入る。

 屋敷ではクレメンスが待ち構えていた。


「こんな場所からすまぬ」

「いえ。こちらこそライラティーヌ様の我儘に付き合わせてしまい、面目ございません」


 勧められた茶を辞して、手短に要件を伝える。


「ライラティーヌから預かった物だ」


 ジオルレイドと小さな小瓶を手渡す。

 中には紫の液体が入っている。


「万能薬だと言っていたが」


 クレメンスは瓶の蓋を開けて匂いを嗅いだ。

 そして顔を顰める。


「お茶ですね。ライラティーヌ様特製の」

「ああ、あれか。ハーブティーを万能薬とは、大きく出たものだ」

「まったく、何を考えてらっしゃるのか。とにかくこれを父に飲ませれば良いのですね」

「で、あるな。茶なら急いだ方が良いだろう。香りが逃げる」

「はい。届いたら直ぐに飲ませる様にと言われています。……それは?」


 キャビネットの上に置いたジオルレイドに視線で指す。


「今夜一晩ここに置かせてくれ、という事であった。丁重に扱えよ。落として割れたりすれば、冗談ではなくカロリングが滅ぶぞ」

「……その様な物、城で護るべきでは」

「文句ならライラティーヌに言うが良い」


 懐中時計を見る。

 そろそろ時間だろう。


「兎に角、コレの側でハーブティーを飲ませろ。それがライラティーヌから預かった伝言だ」


 口にするのが嫌になる程、意味不明な内容だ。

 この様な台詞を言わせたライラティーヌを恨めしく思う。


「茶の効能を上げる魔術具か何かでしょうか」

「知らぬ。私はもう失礼する。其方はさっさと茶の用意でもするが良い」


 大股で庭を縦断しながら、ヴォルデマールは舌打ちした。


―――まったく。私をこんな裏方仕事を押し付けるなど、あの娘くらいの物だ。これで満足か、ライラティーヌ。

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