↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/92

解決編のフォルクハルト

 数刻前。


 森。


「お前も騎士だろう。志は何処に捨てた」

「騎士としては僕の方が先輩だよ」


 フォルクハルトが剣を構えた。

 緊張を孕んだ空気を、風が運ぶ。


「ちょ、ちょっと待ったぁ! アヒムもフォルクハルトも、こんな事をしている場合じゃないですよ!」


 死んだふりをしていたライラティーヌは、大慌てでぴょこんと起き上がった。両手を振って、二人を止める。


「ライラティーヌ様!」


 フォルクハルトがフリーズした。

 ドッキリ大成功――と叫びたい気持ちをぐっと抑える。


「はい。ライラティーヌです。この通り生きています」


 力こぶを作って見せる。


―――やったよ、やった! 今回一番の難所を乗り切ったよ! 私頑張った!


「駄目ですよ、フォルクハルト。死亡の確認はちゃんとしないと」


 テンション高く、ピンと指を立てて、偉ぶって注意なんてしてみる。


「すみません。って、いやいや! どういう事ですか?! 剣を突き立てられていましたよね?!」

「はい。とても痛かったです」


 恨みを込めて、じろ――っとアヒムを睨みつける。


「す、すみません。でも、そういう段取りで……」

「その前に背中をバックリやったでしょう。あれは余計だったのでは?」

「あ、あれは、ライラティーヌ様が勝手に動いたからで……」

「だって、フォルクハルトが短剣を投げようとしてたんですもの。ああでもしなきゃ、アヒムは殺されていましたよ。ね? フォルクハルト」


 振り仰ぐと、フォルクハルトが魂の抜けたような顔で立ち尽くしていた。


「ね、フォルクハルト。アヒムを狙ってましたよね?」


 下から覗き込んで、何とか視線を合わせる。


「おーい。フォルクハルト、戻っておいで――」


 呼び掛けて、どうにか覚醒させる事に成功した。


 フォルクハルトは、前髪を掻きむしる。


「……つまり、なんですか? アヒムとライラティーヌ様はグルって事ですか? 死んだのは狂言だと」

「そうです」

「騙して申し訳ない」


 二人揃って頭を下げる。


「……制圧出来る状況だったにも関わらず、無理に飛び出したのは、殺される為だったと?」

「ほら! やっぱりアヒムを狙ってたでしょう。アヒムを護らなきゃと思って。それに制圧されちゃったら、計画が台無しですからね。頑張って飛び出してみました!」


 自分の創意工夫を誇るように、どーんと胸を張る。


―――私の演技力も中々じゃない? うふふ。……ん? 何が物凄い悪寒が……。


「成る程。すっかり騙されました」


 笑顔全開だ。


―――怖い! コンラーディン兄様みたい! 氷の笑顔だ!


「それで? 何の為にこんな事を?」

「はっ! そうでした! こんな事してる場合ではありません。急いでクレメンスの所に行かなくては」


 立ち上がると、服の惨状が目に付く。

 大きく切り裂かれ、血で赤く染まっている。


 まあ、半分は血糊なんだけど。


 地面に散らばる死体を確認する。


「一人は無事に逃げ出しましたね」

「はい。ダミアンへ報告に向かっています」

「完璧です」


 ライラティーヌはフォルクハルトに向き直り指示を出す。


「そこの二人はまだ息があります。回復させて連行して下さい。大事な証人です。絶対に死なせないように」


 ぽぽいっと回復薬を投げ渡す。


「一人で行くつもりですか?!」

「時間との勝負なのです。一人で参ります」


 ライラティーヌは歩き去ろうと足を出す。


「詳しく説明できなくてごめんなさい。後で必ず、説明しますから」


 数歩進んだ時、後ろから温もりに包み込まれた。


―――え?


 バックハグだ。


―――ええええ?! このタイミングで何モード?!


「え、えっと、フォルクハルト?」

「止めません。私を連れて行けない理由があるのですね」

「……ごめんなさい」


 フォルクハルトの吐息が耳にかかる。

 ぎゅうっと、抱きしめる腕の力が上がった。


 力強く。でも宝物を抱くように、愛おしげに。


 作戦成功でブチ上がっていたテンションが急に萎み、現実を突き付けてきた。


 これほどに大切に想ってくれているフォルクハルトを、騙す様な真似をしてしまった事に胸が痛んだ。


「……生きていてくれて、ありがとうございました」


 やっと耳に届く程の、震える声だった。

 どれほどの喪失感だったのかを、その声が伝えてきた。


「……本当ならこの役目はゲルルフ団長が適任でした。彼なら計画を知っても演技が出来たでしょう。ですが、わたくしが夜の森に行く時、同行するのはフォルクハルトでなければ不自然過ぎたのです」


 ライラティーヌは言葉に嘘がないか、自分の心を確認した。少しだけニュアンスが違うような気がした。


「いえ、……フォルクハルトでなければ、嫌だったのです。貴方の気持ちを蔑ろにしてしまって、ごめんなさい」


 この大一番に側にいて欲しいのは、他の誰でもなく、フォルクハルトだったのだ。


 腕の力が緩み、身体が離れた。

 後ろから、フォルクハルトの手がそっと肩に置かれた。


「貴方の一番の騎士になる為には、腹芸を覚えないといけませんね」


 微笑みを含んだ、優しい声が髪に降ってきた。


「フォルクハルトはそのままでいて下さい。貴方の胸の内を探らなきゃいけない日々なんて、考えただけで涙が出ます」


 ライラティーヌは一歩前に出た。


 肩から、フォルクハルトの温もりが消えた。


「いってきます」


 振り向かなかった。

 背中越しに、フォルクハルトに告げる。


「貴方は今でも十分、わたくしの一番の騎士です」


 次の瞬間、ライラティーヌの姿が掻き消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。