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クレメンスの報告

「ヨアヒム様に騎士団の制服を贈られたそうですね」


 クレメンスは開口一番、呆れ声を出してきた。


「何故、その様な物を贈られたのですか」

「何故って、格好良いでしょう。わたくしの分も欲しかったのですが、サイズがなかったのです。残念です」

「当たり前でしょう。貴方はまだ八歳ですよ」


 言ってから、クレメンスは顔を顰めた。


 どうも、沙夜の存在を知ってから、クレメンスはライラティーヌに対する態度を決めかねている様だった。


 八歳の少女として扱うか、成人した大人として接するべきか、迷っている。


―――面倒くさいな。これだから頭の硬い奴は。


 頭の硬さならフォルクハルトも負けていないが、恐らく真実を告げても、フォルクハルトの態度はそう変わらないと思えた。


 何故なら、フォルクハルトは今までだって、ライラティーヌを子供扱いしてこなかったからだ。護るべき対象としての過保護さはあるが、ちゃんと一人のレディーとして接してくれている。


「わたくしが誰に何を贈ろうと、クレメンスにとやかく言われる覚えはありませんよ。ちゃんと考えがあって贈っているのですから、口出し無用です」


 小姑みたいなクレメンスを黙らせてから、ライラティーヌは椅子に深く座り直した。


「そんな事より、報告をしに来たのでしょう。見せてくださいな」

「……分かりました。まずは、頼まれていた貴族街の盗難事件の詳細です」


 受け取った書類に目を通す。

 盗難が発生した日時、被害者、盗まれた物などが、リスト形式で記載されていた。アンヌの実家のバント家の名もあった。


 被害は全部で七件。同じ日に起こったものも複数あった。

 犯行は七日おき、風の日に行われている。

 七という数字が好きな犯人なのかもしれない。


 最後の犯行はカシミール家。

 こうしてみると、本当に亜貴族ばかりが狙われている。被害者の中で亜貴族でないのは、五件目の被害者のライナーだけだった。


「このライナーという方はお一人で住まれているのね」

「はい。城の文官ですね」


 亜貴族のエリアにも、早くに家を出た准貴族が一人で住むと言う話を思い出した。ライナーもそんな一人なのだろう。


 ライラティーヌは呆れた気分で、書類をテーブルに投げた。


「どうしてここまで分かっておきながら、逮捕できなかったのかしら」

「最初の三件までは、被害にあった事に気付くのに時間がかかったようです。被害額も少なく、部屋も荒らされていなかったそうです」


 確かに、回を重ねるにつれ、被害額が上がっている。

 慣れてきて調子に乗ったのだろう。アンヌの実家は三件目だ。被害は少ない方だと言えた。


 それでも香炉まで盗られているのだけど。

 

「次に、プリザーブドフラワーの事業に関わる業者の資料です。製造は平民の工房を使いますが、販売は貴族が行う予定です」

「取引相手は貴族ばかりでしょうから、最初はその方がスムーズでしょうね」


 資料には試算も載っていた。販売価格は、決して安くはない。


「税金とは別に、利益の一割がカロリング領に、一割がライラティーヌ様に入ります」

「わたくしにですか?」

「新技術を考案されたのですから。当然ロイヤリティーが発生致します」


―――わお! 不労収入をゲットしてしまった! 


 まさかこの世界に、特許の概念があるとは期待していなかった。


 思いがけない良いニュースに、自然と口元がニヤけた。


―――逃亡後も何か特許をとれば、お金の心配をせずに済むんじゃない? また一つ懸案事項が減ったよ。ふんふーん。


 パタパタと足をバタつかせて、鼻歌を歌っていると、クレメンスの白けた瞳とぶつかった。


「こ、こほん。続けて頂戴」

「はい。販売には新たに商会を作ります。こちらはクラウディア様のご実家が請け負って下さいました」

「お母様の? 上級貴族じゃないですか」

「実際に動かれるのは、准貴族のドラゴ様です。ライラティーヌ様の従兄弟に当たります。それから、そろそろ職人に対して実際の作り方の講習会を開いて頂きたいのですが」


 作り方はマニュアルにして既に渡してあるが、一度実際に使っているところを見たいのだそうだ。


 断る理由もないので快諾する。


「分かったわ。いつでも構いません。日程が決まったら教えて頂戴。どうせなら、素材業者も呼んではどうかしら?」


 花の脱色に使う液体は、少し変わった抽出方法をするので、素材を選定する上でも知っておいて損はないと思う。


 そう告げると、クレメンスは堅く首を振った。


「製造の方法を、職人以外に教えるわけにはいきません。商人の口は軽いのが常です。それゆえに業者の選定が難航しているのですから」

「それなら、工房が直接仕入れればいいのでは?」

「工房は通常カロリングの素材店から仕入れています。独自で仕入れるとなると、伝手を持ちません」

「成る程ねぇ」


 ライラティーヌは素材店の資料を読み込んだ。

 従業員の家族構成に至るまで、とてもしつこく、もとい、丁寧に調べられている。


 確かにどんな素材を納入しているかで、製造方法がある程度類推できる。特許で守られているとは言え、製造方法が漏れるのは面白くない。


―――信頼できる業者か。前世ならネットで調べればある程度分かるんだろうけど。うーん。この世界じゃ噂話に頼る他ないのよね。でも私全然人脈ないんだけど。あ、良い事考えた。


「直接本人に聞いてみましょう」

「はい?」

「この方から話を聞きたいので、呼び出してください」


 ライラティーヌはニマニマする口元を押さえながら、リストのある名前を指さした。


「それから、これが一番大切な事ですが」


 ピッと人差し指を立てる。


「この工房に、独身のイケメンは居ますか?」

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