↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/92

別件逮捕~マルコ視点

 何故こいつが……。


 入室してきた人物を見て青ざめる俺の隣で、店主が揉み手で立ち上がった。


「これはリィン様ではありませんか。成る程、リィン様が担当となられれば、我らも気が抜けませんな」

「うふふ。これ以上ない人選でしょう?」


 得意げに微笑むライラティーヌ様の奥で、リィンは戸惑った風で瞬いている。

 一瞬、目があった。

 相変わらず辛気臭い女だ。舌打ちしくたくなるのをグッと堪えた。


―――何故お前如きが、ライラティーヌ様の隣にいるんだ!


「ライラティーヌ様、これは一体?」

「リィン。取り敢えず座って下さい。長い話になりますから」


 リィンは戸惑ったように、俺の方をチラチラと気にしながら、席についた。


 リィンはライラティーヌ様に、何処まで話しているのだろう、と考えて馬鹿らしくなった。

 全てご存知だからこそ、今日自分は呼ばれたのだ。


 くそっ。沙汰を言い渡される被告人の気分だ。


「それではリィン様は、平民街に通われるのですか?」

「いえ。リィンは工房の跡取りとの婚姻が決まりましたの」

「なんと! それはおめでとうございます」


 青天の霹靂とはこの事だ。

 リィンは俺を気にしつつも、柄にもなく頬を染めて幸せそうに微笑んでいる。


―――なんて女だ。俺と別れてからまだ数ヶ月しか経っていないのに。


 自分の事は棚に上げて憤慨していると、ライラティーヌ様と目があった。

 その瞳が弓なりに笑った。ぞっとするような深い微笑みだった。


「わたくしも、今回のお話が纏まってとても嬉しく思っています。ここだけの話ですが、リィンはひどい男に遊ばれて、捨てられたばかりでしたの」

「ラ、ライラティーヌ様!」


 慌ててリィンが止めようとしたが、ライラティーヌ様は気にも止めない風情で肩を竦めて見せた。


「あら、本当のことでしょリィン」

「それはそうですが。今は幸せですので。過去のことはもう」

「いいえ!」


 話を逸らそうとしたリィンに向かい、ライラティーヌ様はピシャリと声を堅くされた。


「今が良いからと言って、過去の理不尽を許してはいけません。リィンが許しても、わたくしは女の敵を許すつもりはありません」


 ライラティーヌ様は、もう取り繕うことなく、真っ直ぐに俺を見据えて来た。

 背筋に冷や汗が流れるのを感じる。

 生唾を飲み下す音が、室内に響いた。


「マルコ、お前まさか!」


 その様子で、店主も気付いたようだった。

 次の瞬間、思いっきり頬を殴られた。

 

「馬鹿野郎! リィン様はお貴族様だぞ! 少しばかり顔が良いからと言って調子にのりやがって!」


 椅子から転げ落ちた俺の前に、リィンが躍り出て来た。両手を広げて庇う姿勢で叫んだ。


「おやめ下さい、ブランジェさん! マルコではありません。ライラティーヌ様は勘違いなさっているのです」

「勘違いじゃありませんよ」


 そんな修羅場が、まるで見えていない様に、ライラティーヌ様は優雅に一口、お茶を口にして、艶然と微笑んだ。


「結婚して平民となる夢を見た。それは相手が平民だったと言うことです。加えてリィンには定期的に艶々に輝く日があったでしょう? 定期的に貴族街にやってくる平民なんて、納入業者以外ありませんよ」


 ライラティーヌ様はにっこりと微笑むと、店主に向き直った。


「ブランジェさん。ここからは聞かない方が良いお話だと存じます。別室を用意しましたから、そちらでお待ち下さい」


 まだ怒りの収まらない店主は、肩で息をしながら出て行った。


「さて。先程も言いましたが、わたくし女の敵を許す気はございません。本来なら不法投棄罪で裁きたいところですが、私怨はいけませんね」


 当然だ。女を捨てて不法投棄罪など、聞いた事もない。


「ですから、残念ですが別件逮捕します」

「なっ?!」


 思わず腰を浮かしかけ、いつの間にか背後にいた騎士に肩を押さえつけられた。


「お待ちください、ライラティーヌ様。別件逮捕はいけません。法を乱せば、領が乱れます」


 後ろに控えていた、眼鏡の貴族が苦言を呈した。

 貴族の中にも常識的な人間はいる様だ。

 ほんの少し安心しかけたところに、ライラティーヌ様が驚愕の一言を放った。


「罪の捏造なんてしませんよ。罪状は連続窃盗罪。件の犯人はマルコなのですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。